清掃ロボット「Whiz」が清掃業界の価値観を変える ―ソフトバンクロボティクス インタビュー

余計な機能は入れずシンプルに作る

「Whiz」は手を動かすことで簡単に清掃ルートを覚え込ませることができる、ということでしたが、やはり現場の人達の使いやすさを想定しているということですか。

小暮:そうです。これまでの清掃ロボットは、メーカーが現場に赴いて、環境を採寸してインプットする、という手間がかかりました。しかし高齢化が進んでいる清掃業界においては、そのようなロボット運用に携わるのは難しい。従ってロボットを導入しても倉庫で眠っている、あるいは限られたエリアでの試験運用に留まっていた面があります。

「Whiz」に関しては、78歳というご高齢の清掃員の女性の方でも使いこなしてもらっているほど、容易に扱うことができます。そして一番効果的な清掃ルートをどのように組むのか、といった部分などで、「清掃の職人」から「ロボットを扱う職人」になっていただければと考えています。

「Whiz」正面部。上部のレバーを引っ張り上げ、「Whiz」本体を動かすことで清掃ルートを記憶させる
「Whiz」正面部。上部のレバーを引っ張り上げ、「Whiz」本体を動かすことで清掃ルートを記憶させる

いまのロボット開発には「余計なものを入れないで簡単に出来ますよ」と現場の方たちに訴えていくことが重要なのでは、と思っています。

小暮:そうですね、そうした訴えかけは必要だと感じています。ロボットを多機能にすることもやろうと思えば出来ます。しかしロボットの原点に戻ると、一番得意なのはルーチンワークなのです。逆に多機能にしてしまうと、当然価格も上がりますし、ロボットの動きもCPUのパワーも必要になるので思うように動かなくなる可能性があります。そのため出来るだけ余分な機能は排除して、ルーチンワークに特化して操作性の良いものにした方が良い、というのは皆が気付きだしたのだと思います。

それは「Whiz」の開発段階から「シンプルなものにしよう」という議論があった、ということでしょうか。

小暮:ありました。結局ロボットなので機能を付けるということは、モーターやセンサーなど様々なモジュールが増えることにつながります。そして故障のリスクも上がります。現場で頻繁に故障が起きれば、ロボットを導入した意味がありません。いつも安定的に動いてくれることがベストなのです。シンプルイズベストではありませんが、ルーチンワークをしっかりと清掃員の方と休まずにやってくれることが一番良いと考えています。

やはり実際に使用される現場に入って課題を知る、というのは重要であるとお話を聞いて痛感しています。

小暮:正直、現場から「こういうのがあったら良いのにな」という意見はいただいています。しかし先ほども申し上げたように、そうした要望も「ロボットが人に全て置き換わる」前提で発せられたものです。

「Whiz」は「人と共存して上手くワークするロボット」なので、現場からの要望を精査していくと、そもそも必要のないものも出てきます。そういう観点で見ていかないと判断を誤ってしまう。

「Whiz」導入事例

2019年5月から「Whiz」のレンタルサービスを開始していますが、現在のところ利用台数は伸びているのでしょうか。

小暮:具体的な数字は申し上げられませんが、過去の清掃サービスロボットの伸長率を上回りながらお客様に活用いただいています。

幾つかユースケースを教えていただけますか。

小暮:「Whiz」は現在、様々なフィールドで利用されています。まずホテルや旅館。ホテルではビジネスホテルからアッパークラスのホテル、旅館では温泉宿まで宿泊施設では幅広く導入されています。

オフィスでも廊下などの共有部のみならず、専有部も利用が開始されています。商業施設ではホームセンターや路面店、病院や介護施設、大学なども利用されています。

特に「Whiz」の導入前・導入後で効果が表れたのは宿泊施設においてです。宿泊施設で一番重要なのはベッドメーキングです。チェックインからアウトの限られた時間のなかで、清掃員の方々はベッドメーキングを一斉にしなければいけないのですが、とにかく人手が足りない。その結果、本来掃除すべきエントランスや廊下などの清掃が出来ない状況が発生しているのです。

一方で、宿泊客が予約サイトに「清潔さが足りない」など投稿すれば、その施設の評価はがたんと落ちて、如実に予約の取得率に跳ね返ってしまいます。人が足らないのでホテルの従業員も清掃を手伝いますが、そうすると本来の業務である接客に時間を取れなくなる。

そこで「Whiz」を導入いただくことで、そうした時間と人手の問題を解決し、クリーンリネスや品質向上につなげているのです。さらにロボット清掃の場面を宿泊客に見せる事で「お客様のためにロボットを使って清掃をしています」というアピールにもなる。こうして宿泊施設では危機意識を持って「Whiz」を利用してもらっています。

同じような話がゴルフ場でもありました。プレイされているお客様がスタートしてプレーを終えられるまでの間が清掃の時間ですが、そこでも人手不足が起きている。そこに「Whiz」を入れることが出来れば、細やかな接客に時間を割くことが出来ます。

あるホームセンターでは、当初「お客様が買い物をされている中で清掃ロボットを動かすのはどうなのだろう」という意見がありました。しかし、ある店舗の店長が「いや、日中に動かしても構わないのでは」と提案したそうです。

それで日中、動かして大丈夫だったのですか。

小暮:大丈夫でした。私もこの目で確認してきました。ホームセンターは様々なエリアに分かれており、込み合う時間におおよその見当がつくので、その頃合いを見て清掃を行うことが出来れば問題ありませんでした。

病院の清掃は特殊で、一次受けでやり切らなければいけないというルールがあります。広大な施設であれば二次委託の清掃が可能ですが、病院はそれが出来ないそうです。そうすると人手不足が顕著になり、ロボットをどう活かすかという話になります。

人手不足で本来、やりたい事が出来なくなっているという状況に「Whiz」が入ることによって清掃品質が上がるだけではなく、お客様に本来するべきサービスが出来るようになる、ということです。これがポイントの1つ目です。

ポイントの2つ目が清掃員を雇う採用費の問題です。採用広告費に毎月20~30万円をかけているけれど全く採用できません、という状況を耳にすることがあります。ある会社では「Whiz」を導入することで採用にコストをかけるのを止めよう、という話になっているそうです。このように採用費など「見えない間接費」をストップさせることが出来た、という例があります。

加えて「Whiz」は風邪も引かなければ欠勤もせず、安定的にルーチンワークをこなします。つまり現場の責任者がシフトのチェックや組み換え、状況によっては現場に入り清掃業務をサポートする頻度を少なくすることが出来るのです。すると責任者の残業を減らすことにつながり、結果的に働き方改革の効果までもたらすことになるのです。

「Whiz」開発に取り組んだ際、我々も「企業のコスト削減につなげよう」という話をしていました。しかし現在の利用状況を見る限り、どうやら違う。実は品質向上や現場の働き方改革など、当初は想像できなかった様々な効果をもたらしているようです。

現場の改革というと、どうしても効率性のアップやコスト削減、という言葉を掲げてしまいがちですが、結局企業が最終的に目指すべきことはサービスの向上であり、御社は「Whiz」提供後に初めてその点に気付いた、ということでしょうか。

小暮:そうです、それを現場の方々に教えていただいた形になります。コスト削減というのを掲げると、現場からの反発も出てくるわけです。サービス向上・品質向上という観点の方が現場の方にも受け入れられると思います。

将来的にはコストパフォーマンスに効果が出てきたね、という話が出てくることもありますが、それは今すぐに手に入れることが出来るというわけではないと捉えています。「Whiz」が時間を作ってくれることによって、何か新たな価値を提供できるようになる。ここが大きなポイントだと思います。

「Whiz」について「ここはもう少し改善していきたい」と思っている点などはありますか。

小暮:「Whiz」の運用方法について、まだまだ勉強しなくてはいけないと思っています。「こういうパターンの場合は、こういう風に使ってもらうのが一番良いだろう」ということをもう少し習得しなくては、と感じています。

例えばオフィスの共有部については我々もノウハウの蓄積がありますが、専有部についてはまだまだ難しい。共有部については既に「Whiz」と人が一緒になって清掃ルートを巡回して掃除しています。しかし専有部になると、場所自体が複雑な形状であることや、テナントの理解が必要な場所が多いことなど、まだまだ様々なケースを学ばなければいけない。現在、オーナーやディベロッパーの協力を得ながら、試し試し専有部のケースを集めているところです。

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