東京大学の医学系研究科小児医学講座の研究グループとエルピクセル株式会社の茶木慧太氏、髙木優介氏、河合宏紀氏との共同研究チームは、スマートフォンで撮影した眼瞼結膜写真からヘモグロビン値(血液の中に含まれるヘモグロビンの濃度)を予測する機械学習・深層学習モデルを開発した。
貧血の診断には通常、血液検査でヘモグロビン値の低下を確認する必要がある。だが、まぶたの裏の粘膜「眼瞼結膜」の赤みの程度を見ることで、貧血の有無を推測する身体診察法も以前から行われていた。
しかしこれでは、貧血があるかどうかを大まかにしか判断でないため、これまでにも眼瞼結膜の写真からヘモグロビン値を推定するモデルが開発されてきたが、深層学習を用いた研究はほとんどなかったのだという。
そこで今回、研究グループは、東京大学医学部附属病院の小児科に通院中または入院中の150名の患者から、スマートフォンで撮影した眼瞼結膜写真と血液検査の結果を得た。そのうちの90名の眼瞼結膜写真を用いて撮影した写真から、眼瞼結膜領域のみを自動的に抽出するアルゴリズムを開発した。

ここでは、深層学習によるセグメンテーションモデルに上述の写真を学習させることで、高精度に眼瞼結膜の領域を抽出できた。
続いて、このセグメンテーションモデルを用い、150名全員の症例について眼瞼結膜の領域を抽出し、血液検査で測定したヘモグロビン値と合わせて機械学習モデルに学習させた。ここでは、機械学習モデルとして非深層学習モデルと深層学習モデルを使用した。
非深層学習モデルでは、眼瞼結膜領域からさらに色の情報を抽出し、ヘモグロビン値を予測し、深層学習モデルでは、抽出した眼瞼結膜領域をそのまま使用してヘモグロビン値を予測した。
その結果、非深層学習モデルよりも深層学習モデルの方が精度よくヘモグロビン値を予測できたのだという。

最後に、深層学習モデルを用いたヘモグロビン値の予測において、眼瞼結膜領域のどの部分が重要なのかを調べるためにGrad-CAMを用いた可視化を行った。
その結果、貧血の実測値と予測値が近い症例では眼瞼結膜の下半分が特に注目されていた一方、実測値と予測値の乖離が大きい症例では、眼瞼結膜の下半分以外に注目してしまっていることがわかった。

今回の研究結果は、深層学習モデルが特に眼瞼結膜の下半分に注目すべきであることを明らかにした。この発見により、より精度の高い深層学習モデルの開発や臨床実装に向けた技術の進展が期待される。
特に、スマートフォンで撮影した眼瞼結膜写真を基にしたAIモデルの開発は、病院に行かずに貧血の有無を推定できるアプリケーションの開発に応用できる可能性がある。具体的には、医療アクセスが限られた中・低所得国や、鉄欠乏性貧血を引き起こしやすい小児・妊婦などの貧血スクリーニングに適用できると考えられている。
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