「林業型」ビジネスの視点が持続可能な社会のカギ
小泉: エストニアは、旅行者にはそのすごさがわかりにくいと思います。たとえば、電子マネーは確かにひろく使われているのですが、現金もけっこう扱っています。そうではなく、国民にとって気の利いたサービスがデジタル技術によって実現しているところが、エストニアの素晴らしいところです。
東浦: そうですね。人口が130万人と少なく、国のリソースが圧倒的に足りないので、デジタルを使う。そして、人間が人間らしく活躍できるところに、人を配置する。これがエストニアのよさです。
小泉: 日本では、人が少なくなっていく未来を前提にしたときに、人を外から呼び込もうと考える論調が多い気がします。人口が減っても社会がうまく回るようにするのが持続可能な社会です。
東浦: おっしゃる通りだと思います。私は、デベロッパーには2種類あると考えています。「狩猟型」と「農耕型」です。おそらくデベロッパーの9割が「狩猟型」に該当します。有望な土地を見つけ、ビルを建設し、竣工が終わったら、次の有望な土地を見つけに行く。そうしたビジネスのサイクルです。
一方、私たちのような私鉄企業は、沿線地域を抱えているので「農耕型」にならざるをえません。鉄道の沿線に住む人々に生活サービスを提供しているわけですから、開発した土地に密着することが必要です。そこで土地を耕し、水をやり、雑草をぬく。そうして、その場所を「肥沃」に保っていくのが「農耕型」デベロッパーの宿命です。
しかし最近思うのは、私たちは「林業型」のデベロッパーを目指すべきではないかということです。なぜなら、「農耕型」は春に種をまくと秋に収穫できます。それは少し早すぎるイメージがあります。私たちは木を植えて数年後に刈り取るように、もっともっと長い時間をかけて成果を求めていくべきではないか、そうした視点がこれからの社会では必要なのではないか、と思っているのです。

東浦: 私は常々思うのですが、私たちが今まさに会社で得ている利益というのは、過去の先輩方が築いてきた仕事の果実に過ぎません。今度は私たちが、次の世代に向けて新たな芽を植えないといけないのです。
そこで重要なのは、社会が大きく変わっているということをしっかり認識することです。経済が好調で、人口も増え続ける世の中なら、過去のビジネスモデルのまま進んでも利益は得られます。
しかし、今後は人口が減少し、まちは縮退していくわけです。現在の東急電鉄のビジネスモデルを考えた先輩たちは、まちが縮退するなどとよもや想像していなかったはずです。ですから、これからの社会の未来を見据えた、新しいビジネスモデルの芽をつくっていくことが重要なのです。
小泉: 貴重なお話を聞かせていただき、ありがとうございました。
【関連リンク】
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技術・科学系ライター。修士(応用化学)。石油メーカー勤務を経て、2017年よりライターとして活動。科学雑誌などにも寄稿している。