PwCコンサルティング合同会社は、生成AIに対する認知や興味・関心、活用状況や今後の見込みなどについて調査したレポートを発表した。
これは、2024年4月3日〜8日に、売上高500億以上の日本国内企業や組織に属する、AI導入に対して関与がある課長職以上の従業員を対象に、WEBで調査したものだ。
生成AIの推進度などの現状
PwCコンサルティングは、同様の生成AIに関する実態調査を2023年4月と10月に実施おり、その調査と今回発表された調査を比べると、生成AIの活用や関心度は、2023年4月から10月の半年間では大きく上昇しているものの、2023年10月から2024年4月の半年間では高止まりしている。
また、他社事例への関心度は9割を超えていることから、半数近い推進中や検討中の層は、生成AIを活用したいと思ってはいるものの、自社での運用方法を模索していることが見て取れる。

生成AIへの期待に関しては、業界構造を根本から変革するチャンスは2割程度と伸び悩んでおり、足元の効率化や高度化への期待が半数程度を占めている結果となった。
一方生成AIへの脅威では、他社より相対的に劣勢にさらされる可能性がボリュームゾーンとなっている。
これに関しPwCコンサルティング合同会社 執行役員 パートナー 三善心平氏(トップ画)は、「多くの企業はまず、既存ビジネスの効率化や、競合企業に対する競争優位性の確保を求めている」とした。

業界ごとの推進度では、テクノロジーと通信が3回の調査で1位2位を独占している。
これに関し三善氏は、「生成AIの活用が社内だけでなく、生成AIを活用した社外向けサービスの開発を行なっていることが大きな理由だ」と述べた。
比較的順位が上がった業界は、サービス・接客業や公益事業、銀行や不動産などで、三善氏は、「サービス・接客業界は、顧客コミュニケーションに対する人的リソースの不足に生成AIが活用されていると見られる。」とした。
公益事業、銀行や不動産などに関しては、コーポレートを含めた社内業務の煩雑さに対して、生成AIの活用が進んでいるのではないかと三善氏は推察した。
一方、ヘルスケア事業や自動車・物流事業は2023年10月と比べると推進度が落ちている。これらの業界の共通点としては、フィジカルなオペレーションが伴うため生成AIに業務を移管しづらいといったことや、ハルシネーション(※)に対して許容できる業務が比較的少ないことだ。
※ハルシネーション:AIが実際には存在しない情報を生成したり、誤った情報を出力したりする現象。
こうした要因から、推進段階から検討段階に移行したと考えられる。

生成AIを推進する上で直面している課題に関しては、2023年10月からほぼ変わらず、「生成AI導入に向けてスキルを持った人材の不足」や「ノウハウがない」といったことが上位に挙げられていた。

生成AIの効果を実感している層の特徴
このように、業界ごとの推進度の違いや課題はあるものの、多くの企業が生成AIを活用し出している中、その効果に満足している層は半数以上である一方、期待を下回る層も2割程度存在している。

この差について三善氏は、「現状把握だけでなく、意思決定や施策検討までふみこんだ利用を検討している企業は期待を上回ることができている」と述べた。
実際、生成AIのポテンシャルに関して、業界構造を根本から変えるチャンスだと捉えている企業のほうが期待を大きく上回り、自社のビジネス効率化や高度化のチャンスだと捉えている企業は期待を下回っていた。

また三善氏は、「社内専用のLLM環境の構築に加え、そこからさらに業務特化の利用を推進しているといったことや、予算や経営リソースを大きく投じ、生成AIに対して業界構造の根本から変える可能性のある技術だと考え、経営アジェンダとして取り組んでいることも、期待を上回っている企業の特徴だ」とコメントした。
反対に、既存業務効率化のための技術だという認識のもと、予算やリソースを投じていない企業は期待を下回っている。
ガバナンス体制に関しては、企業横断で体制を整備している企業は期待を超えているが、部署内でとどまっている企業では期待下回る結果となっている。

ユースケースを起点にこの差の原因を見てみると、テキスト系のユースケースは情報検索や現状把握への活用は両層とも変わらないが、施策検討や意思決定にもテキスト系の生成AIを活用している企業の方が、期待上回ると答えている。
また、イラストデザインや画像の生成といった、テキスト系の生成AI以外も活用しているユースケースや、プロブラムコードの生成やカスタマーサービスの自動化・省力化、生成AIを組みこんだ新たなサービスの提供といった、開発や新規ビジネスに活用している企業は期待を上回る傾向にあった。

導入部署に関しては、全社活用に加え、コーポレートバックオフィスや顧客接点業務といった各業務に特化したユースケースに取り組んでいる企業の方が、期待を上回っていた。
期待を超えたまたは下回った理由に関しては、両層とも「ユースケースの設定」と「データ品質」が上位に挙げられている。このことから、企業内において、どの部門でどのような業務に活用するかを設定し、そのユースケースに対してデータを収集し、整えることが重要だということが分かる。

では、企業はどのような事柄を効果として捉えているのだろうか。ここでも、業回構造を根本変革を期待している層と、自社ビジネスの効率化に期待している層で分け、生成AIによる効果指標について問われた。
その結果、両層とも「社員生産性」と「工数・コストの削減」を上位2つに挙げているが、「売上や収益」「企業イメージやブランド力」と答えたのは、業回構造を根本変革を期待している層が多かった。
一方、自社ビジネスの効率化に期待している層は、「社員の生成AI利用率」を重要視していた。
このことから、利用することを目的とするのではなく、企業にもたらす価値にフォーカスして生成AIを導入している企業が、期待している効果を得やすいことが分かる。
生成AIを経営資源に据えた変革のために
調査から見えたトレンドに関して三善氏は、「企業は高い関心を持ちながら試行錯誤をしており、推進を緩める業界や積極的に進める業界の差が見え始めた」と、認知や興味関心がない時期を超え、理解した上でどう取り組んでいくかを検討している段階だとした。
その上で、生成AIを経営資源に捉え、経営や業務を変革することで、財務や人的資本の好循環による企業価値の向上を図れるのだと、図を持って示した。

このように、生成AIにより経営や業務を変革する中で、今後出てくるであろう課題に関して三善氏は、「コアコンピタンスが何かについての再考・再認識」「生成AIを中心に据えるための組織、人、カネなどの基盤の整備」「人と生成AIの関係構築に伴う人事戦略やキャリア形成」を挙げた。
三善氏は、「ユースケース企画の支援において、これまでは現場の困り事や業務プロセスを並べてみて、生成AIで代替できるところはどこかを探していた。しかし、それだとそこまで大きな期待を超える効果が出ていないのではないかと感じた。
生成AIだからこそできることもある。新しい業務プロセスの構築や、AsisTobeで検討する企業が増えてきている。人間ではそもそもできなかったユースケースを構築できるのではないか。」と、生成AIの活用方法や在り方について述べた。
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