昨今、クリハラリス(以下、タイワンリス)が、鎌倉エリアをはじめとする横浜・川崎・横須賀エリアで増えており、生息地の拡大による被害も懸念されている。
こうした中、東日本電信電話株式会社 神奈川事業部(以下、NTT東日本)は、タイワンリスの生息状況調査の省力化を図るため、鳴き声AI解析による識別調査を実施した。
これまで、NTT東日本においても、ケーブルが破損されるなどの被害を受けており、電話やインターネットの使用が不能になる事態が発生しているのだという。
現在、神奈川県では、新規エリアでタイワンリスが目撃されると、担当者が生息状況を調査し、罠を設置して捕獲・駆除する対策を実施している。しかし、現地調査の負担が大きいという課題がある。
そこでNTT東日本は、録音した鳴き声をAIで検知し、生息状況や範囲を特定する方法を開始した。これにより、人の目視による現地調査の削減と捕獲までの省力化を目指す。
調査はこども自然公園にて、2024年2月19日から3月29日まで行われた。ボイスレコーダを公園内の5か所に設置し、鳴き声を収集した後、AIで音声を解析した。そして、実用化に向けた検証やデータ蓄積・課題抽出、センサカメラ検知との比較を行った。
その結果、全ての設置場所でタイワンリスの鳴き声が検知された。特に、朝方と夕方に多くの鳴き声が検知され、この結果はリスの生態と一致している。また、晴れや雨が少ない日、または人が少ない平日には高精度で検知されたが、雨や人、ホワイトノイズなどの要因で誤検知が発生することもあった。
また、検知見逃し調査では、雨音などで人が聞いても見逃しの判断が難しい地点を除いた音声データから、無作為に110ファイルを選定し、人が音声を聞きAIが見逃した音声数を調査した。
その結果、AIが検知できなかった音声数は計11件で、ボイスレコーダから近い場所での発生数は1件、非常に音が小さく人が聞いても見逃す可能性が高い遠い場所での発生数は10件であった。
しかし、AIによる音の見逃しは運用における大きな障壁にはならないと判断された。
また、人が識別する場合は十分に訓練をした人でないと困難である、タイワンリスの鳴き声と類似している鳥の鳴き声を、AIでその識別が可能かどうか検証を実施した。
その結果、ボイスレコーダからリスが離れている場合や、鳥などと重なっている鳴き声も漏らさずに検知することができた。NTT東日本は、鳥とクリハラリスの識別は高精度で、実用可能なレベルだとしている。
デメリットとしては、センサカメラと音声AIの比較では、検知できる範囲が狭く、餌がなくなると検知数が激減してしまうため、継続的な調査は不向きであることだ。一方、音声は餌の有無による検知数の増減が少ないため、平準的な収集が可能なのだという。
今後は、今回の調査で得た知見と課題を改善し、タイワンリスやそれ以外の生態調査の省力化を実現するAIソリューションの提案拡大を目指すとしている。
無料メルマガ会員に登録しませんか?
IoTに関する様々な情報を取材し、皆様にお届けいたします。