「AI技術はサッカーの可能性をひろげてくれる」 ―白石尚久氏インタビュー

AIが「イニエスタになれる可能性」を引き出す

白石: あとは、本田選手の分析官をしていたこともきっかけです。個人分析官は、自分が担当する選手自身とその選手が次に対戦するチーム、およびマッチアップする選手を分析します。

プロリーグは基本的に1週間に1試合のペースですが、そうすると毎試合に向け、担当選手の前の試合と対戦相手の過去の4試合、合計5試合ほどを分析するのが限界です。もし1週間に2試合あるような場合には到底、分析が追いつきません。

そこで、私の代わりに、私の考えを反映しながら作業できる方法がないだろうかと、本田選手とは話をしていました。そこで出てきたアイディアが、AI技術の活用です。

小泉: AI技術を試合で活用した実績は既にあるのでしょうか?

白石: 研究や論文などの発表は進んでいますが、アナリティクスの領域で本格的にAI技術を活用して、実績を出している例はまだあまりないように思います。

FCバルセロナでは、20試合のデータを計算できるコンピュータを使ってトライ&エラーを行っている段階です。本格導入には、もっと予測の精度を上げなければなりません。私のチームでも、70%以上の確率で予測できないものは、すべてヒトがデータを見て、「これは使える、使えない」と判別しています。

いずれにせよ、仮説を立てられることは重要です。先日、アヤックスのトップチームの分析官と話をしていたのですが、こんな例があります。

選手たちの「インテンシティ」が落ちるタイミングは、ある程度、失点の時間帯およびフィットネスデータで把握することができます。そこで、私たちエクセルシオールがアヤックスと対戦したとき、アヤックスはエクセルシオールが疲れて「足が止まる」時間を予測したのです。

具体的には、エクセルシオールは前半残り10分の失点率が99%、後半残り30分以降の失点率が100%でした。アヤックスは2日前にポルトガルでベンフィカとUEFAチャンピオンズリーグを戦っており、非常に疲れていました。

そこで、わざとエクセルシオールにボールを回させ、ペナルティエリア付近はボールを放り込むので守備をしっかり固めておくという戦略をとりました。「この時間帯になると必ず相手の足が止まり、カウンターで点が取れる」という予測のもとです。すると、本当にその通りになったんですね。その後はアヤックスの独壇場は言うまでもありません。

戦略にはデータが必要です。それはあたりまえのことのはずですが、数字やデータを読めない監督の方が多いのです。今後、そうした監督はどんどん淘汰されていくと思います。会社の経営者と同じです。今はそういう時代に来ています。

「AIはサッカーの可能性をひろげてくれる」【白石尚久氏インタビュー】
SBVエクセルシオール(オランダ1部)アシスタントコーチ/テクノロジーストラテジスト 白石尚久氏

小泉: データやテクノロジーに対して、「使えそうだ」という期待は誰もが抱くものの、「これは絶対に使える、信用できる」と確信を持つまでには、高いハードルがあるように思います。産業界を見ていても、実用に至っているケースはそこまで多くありません。

白石: そうでしょうね。サッカーの場合は、毎回のフィジカルトレーニングで「ここまで到達しないといけない」という目標値があります。その選手のフィジカル面の状態を前提に、相手のチームはこういうプレーをするはずだから、こんなに対策を立てていこうとトレーニングを構築できれば理想です。しかし、それをできない指導者が多いのです。そもそも、フィジカルデータの数字を読めないからです。

FCバルセロナやACミランのようなビッグクラブでは、トップチームのスタッフは100人ほどいます。本田選手のいたCFパチューカでも、少ない方だと言われていて30人です。私が今所属しているオランダのエクセルシオールは10人しかいません。本当は、そうした小さなクラブこそ、データやテクノロジーを活用していかないと淘汰されてしまいます。

小泉: テクノロジーが不可欠な時代にきているのですね。

白石: 先日、イニエスタ(※)のプレーを分析した結果を監督に見せました。でも監督は、「これはバルセロナだから、イニエスタだから」と答えました。「違う」と私は言いたい。ここにこそ、選手の眠っているポテンシャルを引き出せる可能性が秘められているんです。

ヒトの眼では気づかないことさえもを、AI技術を活用すれば見つけ出せるはずです。

小泉: そのデータをうまく使えば、イニエスタになれるかもしれませんよね。

白石: ええ。それは、やってみないとわからないですよね。それなのに、私たちは得てして後から「そんなの知らなかった」、「指導者からそんなことは教えてもらわなかった」というわけです。

本田選手と仕事をしていて思ったのは、ヒトにはそれぞれに才能があって、それをいかに見つけだせるか、伸ばしていけるかが重要です。本田はイニエスタやシャビのようになれません。でも、彼にしかないストロングポイントがあります。それを伸ばしていくために、テクノロジーが使えるのです。

※FCバルセロナやスペイン代表で活躍した世界的に有名なサッカー選手。昨年の5月にJリーグのヴィッセル神戸に移籍。世界トップレベルのプレーで日本のサッカーファンを魅了している。

小泉: どのような選手でチームを構成すると強くなる、というような「チームビルディング」の観点でもAI技術は使えるのでしょうか。

白石: 使えると思います。たとえば、選手のスカウティングです。代理人は「この選手は良いですよ」と主張するものの、「何がどれくらい良いのか」根拠を聞いても答えられません。個人情報ですから、フィットネスのデータなどを見せられないということも理由としてあります。

ただ、試合の映像を分析すれば、選手の走るスピードだけでなく、人間の目だけでは見えにくかった選手の長所がはっきり見えてくるはずです。

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