AIに対する正しい理解が、次の変化を起こす -LINE砂金氏インタビュー2/2

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LINE株式会社 ビジネスプラットフォーム事業室 戦略企画担当ディレクター 砂金信一郎氏へのインタビュー後編。

前編はこちら:MicrosoftエバンジェリストからLINEへ、きっかけは「りんな」 -砂金氏インタビュー1/2

 
-今後、「AIはこういう分野で使われるのではないか?」という分野はありますか。

AIが圧倒的にうまいのはパターン認識です。大量のデータから特徴的なところを見つけてくるのは人間より得意で、例えば、画像認識は自動車運転側とセキュリティー的な監視カメラソリューションで、ものすごく進化はすると思います。今、写真を見て、「これは誰がどういうことをしている状況です」とキャプションをつける分野では、MicrosoftやGoogleががんばっていて、誤検知率はついに人間を超えるレベルまで到達しています。発展の必然性は、自動運転や、セキュリティー分野がリードをするかもしれないけど、できあがったテクノロジーを応用することでいくらでも可能性があるかなと思います。医療分野でのAIによる画像診断も有望な分野だと思います。

それの誤検知率が、ある一定以上の条件の中に納まっていれば現場で使ってもいいですよね、という状態が出てきます。そこまでくればデータが貯まり続け、競争力が高まる。医療分野でいうと、高齢化で医療費が高騰し、人口縮小が真っ先に始まるこの国で、課題解決できるソリューションが作れたとするならば、それはきっと他の国に輸出可能なものだと思います。

先日も、東大の松尾先生や、はこだて未来大学の中島先生とNEDOの会合でお話した時に、みなさんおっしゃることはだいたい一緒で、日本のハードウェアと、それを使いこなすとか、ユーザーに心地よく使ってもらうためのカルチャーというか文化というか、そういうものをパッケージにできたとすると、これは新しい形の輸出産業ができますよと。

 
-そこまで、まとめないといけないのですね。

例えば、一風堂さんなどラーメン屋さんや獺祭をはじめとする酒蔵が海外進出しているわけじゃないですか。調理や醸造の過程で麺の湯切りや杜氏の感が味の決め手だったとしたら、どの角度でどの強さで、どう湯切ったら、いい感じになるのか、現地の水質や気温にあわせるにはどうしたらよいのかを、職人の技に頼りきることなく、デジタル化して自動化を試みるべきだと思います。これまでも製造業のみなさんは海外工場を立ち上げる際に、国内のマザー工場での経験をもとに産業ロボットにティーチングしてきたと思うのですが、もう少しそれが僕らの生活の身近なところに出てきていて、湯切マシーンや杜氏センサーが、AIの仕組みを使ってだんだん賢くなっていく。

たぶんAIや機械学習を利用する上で気をつけなければならないことは、工場出荷状態で性能が決まるのではなくて、そこから使えば使うほど、こなれて現場の状況に合わせられていくという点。それを理解していれば、単にモノを売るのではなくて、継続的に学習済みの最新ソフトウェアが提供されるサブスクリプションモデルが必然になってくると思います。

砂金氏 インタビュー
奥:LINE株式会社 ビジネスプラットフォーム事業室 戦略企画担当ディレクター 砂金信一郎氏/手前:IoTNEWS代表 小泉耕二

 
-湯切1回100円のような。

そんな感じです(笑)。そういうものがどんどん見出せて、世に出せていけば、もちろん当たるもの当たらないものあるし、自然な経済の流れで淘汰されていけばいいのですけど、単にハードウェアを作って売るじゃない。世界中から見て「東京ってご飯もおいしいし、いろいろ素敵だね」と、なんとなく期待されているものを、どうやってモデル化をして、ハードウェアとAIでパッケージングして、感動体験として、提供するか。

そういうモノづくりができる素地がきっとAIにはあります。他にAIが向いている分野として機械翻訳が大きいです。自然言語処理の一部ですけどね。僕も外資系にいたので、英語しゃべれなくはないですけど、ものすごく得意なわけでもなく、その都度変換しています。特に単一民族の日本では、ビジネスでも旅行でも、苦労している人が多いのは間違いないですね。

自分で伝えたいことや想いは、当然翻訳に頼らず自分の言葉で伝えないと伝わらない、それはその通りだと思いますし、どんなに翻訳技術が発展しても、英語を勉強しなくてよくなるということはないと思います。でも、ちょっとしたことを気兼ねなく伝えられる手段として、機械翻訳もだいぶ進んできて、それも結局AIというかクラウドなのですよね。

先日、IgniteというMicrosoftのイベントで、大規模演算向けのGPUインスタンスだけでなくFPGA(プログラマブルな集積回路)を使っている例としてBingの翻訳エンジンを紹介してました。翻訳だけじゃなくて、検索のインデックスとかにも使っているのですけど、大量のデータをきちんと処理した上で適切な訳語を返すのはけっこう大変な処理なんです。FPGAのよいところは、あとからでも集積回路のロジックを変えられる点で、AIというかDeep Learningが学習しながら発展して、それが最適に処理される環境をつくりあげるという意味で、すごくよい組み合わせなんです。こういう背景で、翻訳だけでなく自然言語処理を得意とするAIがものすごく進化すると、カスタマーサポートとか含めて、もう少しAIが助けられるのではないかと思っています。

 
-そしたら、買い物も世界のものが簡単に買える時代がやってきて、体験も変わっていきますね。

いま、Microsoftへの問い合わせで多いのが、「りんなを使ったら、カスタマーサポートをAIで自動化できますか?」ということです。残念ながら、うちの子は問題解決するためにつくられた、いわゆるお勉強のできる子ではないので不向きなことが多いです。ただ「りんな」のような雑談ボットがフロントにいて、どういうことに困っているのか、困り具合がどのくらいなのかというあたりを感情を含めて判別したうえで、これはやばそうだなというのを人間に渡して、省略化する作業ができるのであれば、様々な事が解決する気がします。FAQを検索して返すくらいのことであれば、りんなを拡張するまでもなく、他の対話エンジンでもふつうにできることだと思いますし。

 
-問い合わせって、雑談をするためにかけている人も多いそうですね。

多いですね。ECで言えば、モノを買ってくれそうかどうかの判定や、故障修理受付であれば、どれほどお客さんが困ってたり怒ってたりするのかを判断しながら、人間につないでいく、人間をサポートするAIのようなものは、案外早いタイミングからけっこう多く出てくるのではないかと思います。

先ほどお話ししていた機械翻訳が進化すれば、テキストチャットの中で、様々な国の言葉に対応するのは、そんなに苦ではない。苦手意識のある人間より向いている分野だと思うので、グローバル進出でお客さんとの対話が必要な場面では、一気にAIによるテキストチャットは広がるのではないかと思います。

 
-あとは、表現が適切か不適切かということは、どうしても起きるでしょうね。日本語の表現が英語になかったり、逆ももちろんありますが、そういうところは簡単じゃないなと普段から思うので、AIもそこを教え込むのはなかなか難しいのではないかと思います。

そうですね。例えば、「りんな」には、僕らが社内でPTAと呼んでいたチームがいて、そこは子どもにとってのPTAと一緒なのですよ。「りんな」に、こういう事はいいけど、こういう事はダメだよって、ちゃんと教える。教えるというかデータを峻別する、という作業を一生懸命やる。

今はリアルな子どもに対する教育、ITを使ってどういう教育をしますかというのが、まず出てきているのですけど、次は様々な対話エンジンや自動化されたボットの教育をどうするかという問題がでてくると思います。いっそ人工無脳だったらいいのですよ、決まった事しかルールベースで返さないので想定内の反応しかしないのですが、AIだったとすると、提供するデータによっては、学習の意味解釈を誤って、間違った、というかあまり適切ではない対応を返すこともありえます。普通の人間の子どもだったら不良になるという感じですかね。

そうならないようにするには、どういうデータソースを提供して、どういうチューニングをしたらいいのか、それはアリゴリズム側だけじゃなくて、データ整備側もすごく重要で、きれいな日本語を話すには、こういうデータソースがいいし、フランクに話してくれる状態のロボットを作りたいのならば、こっちのデータソース。ただし、共通して、宗教とかクリティカルなことに関しては、触れないか、注意深くデータ提供しよう、そういう教育論が出てくると思うのです。

砂金氏 インタビュー
LINE株式会社 ビジネスプラットフォーム事業室 戦略企画担当ディレクター 砂金信一郎氏

 
-ロボットに対する教育論、あってもおかしくないですね。

今までは、IT屋さんからすると、人工無脳や対話エンジンって、「こういう質問をします、こういう答えを返します」というのが仕様書に書かれていました。そして、テストも簡単だったのですね。「これを入力しました、こういう出力がありました」、それを確認するというのがテストの方法で、それは人間がやっても自動化されていてもテスト項目を消化できるのですけど、さすがに何を返すかわからないAIって、テスト仕様書がないというか、何が正解かがわからないのです。

これを入れたら、これを返すというすごくシンプルなやり方を踏襲している限り、たぶん日本のIT産業の大半を占める大手のSIerは、何を返すかわからない状況になり得るAIをうまく使いこなすことができないと思います。

詳細化された仕様書がなくてもシステムは作れるし、評価することはできます。例えば「りんな」は相手を気持ちよくさせて、会話が一回で終わらずに、できるだけ長く続けるようにしたい、という業務目標を達成するための実装なので、会話の往復回数をKPIとして設定したとすると、それをトラッキングすればよい。AIは愚直なので、できるだけ飽きさせないような返しを試行錯誤しながら自己学習をして、それをレポーティング側が見ると、日に日にKPIが改善されていますね、というのがわかる。そういう状態であればOKで、何も会話の中身すべてを仕様書ですべてを定義しなくてもシステムは作れるはずなのです。

 
-逆に、定義できないってことですよね。

そうですね。ブラックリスト、ホワイトリスト的に、ここは絶対ダメ、あるいは無条件にこの返答をすべきというフィルタはあるとは思いますけど。

 
-絶対はね、そうかもしれないですけど、大半のところはニュアンスだったりするでしょうから、なかなか決めつけられないですよね。おじいさんにとって、嬉しいことと、若者にとって嬉しいことは、同じテーマについても同じとは限らないですよね。

そうですね。最近ではUXのABテストにAIが使われていることが増えてきています。今まではみんなの反応を、クリックレートやコンバージョンなどから判断して改善してゆくという事をデザイナーさん、すなわち人間がやっていたと思うのですけど、それできるのであれば、今まで人間がA案とB案を作って比較してたものを、AIがA案からZ案まで特徴がでそうな範囲でたくさん作り、その中でより反応の良いものを選択して、どんどんチューニングしていくことができるので、たぶんWebデザインや、作り物が変わっていきます。人間が手作業でちょこちょこやってきたというのとは違う次元にステップアップできるのではないかと思いますね。

 
-何か知らないけど、いつも心地いいのようなものですよね。特段嫌なことが起きないというか。

それって、統計学的に見たら、自分はきっと日本で生まれ育った40歳前後の男性であろうという推論の確からしさ以上に、過去の言動からの類推でこれが心地いいと思うにちがいないという予測から、あまりはずれないのですよね。自分が「俺は個性的だからさ」って思っているほどには。AIが合わせてくれている感が心地よくなる感覚は、デザインとかユーザー体験全体の改善を通じて、もうちょっと広がっていくのではないか、と。
 
-なるほど。AIは体験が変わっていく可能性があるのですね。

結局、AIは改善が得意なのです。だから、IoT的な仕掛けでできるだけ多くのデータを取得して、それを学習させて、どうしたら、ユーザー体験がより良くなるかをAIが自分で判断して改善し続けるところは、すべてAIがやっているかもしれませんね。

砂金氏 インタビュー
IoTNEWS代表 小泉耕二

 
-そういう文脈で言うと、小売業でも使えそうですね。

オンラインではなくリアル店舗での小売業、ということになると、Beaconなどによる行動履歴をもとにした提案型AIのようなものが増えてくると思います。来店を促したり、お店での滞在時間を増やしたり、顧客単価を上げるだけでなく、お客さんが笑顔でいる空間をつくることが、より簡単にできると思います。今までもできたのですけど、ものすごく高価なソリューションを入れないとできなかったことが、比較的安価にできるようになってきていることは大きいですね。Wifiだとカバーする範囲が広すぎるので、この手の用途ではBLE(Bluetooth Low Energy)が主流になるのではないかと思いますが、今はスマホでどれだけの人がBLEをオンにしてくれているか、といったところがネックになっている気もします。iPhone7でBLEヘッドホンが普及したり、Pokemon Go Plusなどのデバイスが世の中ガラっと変える可能性もあると思います。

BLEをオンにしたスマホを持ってるということは、自分自身が常にタグ付けされた物体のような状態になるので、自分の状況に合わせて、周りの環境が最適化されていくということが単独の店舗やショッピングモール全体で実現されていくのだと思います。

 
-いい体験が本当にできるのであれば、やる気はしますね。

そうなのです。少し前にFlashコンテンツを作っていて、その次はWebを作っていて、きっと今はスマホのアプリ作っていて、そういうところでクリエイティブな能力を発揮する方々がいらっしゃいます。たぶん彼らが次のフィールドとしてchatbotやbeaconなどのデータを活用するAIをバックサイドにおいた体験全体を作り出すことを、きっとそのうちやらなければいけないし、もう着手されている方々も多いと思います。

彼らが今まではデザインが「こっちのほうがちょっとかっこよくてクールなんだ」というところが専門性だったかもしれないけど、それに加えてAIの特徴を把握している必要がでてくると思います。とはいえ、エンジニアではないので個々のライブラリの中身の数学的、統計的処理を知る必要はないのですけど、対話エンジンや画像解析エンジンで使われる技術の概要や、得意不得意を把握して、それを自分の目の前にいるお客さんに、よりよい体験を届けるためにどうやって使えるのかという、活用側の発想というのが、やっぱり必要になるのではないかと思います。

クラウドの黎明期の時もそうだったのですけど、新しい技術が出てくるときには敬遠される方々がいらっしゃるのも事実です。AWSであれ、Azureであれ、Google Compute Engineであれ、どうやって動いているのかを詳細まで知らないと、怖くて使えませんという方々が一定割合いらっしゃいます。

 
-昔は多かったですね。

そういう方々のフィードバックもありがたくはあるのですけど、クラウドの中身の研究をしていたところで、ビジネスはなかなか伸びません。どちらかというと、明治維新の頃に黒船がやってきた時に、黒船を自分で作る技術を突き詰めるより、それをいち早く買って戦力として活用し、自分のビジネスに生かしたほうがよほど生産的だと思います。

やってみる中で仕組みがわかってきたら、自分達で作っちゃえ、というのは全然ありなパターンなのですが、最初から緻密に全部を調べあげるのは効率的じゃないですよね。せっかくあるものは素直に使ってみたほうがいいと思います。クラウドの時に起こったことがもう一回AIの観点で出てくるとすると、きっと扱うモノが変わるというだけじゃなくて、作っている人の考え方やスキルセットが変わっていくので、AIが本格的に普及する前とはだいぶ違う状況になるし、それが果たせれば「日本ってすげぇクールなプロダクトいっぱい作っている。なんでそうなったの?」という状況が作れるのではないか、と思います。

 
-徹底的にAIがすべてに入るといいのに、と思います。そうすると体験が全部変わってくると思うので、変わった状態に身を置いてみたいですね。

例えば、彼らは現時点においてAIを積極的に使っているわけじゃないのですけど、ハードウェアスタートアップのCerevoさんは毎年十何個も完成度の高い製品を作っていて、ああいうハードウェア屋さんがデバイス側にAIを組み込むエッジコンピューティングを自在に使いこなして、ユーザー体験全体を設計するUXのプロフェッショナルと、サービス視点で考えられるソフトエンジニア的な人たちがうまく仕組みを作り上げるような状態がつくりだせれば、AIをうまく活用するプロダクトができてくるのではないかと期待しています。

 
-より立体的になるというか複雑になるので、そこをできる人がそんなにすぐ出てくる感じもしないのですけど。できてくるとすごいでしょうね。

プロデューサー的役割の人たちを、どのくらい育てられるかにかかっているという気がしています。僕はプロデューサー的な立ち位置に立つことがけっこう多くて、製品やソリューション、人をプロデュースしてきました。価値を作り出すアプローチとして、コミュニティーやパートナーエコシステムなどを作ってきたし、その中から適切な才能を見いだして光をあてた上でうまく組み合わせる。異なったバックグラウンドの人たちで、チームを組まなきゃいけないこともあって、そのときには相互信頼というか、尊敬関係を生み出すことが重要で、けっこう希有なテクニックだと思うのですけど、結果振り返ると、そういうことをよくやっていたなと思います。

人と人をつないで、その人たちの最大機能を発揮させる。会社や組織の中だと、同じようなスキルを持った人たちが、同じような感覚で分業しているというのが、よくあるパターンだと思います。しかし、今必要とされているのは、会社の垣根を越えて、様々なバックグランドと多様なスキルを持った方々がプロジェクトを組んで、その人たちを適切に動機付けして生産性の高いチームにする働き方だと思います。動機付けの仕方はその時々で、「面白いからやろーぜ」で済むこともあるし、お金が儲かるとか、世の中の役に立つとか、状況に合わせて旗を掲げる必要があります。振り返るとそういうことをけっこうやってきたし、それができる人がもっと必要だし、以前と比べれば増えてきているのではないかと思います。IT業界のなかでいえば、みんなの意識変革にクラウドが果たしてきた役割は大きかったと思います。そういう人達の必要とされるスキルセットの中にきっと、次はAIに対する正しい理解があると次の変化の波が来るのではないかと思います。

 
-そういう人達は、出てきているってことですよね。

ちょっとずつ出てきていて、その人達がちょっと変わった変態さんで終わっちゃうのか、それ面白いからみんなで盛り上げてみようよという状態になるのか、たぶん後者にちょっとずつ近づいているのかなという気がしています。その最初の役回りを僕が果たしたら、世の中の役に立てている感があるかな、と。

砂金氏 インタビュー

 
-LINEは特にフィールドが広いですからね。一社の中だけでもきっと様々な事ができるでしょうし、組みたい人も多くいると思うので、そういう方々と何か新しいことできそうですね。

今でこそ若い人たちだけでなくシニア層含む全世代で使われるサービスになってきてますが、最初の頃は中高校生の圧倒的利用率の高さがあって、そこに対するエンドユーザーリーチというのはLINE以外持ってなかったのですよね。マイクロソフトとLINEのコラボプロジェクトである「りんな」がなんで女子高生かという理由のひとつに、LINEというプラットフォームで一番多くデータが集められそうなのは、10代の女の子だったという背景があるのです。

今は中学校の時からLINEでコミュニケーションするのが当たり前で、その中で、いじめとか様々な問題を経験し、ITやネットの道具を、どういうふうに使いこなしたら自分は幸せになれるんだろうと考えてきた人たちが、LINEやAIのような道具を人間関係の中で、うまく使いこなして新しいサービスを作り始めていくでしょうね。

 
-5年後、10年後は、そういう子たちが主役になるのでしょうね。

いわゆる「既読スルー」問題のようなことを気にしながら自分で全部のメッセージを読んで理解するのはめんどくさいから、自分の代わりを任せられるbotに「なんとかちょっとよろしくやっといて」というコミュニケーションになっているかもしれません。

 
-熾烈なAI同士の戦いになりそうな気もしますけど。

このあたりの話はもしかすると複雑な人間関係をどうやってAIで解決できるかという新しい課題発見なのかもしれません。日本がもしかすると世界の最先端をいっていて、他の誰もが解決していない課題であれば、グローバルに研究や社会実装をリードできる領域かもしれないですよね。私の時間をもうこれ以上友達との円滑なコミュニケーションのために割きたくないという子がもしいたとしたら、私ってどういう会話を普段していて、それはどこまでAIにまかせられるのか、それを改善するにはどうしたらいいのかって工夫し始めると思うのですね。

そういうときって、大抵僕ら大人が「きっと君らこうやったら解決すると思う」的なサービスを提供しようとするんだけど、大体センスなくて、総スカンだったりするんですよね。「だったら、私たち、自分でいい感じのサービス作るよ」という動きがもう少し出てくると、アントレプレナーシップの若年齢化にも寄与できるのではないかと思います。

 
-確かに、社会の質が変わってきているので、その人たちも面白いこと考えそうな気がしますよね。我々ともちょっと違う感覚の子たちになるでしょうから。

若い世代の能力を最大限発揮させる方法が、今までMicrosoftの立場ではどっちかというと、プログラミング教育をしっかりやって、ソフトエンジニアを大量に育てるという観点だったのですけど、別に、コード書くことだけが正義ではないし、他の才能の発揮の仕方をする子がいてもいいと思うんですよね。職業訓練ではなくて、ものごとの整理の仕方を学ぶ手段としてのプログラミング教育はもちろん全員に提供すべきだと思いますが。

 
-組み合わせるだけというのもありですよね。

もちろん、最低限のスキルとして筆算の代わりにコンピューターでシミュレーション計算はできた方がいいと思いますけど、必ずしもコードを書けるソフトエンジニアだけが、必要とされる世の中ではないので、様々なタイプの人たちが活躍してくれてもいいのではないかと思います。

 
-なるほど。完全に未来に向かっていますね。

15年後どうなってるかと言われても、さっぱりわからないので、せめて3、4年後はこうしていたいよねという手触り感のある世界観は大事にしたいと思ってます。普通の会社で言ったら中期経営計画をどうしようということだと思いますが、どんな仕事してもつらいときはつらいので、どうせならワクワクしたほうがいいし、誰もやったことがないことのほうがいいですよね。

もちろんベンチマーク先から学ぶことも当然あるのですけど、「初めてのチャレンジ」をどれだけぶっこめるか。そこからどれだけ新しい価値を見いだせるかの勝負だと考えてます。たぶんね、様々な人が言うように、引き続き日本にいるのであれば2020年以降は絶望しかないのですよ。

 
-そんなことはないですよ。

普通にいったら、絶望しかないです。ただ、僕らは絶望しかないというのを変えられるチャンスを持っているはずなのだけど、日本の内需の事だけしか見てなかったら、たぶん絶望しかありません。そこで、オリンピックや観光、お買い物で日本を訪れて、ものすごく感動的な体験をしてくれた何千万人かの海外からきた人たちが、「やっぱり日本すげぇ、見直した。じゃあ日本のプロダクト買うか」って思ってくれないと、僕らの未来はありません。そう感じ取ってくれさえすれば、そこから先は機械翻訳とか、VRやARのような技術の発展で、言葉や距離の壁は、気にならなくなると思います。

 
-そう考えるとちゃんと2020年に向かわなきゃだめですね。

様々なことが正当化されるのチャンスを生かさない手はないです。2020年に向けてとにかく投資も前向きにしたほうが株価もあがるでしょうし、銀行も好意的に資金提供してくれると思います。その流れを利用して、ビジネスを伸ばしたり、仮説検証できるか、そういう感覚は大事だと思いますし、ここを逃すとたぶんまた5年10年くらいはたぶんチャンスは来ないでしょうね。

そのタイミングで実用化されるであろうAIや自動運転、そういうエリアで多少のリスクはあるけれど、そっち方面にキャリアを振ってみるのはいいのではないかなと思うのです。その時代がきたときに大事なのは、アルゴリズムやコンピューティングインフラではなくて、データやそれを生み出して預けてくれるユーザーとの心の距離なんじゃないかと考えてます。現時点でLINEがAI屋さんと思っている人はいないでしょうが、僕には違う未来が見えてます。

砂金氏 インタビュー

 
-本日はありがとうございました。

【関連リンク】
・インタビュー前半:MicrosoftエバンジェリストからLINEへ、きっかけは「りんな」 -砂金氏インタビュー1/2

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