現場から経営層まで、実務から学び「DX推進力」を高める ―パーソルP&T 成瀬岳人氏インタビュー

総合人材サービス・パーソルグループのパーソルプロセス&テクノロジー株式会社は、DX推進におけるデジタル人材育成を支援するサービス「Work Switch+Digital(ワークスイッチ・プラスデジタル)」の提供を2021年7月15日より開始している。

今回は、「Work Switch+Digital」を立ち上げた経緯やサービス内容を軸に、DXがなかなか浸透しない理由や、求められるスキルやマインドについて、パーソルプロセス&テクノロジー株式会社 ワークスイッチ事業部事業開発統括部 事業開発部 成瀬岳人氏にお話を伺った。(聞き手:IoTNEWS代表 小泉耕二)

今求められるのは「DXの内製化」

IoTNEWS 小泉耕二(以下、小泉): まず、「Work Switch+Digital」を立ち上げた経緯について教えてください。

パーソルP&T 成瀬岳人氏(以下、成瀬): 当社のコンサルティング事業では、数年前から「デジタル武装」というテーマを掲げて展開してきました。昨今の企業の困りごとは、DXを推進しなくてはならないのは理解していても、事業にどうやってデジタルをプラスしていくのかということです。

これに対して当社としても、従来のサービスでは「外部の専門家」として共にプロジェクトに関わっていました。しかし本当に必要なのは、各社ごとに自分たちの事業でデジタルを活かしていくことだと考えています。つまり、DXの内製化です。

これを実現するには、企画し、実行する人材が必要になってきますが、人材の確保は「採用」か「育成」かの2択だと考えています。

しかし採用市場においては、DX人材が引く手数多で、なかなか採用するのが難しいのが現状です。また、採用できたとしても、文化や風土が合わなければすぐ辞めてしまう、という課題があります。

そうした中、文化や風土を理解している社内から、DX人材になっていくための「育成」が非常に重要になってきます。そうした育成を支援するためにも、デジタル人材支援サービスとして、「Work Switch+Digital」を新たに立ち上げました。

現場に必要とされるDX推進力

小泉: 人材育成サービスは様々な企業が現在展開していますが、「Work Switch+Digital」の特徴はどういった点なのでしょうか。

成瀬: 現在展開されている人材育成サービスは、2極化していると感じます。

1つがAI人材やデータサイエンティストといった、エンジニアに近い専門領域の人材を養成するためのコンテンツやサービスです。

もう一方が当社の考え方で、デジタル人材をもう少し幅広に捉えるというものです。前者の専門職の方が実際に構築されたデジタル環境を、運用していく現場の方々の育成です。

しかし現在では、専門職と運用していく現場の両者には、大きな隔たりがあると思っています。その理由としては、運用していく側のデジタルに対する苦手意識から、専門職と円滑に話を進めることができないことが一因だと考えています。

今まで「苦手意識」の一言で終わらせていたデジタルと関係がなかった人たちも、デジタル思考を身につけなければ、意思疎通ができない時代に来ていると思います。

そうした、運用する側の力のことを「現場のDX推進力」として、当社が支援していこうと考えています。

3つのDX領域への支援

小泉: 具体的な支援内容について教えてください。

成瀬: 現在世の中で行われているDXを3つに分解し、各領域に対して支援を行っています。

現場から経営層まで、実務から学び「DX推進力」を高める ―パーソルP&T 成瀬岳人氏インタビュー
DXを3つに分解し、各領域に対してサービス展開を行っている。

1つ目は「プロセスDX」です。目の前の業務改善や課題設定など、最も投資が行われているDX領域です。

2つ目は「ワークスタイルDX」です。デジタルワーク環境やマネジメント、コミュニケーション環境の構築など、新型コロナウィルスの影響でここ一年ではもっとも変革が進んだDX領域です。

3つ目は「ビジネスDX」です。自分たちの事業をDXしていくことで、新たな事業価値の構想や、新たな事業へのシフトといった、本来DXが目指している領域です。

実務の中で身に付くスキル

成瀬: 3つに分けられたDX領域に共通して必要なリテラシーや知識はあるものの、企業ごとに注力したい領域が決まっていることもあれば、網羅的に取り組みたいという企業もあります。ご支援時は、各社のニーズごとにカスタマイズしていくのですが、基本的なメニューは3つの領域ごとに提供しています。

現場から経営層まで、実務から学び「DX推進力」を高める ―パーソルP&T 成瀬岳人氏インタビュー
各領域に対する主なサービスメニュー。

まず全領域共通のサービスとして捉えている「経営層向けDX研修」と「デジタル教育プランニング」では、セミナーやコーチング、教育プログラムの設計など、DX推進の入り口のご支援として提供しています。

また、「経営層向けDX研修」では、実際にロボットや自動化の仕組みを経営層の方に作ってもらうということも行っています。経営者としてDXに対する本気度を示すためにも、経営層の方々自身が構築したものを現場の人に見せることで、スタートを切るきっかけになればと思っています。

プロセスDXの「RPA研修」では、実際にRPAを開発していただきながら、どういった知識が必要で、自分たちの現場で何ができるのかを考える力を身につけていただきます。

ワークスタイルDXでは、「キャリア自律・越境研修」と「テレワーク関連研修」を行っています。テレワーク、リモート化にどう対応するかということもありますが、昨今注目しているのが、組織を跨いで経験を積んでいく「越境」という点です。

例えば、実際に事業を立ち上げているベンチャーやスタートアップに副業的に修行に行き、実際にロボットを作ってみる、といったことを実践していただきます。

勉強という形ではなく、実際の実務の中で取り組むことによって、デジタルでビジネスを立ち上げるということがどういうことなのかを体感することができます。

ビジネスDXでは、まずアイディアを形にしてみるということで、「Work Switch Lab.(ワークスイッチ・ラボ)」というプロトタイピングを体験学習するコミュニティを開設しています。

実際に行った事例では、デザインやアプリ開発を全くやったことのない方々に、アプリのプロトタイプを2ヶ月程度で作ってもらうというものです。

現場から経営層まで、実務から学び「DX推進力」を高める ―パーソルP&T 成瀬岳人氏インタビュー
右上のIDEA1~4が、実際に作られたプロトタイピング。

プロトタイプを作るには、そもそも誰がユーザーで、そのユーザーの課題、その課題を解決する機能をプロトタイプするにはどうするのかを考えなければなりません。

そこで実際にユーザーインタビューを行ったり、様々なフレームワークを活用して進めていきます。知識をインプットするだけでなく、実行していく中でどう進めるかを学べるというところが重要だと考えています。

また、ドワンゴ社と共同で、「N Codeトレーニング」というプログラミング研修も提供しています。

現場から経営層まで、実務から学び「DX推進力」を高める ―パーソルP&T 成瀬岳人氏インタビュー
「N Codeトレーニング」のコース概要。

ドワンゴは元々プログラミングを含む高校生向けの教育プログラムを提供しており、それを社会人向けに展開しています。

「N Codeトレーニング」の特徴としては、エンジニアを育てる目的で行なっていないという点です。あくまでもターゲットはビジネスパーソンです。

プログラミングの基礎を分かっていないと、エンジニアとの意思疎通が難しく、何か新しいサービスを生み出したり、そもそも開発を発注するということ自体が難しいと感じています。

このようにスポットでの研修も行っていますが、サービスの基本的なスタンスは実務に近いところで取り組んでいただくという点は共通しています。

小泉: そうですよね。私もIoT NEWSのデザインや作り込みを自分で行っているのですが、実践の中でしか身につかないことがたくさんあると感じています。

成瀬: おっしゃる通り、実際に自社事業にデジタルを取り込んで実行できている方は、「まだまだ勉強中だけど、自分でプログラミングを組んでみた」など、自分の手を動かしてやってみるということを実践されています。

そしてこれには年齢は関係なく、シニア世代の方でもスイッチが入るととても詳しくなります。シニア世代はもともとこだわりが強い方も多いですし、プログラミング自体もローコードやノーコードが生まれたことで民主化が起きており、一度使い方さえ分かれば現場での経験を活かして、デジタル化を推進する役を担えると考えています。

自社事業に取り入れると決めて、とりあえずやってみることが重要ですので、そうした実践できる場の提供と支援が当社の役割だと考えています。

「経営層」「マネジメント層」「現場」それぞれの壁

小泉: 逆にうまくいかない例ではどのようなことが起きるのでしょうか。

成瀬: 「経営層」「マネジメント層」「現場」、それぞれに壁があると思っています。

まず経営層の壁は、段々低くなっている印象はあるものの、「うちには関係がない」「誰かがやってくれる」という考えがまだゼロではありません。

そしてDX推進を行っているマネジメント層の壁は「抵抗」です。新たにDX推進部やデジタル推進室などの部門を立ち上げた企業では、現場のマネジメントの理解が得られず、彼らだけが頑張らなくてはいけないという状況の企業が多いのが現状です。

この壁を超えている企業では、DX部門だけでなく現場の事業部門も巻き込んで共につくり上げています。

現場の壁は、「デジタルへの抵抗感」です。ある企業の3ヵ年計画として、現場の人間を何百人と育成することを掲げていました。しかし実際に行動に移す意思を示すのは数人で、まずは5、6人から始めようとなったケースもあります。

外部も巻き込んだムーブメントを起こす

小泉: DX推進を行う方々が孤軍奮闘して、「周りを巻き込めない」、「説明しても聞いてくれない」といった困りごとはよく聞きます。そうした環境の方への支援も行っているのでしょうか。

成瀬: ここに関しては2つ取り組んでいることがあります。

1つ目は、DXを推進する方々でコミュニティを形成するというものです。

具体的には、RPA Communityと共に、「デジタル人材応援支部」というものを立ち上げました。ここでは、デジタル人材というテーマに課題感を持った方が参加し、コミュニケーションをとったり、DX推進事例の共有などを行っていきます。

会社の中では孤独かもしれませんが、同じ境遇の方は世の中にはたくさんいます。そこで情報交換や仲間作りが行える場の提供を行っています。

2つ目が、企画者自体が学べる場の提供です。

いきなり別の部署に配属された方などは、とても大変な状況だと思いますが、この機会を勉強する良いタイミングだと捉えることもできます。

勉強の内容はデジタル面だけでなく、組織をどう動かしていくか、どう周りを巻き込んでいくかというマネジメントを勉強できる機会の提供も行っています。

直近では、実際にゼロから企業のDX推進を行った方に登壇いただき、どのように組織を動かしていくかを含めてお話しいただくセミナーも実施します。

小泉: 御社のサービスだけでなく、そこを超えた外部の様々な方を巻き込んでムーブメントを起こそうとされているのですね。

苦手意識を克服するマインドセット

小泉: 現場の方への浸透はどのように行なっているのでしょうか。先ほど「現場の方はデジタルへの苦手意識がある」とおっしゃっていましたが、自分ごとになっていないと、勉強しても結局身についていないということが起こりそうですよね。

成瀬: そうですね。そこで当社が重視しているキーワードである「キャリア自律」が鍵になってくると考えています。まずは、デジタルが分からなければ生き残っていけない、という現状を理解してもらうことが必要です。

そのためには、「このままではクビです」というような、脅しでは意味がないと思います。本人自身が人生を考え、どう生きていくかを考えたうえで、主体的なキャリア設計をしてもらう必要があると思っています。

デジタルに関するリスキリングに取り組むことが重要ですが、その前に先ず「自分事化」するためのマインドセットを行うことが重要だと考えています。

小泉: 個人のキャリアから組織運営や経営層への研修まで、幅広く支援されるからこそDX推進が行えるということが分かりました。

それでは最後に、読者の方にメッセージをお願いします。

成瀬: IoTNEWS読者の方は実際にDXを推進されている方も多いと思いますが、先ずは自らの悩みや取り組みを発信して、周りに興味を持ってもらうことが重要だと考えています。

例えば記事のシェアやSNSでの発信など、勉強する過程で良いと思ったものを周りに共有する。そうすることで輪を広げ、社内外に仲間を増やしていくことで、結果的に自分の仕事も回りやすくなると思います。

小泉: 本日は貴重なお話をありがとうございました。