「HomeX」の本質はハードウェアの設計思想にある ―パナソニック馬場渉氏インタビュー

Appleとテスラ、産業構造を変えたのはハードウェア企業

奥田: 「家」という観点では、アメリカの家と日本の家はまったく異なると思います。シリコンバレー生まれの「HomeX」を日本で展開することで、ギャップが生じることはありませんか?

馬場: アメリカの暮らしの考え方を前提につくった製品が、アジアやヨーロッパでひろく受け入れられることは絶対にないと思います。しかし、シリコンバレーはもはやアメリカではありません。「無国籍国家」です。多様な人がいて、多様な家があります。

住宅という「ハードウェア」においては、気候や地震といった地域性が重要ですが、私たちがつくっているのは住空間の「エクスペリエンス」なので、もう少し「人間」です。

人間はどこに住んでいても、その本質的欲求はあまり変わりません。アメリカや日本という地域の差で見るよりも、所得や生活の忙しさなど、個人に着目して見た方がいい。たとえば、世界の貧困層の課題などはほとんど抽象化できます。世界に196か国あっても、196種類の課題はないわけです。

住空間のエクスペリエンスをハードウェア(住宅設備や家電)にインストールする場合に、それがアメリカ仕様であったり、日本仕様であったり、色々あるでしょう。ただ、それはあくまでハードウェアの話です。

「HomeX」が手がけるビジネス領域は、コンピュータ産業にたとえるなら「Wintel」(Windows OSとIntel製のコンピュータを指す通称)です。パソコン(ハードウェア)よりも一つ上のレイヤーです。そこでは個々のハードウェアの地域性は特に問題になりません。

一方で、Appleのように、パナソニックは「住空間」において垂直統合のビジネスも可能です。弊社のアプライアンス社、エコソリューションズ社や子会社のパナソニックホームズ(株) のリソースを合わせれば、住空間におけるすべての製品やサービスをフルスタックで提供できますから。こうした企業は世界でパナソニックだけです。

垂直統合のビジネスモデルによる製品の一つが、昨年11月に発表した都市型IoT住宅「カサート アーバン」です。順調に受注が伸びています。

「HomeX」の本質はハードウェアの設計思想にある【パナソニック馬場渉氏】
パナソニック ホームズ株式会社が昨年11月3日に新発売した都市型IoT住宅「カサート アーバン」。「HomeX」を搭載し、毎日のくらしをアップデートする生活を提案している。

奥田: 「HomeX」はオープンプラットフォームをうたっています。パナソニックらしくないという見方もあると思いますが、どうですか。

馬場: パナソニックらしい面もあると思います。なぜなら、私たちはサービス事業者になろうとしているわけではない。パナソニックはあくまでハードウェアの企業です。

「電話」の産業を考えてみてください。NTTの黒電話がiPhoneになりました。これは、とてつもない非連続的な産業構造の変化です。今はまさにクルマの分野でそれが起こりつつあります。

これらの大変革を起こしたのは、電話であればApple、クルマであればテスラです。どちらもハードウェアの企業です。

私たちは「住空間」の分野において、Appleやテスラのような破壊的なハードウェアプラットフォーマーになりたいと思っています。UberやAirbnbのようなサービス事業者になろうと思っているわけではありません。

彼らはモノを持たない最大のタクシー事業者であり最大のホテル事業者です。「モノを再定義したうえで持たない」ことによってイノベーションを実現した企業です。でも、私たちはハードウェアを進化させたうえでそれをやりたいのです。

「HomeX」の本質はハードウェアの設計思想にある【パナソニック馬場渉氏】
IoTNEWS生活環境創造室/株式会社電通 関西支社 京都ビジネスアクセラレーションセンター事業共創部 ビジネス クリエーター 奥田涼

馬場: テスラがわかりやすい例です。彼らは非連続にクルマを進化させています。クルマを購入した後もその機能をアップデートできるからです。買った瞬間の価値よりも、その後のソフトウェアのアップデートによりハードウェアの性能が上がる。しかも、スマートフォンのようにUIが変わるだけではなく、ソフトウェアのアップデートで運転の安全性や快適性が高まるのです。これはすごいことです。

「住空間」においては、既存の家電や住宅設備をつなげる、あるいはボイスでコントロールするということは、それはそれでいいと思います。でも50年、100年先には、誰も想像できないような新しい製品が生まれていると思いませんか。だとすると、まずはハードウェアを進化させないといけないのです。

次ページ:ハードウェアの構造が同じままでは、いいソフトウェアはつくれない

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