花王と奈良先端科学技術大学院大学、ディープラーニング技術を用いた新素材開発手法を開発

商品開発を行なうには優れた素材の開発が必要である。たとえば、洗剤の場合は、界面活性剤が重要な素材のひとつとなる。しかし、今まで素材開発はトライアンドエラーを繰り返す方法で行なわれていたため、莫大な時間と費用が掛かっていた。

その問題を解決するため、ディープラーニングを用いてAIに大量のデータを学習させ、予測を行なうことで開発プロセスを短くする方法が検討されてきた。しかしながら、ディープラーニングには数万個のデータが必要であり、素材開発の現場で化学反応プロセスのデータを大量に取得するには多くの費用が掛かるため、実用化に至っていなかった。

花王株式会社マテリアルサイエンス研究所と奈良先端科学技術大学院大学 先端科学技術研究科情報科学領域の金谷重彦教授は共同で、材料工学分野にディープラーニング技術を適用する手法を開発した。

  1. 触媒の写真を用いた活性の予測モデル作成
  2. 触媒は化学反応を速める物質で、 洗剤の界面活性剤の製造などに用いられている 。触媒を開発するには、触媒が化学反応を促進する効率、すなわち触媒の活性を上げることが重要となる。今回、2級アミンとアルコールを反応させた時の銅触媒の微細な構造を電子顕微鏡で撮影し、活性が高かった場合、低かった場合の違いをディープラーニングを用いて学習させることで活性を上げる構造を予測するモデルを作成した。

    具体的には、電子顕微鏡写真143枚に対し、写真の一部を切り出す、複写する等の処理を行ない、10000枚に増加させた。これらをディープラーニングで解析し、活性予測モデルを作成した。さらに、活性が触媒のどの場所で起こっているかを確認するため、画像を作成した。(トップ画)

    また、触媒中には反応原料が拡散するための穴であるメソポア(2-50nm)とマクロポア(>50nm)が存在しているが、今回得た画像から、マクロポアの周辺の構造が活性に影響を与えているという具体的な予想が得られた。この知見を設計に活かすことで、より活性の高い触媒の開発につながると考えられる。

    花王と奈良先端科学技術大学院大学、ディープラーニング技術を用いた新素材開発手法を開発
    左:銅触媒の電子顕微鏡写真
    右:銅触媒の活性画像
  3. ポリエステル樹脂の化学構造式を用いたガラス転移点の予測モデル作成
  4. プラスチック容器などの素材となる樹脂の開発では、形状に関わるガラス転移点(※)を予測することが重要である。たとえば、ガラス転移点が75℃の樹脂でつくった容器に85℃のホット飲料を入れると、容器が変形してしまう。そのため、用途に合わせて樹脂のガラス転移点をコントロールする必要がある。今回はポリエステル樹脂において、化学構造からガラス転移点を予測するモデルを作成した。

    具体的には、不足しているデータ量を補うため、一般公開されている外部の化学構造のデータベースを読み込ませてディープラーニングで解析し、ガラス転移点予測モデルを作成した。さらに、化学構造のどこがガラス転移点に影響を与えているのかを確認するため、画像を作成した。

    花王と奈良先端科学技術大学院大学、ディープラーニング技術を用いた新素材開発手法を開発
    ガラス転移点モデルの作成過程

    研究チームで予測モデルを分析評価した結果、ガラス転移点の温度を予測できることがわかった。また、今までは、官能基の置換位置はガラス転移点に大きな影響を及ぼさないと考えられていたが、得られた画像を確認したところ、ベンゼン環に対する官能基の置換位置(オルト位、メタ位、パラ位)がガラス転移点に影響を与えていることが明らかとなった。この知見を設計に活かすことで、樹脂のガラス転移点をコントロールできると考えられる。

    花王と奈良先端科学技術大学院大学、ディープラーニング技術を用いた新素材開発手法を開発
    ガラス転移点に影響を与える化学構造

同成果により、今まで長期間を要していた素材開発の高速化に寄与する。さらに、AIがどのように予測をしているか明らかにすることで、新しい素材開発の手掛かりとなることも期待される。

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