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GSユアサとNTT Com、AIを活用した蓄電池システムの故障予兆検知技術を開発

リチウムイオン電池は、太陽光・風力発電など再生可能エネルギーの出力変動抑制用途、電力設備や通信設備のバックアップ電源用途、鉄道や船舶、無人搬送車などの移動体用途など、さまざまな形で活用されており、脱炭素社会に向けたEVシフト(※)などにおいても、今後ますますニーズが高まるものと考えられる。それとあわせて、リチウムイオン電池を安心・安全・安定して使用するための故障予兆検知技術に対するニーズも高まっている。

しかし、偶発的な故障は事前に想定してデータを取得することが難しく、故障と判定するためのしきい値の設定もシステムの運用条件によって変化する可能性があるため調整が困難だった。加えて、蓄電池システムの大規模化が進むなかでも、経験豊富なオペレーターの目視による診断に頼らざるを得ないという課題もある。

蓄電池システムにおける故障の発生は極めて少なく、故障を起こした蓄電池のデータをAIの学習データとして用いることは困難である。このような場合、逆に正常なものの特性を学習することで異常なものを検知する手法もあるが、蓄電池においては経年劣化や使用条件によって正常な蓄電池の特性が複雑に変化するため、それも容易ではない。

株式会社GSユアサとNTTコミュニケーションズ株式会社(以下、NTT Com)は、AIによる蓄電池システムの故障予兆検知技術を開発した。

同技術においては、教師なし学習の一種であるAutoencoderを用いて異常を検知する手法を確立するとともに、正常時の特性が複雑に変化しても対応できるメンテナンスフリーなAIを開発した。

  • Autoencoderを用いた蓄電池システム稼働データの特徴分析
  • Autoencoderは、ニューラルネットワークを用いた次元圧縮手法の一つである。まず、正常な蓄電池の特徴を入力して情報を圧縮し、その後復元して出力するというプロセスにおいて、入出力の差(再現誤差)が小さくなるように学習を繰り返す。これによって導き出された再現誤差を基準として定める。正常ではない蓄電池のデータが入力された場合、再現誤差が基準より大きくなって現れるため、異常を検知することができる。

    なお、Autoencoderを構成する際の各種パラメータ(時系列データを扱う際の窓幅や正規化方法、ニューラルネットワークの構造など)は、蓄電池特性や蓄電池システムの特徴を考慮し、適したパラメータを選定した。教師なし学習には様々な手法が存在するが、kmeans,k-NN,PCA,Autoencoderの4手法を比較した結果、Autoencoderが検出漏れや誤検出が少なく、また早期に正常な蓄電池とそれとは異なる挙動を示す蓄電池を分類したため、Autoencoderが選定された。GSユアサとNTT Com、AIを活用した蓄電池システムの故障予兆検知技術を開発

  • メンテナンスフリーなAIの開発
  • 蓄電池システムは、季節変化などの影響により稼働状況が大きく変化するため、故障予兆検知用AIモデルも適宜更新する必要がある。更新にあたっては、正常な経年劣化や故障を事前に見分けて正常な蓄電池データを用意する必要があり、運用時の負担が大きいという課題があった。この課題を解決するため、Autoencoderを活用して正常時の特性が変化しても故障予兆の検知が可能なAIを開発した。

    異常検知を行うには、何をもって異常/正常とするかが問題となるが、蓄電池に関しては経年劣化などの要素によってその基準が複雑に変化し続ける。そこで同技術では、直近1週間の蓄電池の稼働データを平均し、疑似的な正常データとすることでAutoencoderでの学習を行った。平均を疑似的な正常データと見做せるのは、蓄電池の数が膨大で、故障数が極めて少ないことによるものである。

    これにより、1週間ごとに入力する正常データを更新し続けることができるため、自動的に故障予兆検知用AIモデルの再構築を実施することができる。また、学習期間と評価期間を合わせることができるため、例えば直近1週間のデータを、直近1週間のAIモデルで分析することが可能となり、より的確な検知を行うことができる。

    さらに、故障の可能性がある蓄電池を自動的に分類するために、再現誤差データに対して階層クラスタ分析を実施し、他の蓄電池と異なる挙動を示す蓄電池を自動検出することも実現している。GSユアサとNTT Com、AIを活用した蓄電池システムの故障予兆検知技術を開発

同技術の開発にあたっては、NTT ComがAI技術の一種であるディープラーニングを用いた時系列データ解析技術を提供し、GSユアサがリチウムイオン電池を活用した社内設備の蓄電池データを提供することにより実現した。また、現場の技術者が持つ様々な知見を活かすため、コードを書くことなく技術者自らが簡単にAIの設計を行うことができるツール「Node-AI」を用いて行った。

今回、蓄電池システムの実証評価用にGSユアサが社内に設けている電力貯蔵装置(Energy Storage System:ESS)に、既設の正常な蓄電池とは異なる特性データを示す仕掛けを施した蓄電池を設置し、評価を行った。その結果、正常な蓄電池に対しては故障予兆を検知することはなかった。

一方、仕掛けを施した蓄電池については、従来の定義における故障の基準を満たしていなくても、確実な故障と簡易的に自動判断するための、既存の自動警報発報システムより最大で2ヵ月程度早く検知することができた。また、正常時の特性が変化しても検知できるか検証するため、蓄電池の使用条件を変更した追加評価においても、仕掛けを施した蓄電池を識別することができた。

同技術により、今後商用環境に実装した際にも偶発故障の可能性のある蓄電池と正常な蓄電池とを判別し、故障の予兆を数ヵ月前に検知できる可能性を見出すことができる。

今後は、様々な用途に利用されている蓄電池システムに対してこの同技術が活用できるかを継続して検証していく。効率よく故障予兆検知を行うシステムが確立できれば、メンテナンス面でかかるコストの削減にも繋げることができるとのことだ。また、遠隔監視システムで収集したビッグデータの中から蓄電池の故障データを抽出して学習させ蓄電池の故障を特定する技術も検討するとした。

※ EVシフト:ガソリン車から電気自動車(EV)利用への移行、転換のこと。

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