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清掃ロボット「Whiz」が清掃業界の価値観を変える ―ソフトバンクロボティクス インタビュー

2019年5月、ソフトバンクロボティクスはAI清掃ロボット「Whiz」の提供を開始した。

「Whiz」は清掃したいルートを手押しして記憶させ、ボタンを押すだけで覚えたルートを自律走行できる業務用清掃ロボットだ。2019年11月には神奈川県が企画した「さがみロボット産業特区」の取り組みの一環として、障がい者との協働を行う実証実験にも参加している。

人型ロボット「Pepper」に続くロボットとして、なぜ清掃分野でのロボット開発を選んだのか。ソフトバンクロボティクスプロジェクト推進本部 小暮武男氏と大澤拓也氏にお話を伺った。

ルーチンワークで社会に役立つをロボットを目指す

そもそも「Whiz」開発に至ったきっかけを教えてください。

ソフトバンクロボティクス 小暮(以下、小暮):ソフトバンクロボティクスは企業理念として「ロボット革命で人々を幸せに」という事を掲げ、どの市場にどのようなロボットを投入すれば社会課題の解決につながるのか、を考えてきました。

ソフトバンクロボティクス プロジェクト推進本部 小暮武男氏
ソフトバンクロボティクス プロジェクト推進本部 小暮武男氏

日々、お客様よりロボットに関する様々なご要望をいただきます。ニッチなものやまだまだロボットの能力では対応しきれないものも多く含まれていましたが、サービスロボットで一番お役に立てることといえば「ルーチンワーク」である、と思い至りました。そこで「これまで人だけで行なっていたタスクを、人とロボットが共存することでより効果的、効率的に出来ないか」「体に負荷がかかるような仕事をサポート出来ないか」という観点で、様々な産業を見ることになったのです。

その中で注目したのが清掃の領域です。清掃業では既に人手不足が始まっていて、有効求人倍率が非常に高く、そして高齢化も進んでおり、高齢者が体を屈めて辛い仕事をしています。

清掃のタスクは様々ですが、その中でも床清掃というのはルーチンワークであり、ここの部分についてソフトバンクロボティクスとして支援できるのではないのか、と考えたわけです。床の清掃は面で綺麗に清掃するべきですが、人手不足によりそれが出来ず、「目についたゴミだけ掃除する」というスポット清掃が生じている状況に陥っているそうです。

そういった状況を施設のオーナーは認識しており、清掃会社も認識せざるを得ない。しかし、なかなか社会環境が変わることはない。その意味では床清掃のロボットソリューションを提供することは、オーナー・清掃会社・清掃員・施設利用者の方々それぞれにとってメリットがあることだと思っています。

警備ロボットなど様々な話を受けていますが、人間と同じような感覚を持って巡回するようなロボットを開発しようとすれば、まだまだ学習しなければいけない要素が多いと感じています。それに対して床清掃はルーチンワークで非常にシンプルですので、すぐに役に立てるロボットソリューションの提供を実現するためには、やはり床清掃のロボットを開発することではないのか、と考えました。

サービス向けロボットとしては「Pepper」に次ぐ二種類目のロボットという触れ込みでしたが、「Pepper」を出した段階で顧客からの様々な要望を受けていたと思います。その中で「清掃に使えるロボットはないのか」というお声を受けて開発に至った、という面もあるのでしょうか。

小暮:そういうお声もあったかとは思いますが、一方で当社における技術的な戦略の側面で「Whiz」の開発に取り組んだ、という面もあります。

ロボット開発の第一段階である「Pepper」は接客業における「顔」の部分を担うロボットであったのに対し、第二段階である「Whiz」は「足」の部分を担う自律走行のロボットを開発しようと取り組みました。そして、第三段階はまだ具体的なお話は固まっていませんが、「手」の部分を想定しています。

「足」の部分については屋外と屋内がありますが、屋外については法的規制などのハードルがあって難しい。一方、屋内であれば走るスピードもゆっくりで安全性も担保できるので、こちらの領域で自律走行ロボットに取り組もうという話になりました。

技術的側面と先ほど申し上げたようなお客様からの要望、この2つの面から見た時に清掃業領域でのロボット開発が浮かび上がった、ということです。

現場の理解を得る努力が必要

「今すぐできること」と「人と共存すること」が「Whiz」開発のキーワードになっている気がします。実はこの2つのキーワードはサービスロボットに限らず、産業用途など様々なジャンルのロボット開発に当てはまることなのではないでしょうか。

小暮:当社もロボットをお客様に紹介すると「人と全て置き換わるのでは」と言われることがあります。結果として「人と同じようにできるかどうか、ロボットの性能、能力はどうなのか」という観点からの話に終始してしまう。

そのような中、徐々に「Whizは人の代替ではなく、共存して皆が幸せになれるロボットです」ということが理解いただけるようになってきたと思っています。

「Whiz」は自律走行させる操作が本当に簡単なので、極端な話、家電のようにお客様にお送りすればすぐに使っていただけると思っていました。

ところが、それは大きな間違いでした。清掃員の方は全て自分の手で作業をしており、それ故にプライドを持ってお仕事に取り組んでおられます。そこにいきなり「ロボットを入れます」という事は、その仕事を変えなければいけないことになります。その事に対して、清掃員の方は抵抗を覚えてしまうわけです。

一方、責任者や経営者は人手不足や、人材教育のためにコストが嵩む事など、様々な課題を解決するために「Whiz」を入れたい。しかし、現場の方はロボットを導入する事になかなか頷いてくれないという状況がありました。

さらに現場の清掃員からしてみると「ロボットを受け入れるという事は、自分の給料が減らさせるのでは、あるいは仕事を失うのでは」という思いがありました。

それに対して当社ではメーカーとして売ったらそのまま終わり、ではなく、現場の人達に寄り添って、「皆様が辛い思いで仕事をしていた場所をロボットに任せることが出来ます。その間に、本来やりたかった仕事が出来るようになって、仕事の質が向上します。さらにロボットオペレーターになれて、皆さんのキャリアアップを図ることができます」と発信していかなければ「Whiz」のオペレーションを組むことが出来ないことに、提供開始から2~3か月経ってから初めて気づきました。

実際、「Whiz」をご予約で購入いただいたお客様の中にも全く利用されていない方がいました。さらに悪いことに、「人の手で清掃した方が良い」「使い勝手が悪い」というご意見もいただいていました。それは「人とロボットが完全に置き換わる」という観点で現場が受け止めてしまったことが要因だったと思います。

こうしたマイナスの意見が挙がり、経営層の方でも「「Whiz」を入れても意味がないのではないか」と考えになりかけていました。そこで当社が現場に入って「これは仕事を奪うものではなく、皆さんの仕事を向上させるものです」と説き、「Whiz」にティーチングさせる事も手取り足取り、一緒に考えながら実施することで、「これは人とロボットの共存です」という事を理解してもらえるようになりました。

元々当社では営業の部隊しか無かったのですが、「カスタマーサクセスチーム」というものを立ち上げて、「Whiz」活用の成功パターンを現場の方々と一緒に作って横展開していく動きを始めました。

結局、このようなやり取りをしなければ、どんなにロボットが使いやすいものであっても駄目なのだと感じました。正直、ひと世代前の清掃ロボットというのは運用に耐えられるものだったのか、今では疑問符が付きます。自律走行させるためにもメーカー側が毎回出向き、環境の変化があれば設定し直すのに時間が掛かるというのは、清掃会社側からすれば「運用は難しいよね」という感想を抱いてしまうものでした。

しかしお陰様で「Whiz」については、お客様から「運用に堪えうるものだね」という評価をいただいているので、後はいかに人とロボットが共存するパターンを作っていくのか、という事がテーマになってくると思います。

製造現場ですと「匠の技の継承」をどうするのか、という問題が良く言われていますが、同じ問題がサービスロボットの分野にもあったのですね。この部分は技術力の問題ではないので、解決するのは非常に難しいのではないでしょうか。

小暮:はい。ですので、やはり社会課題を解決していきたいという思いの下で取り組むことが重要だと感じています。これはおそらくどのジャンルのサービスロボットに当てはまる問題です。

だからこそ、この「Whiz」提供の段階でこのような問題に気付けたのは大変ラッキーなことで、次に解決すべきフィールドが見えてロボット開発を行う時に同じパターンを当てはめることが出来ると考えています。今回の「Whiz」では少し人手と手間もかけていますが、これは勉強のつもりでしっかりやっていこうと思っています。

現場の方々と一緒に取り組むことで我々が清掃のお仕事を一層理解できますし、逆に現場の方々から理解を得られるようになります。中には「Whiz」に名前を付けて可愛がってくれる方もいます。そういった場面が起爆剤となって「Whiz」の活用がどんどん波及していくことを願っています。

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