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高度な撮影技術で広島の歴史や魅力をデジタル空間で拡張し、広げていく ―広島テレビ 佐藤氏インタビュー

広島県及び広島県観光連盟(HIT)は、観光地のスマート化を目指し、デジタル技術を活用して観光施設やその周辺エリアへの誘客などを行う観光関連事業者に対し、経費の一部を補助する取り組みを行なっている。

そうした広島県とHITの協力のもと、広島テレビ放送(以下、広島テレビ)は、たびまちゲート広島とともに、「平和コンテンツのデジタルマップ構築と、解析技術による室内換気環境可視化事業」に取り組んでおり、「デジタル3Dコンテンツin平和記念公園」という体験型デジタルコンテンツを、2022年3月8日に一般公開した。

これは、広島市の平和記念公園や、原爆投下当時の広島の様子を展示している周辺の平和関連施設を、空撮や360°映像、さらには3Dモデリングといった技術により、デジタル上に再現することで、街散策や施設見学、施設の換気効果シミュレーションが体験できるサービスだ。

そこで本稿では、「デジタル3Dコンテンツin平和記念公園」の具体的なサービス内容や開発の背景、今後の展開などについて、広島テレビ放送株式会社 DX事業推進室 DX事業部 新規事業プロデューサー 佐藤晃司氏に伺った。(聞き手:IoTNEWS代表 小泉耕二)

「デジタル3Dコンテンツin平和記念公園」が、広島の魅力を知るきっかけの場になる

IoTNEWS 小泉耕二(以下、小泉): 平和記念公園や周辺施設をデジタル上で体験できる「デジタル3Dコンテンツin平和記念公園」を一般公開されたということですが、どのような背景でこうしたコンテンツの開発が行われたのでしょうか。

広島テレビ 佐藤晃司氏(以下、佐藤): 平和記念公園には、世界遺産に登録されている原爆ドームや原爆投下当時の様子が展示されている広島平和記念資料館など、一般的に広く知られている施設があり、多くの方々が訪れています。

一方、その周辺にある平和関連施設はあまり知られていないという事実もあります。

例えば今回一緒に取り組みを行ったたびまちゲート広島が、広島県より指定管理している「レストハウス」という見学可能な平和関連施設がありますが、あまり認知されていません。

レストハウスは、原爆ドームから広島平和記念資料館までのちょうど中間地点に立地しており、観光に訪れたほとんどの人が通りかかる道ですが、認知されていないためなかなか訪れてもらえません。

また、現在は新型コロナウィルスの影響で、国内外問わず、なかなかリアルに訪れることが難しいという現状もあります。

そうした課題に対し、デジタル上でも平和記念公園や周辺関連施設の体験を可能にすることで、興味や関心を持ってもらうといったことや、平和教育の予習・復習などを目的に、「デジタル3Dコンテンツin平和記念公園」を構築しました。

そしてその延長線上で広島自体に興味を持ってもらい、実際に訪れるきっかけになってほしいという想いがあります。

そこで広島の魅力を伝えるためにも、「デジタル3Dコンテンツin平和記念公園」のポータルサイトでは、平和記念公園を中心に空撮で360°映像を撮影し、街並みが一望できるようにしています。

また、当時の被曝電車が今でも走っているのですが、その音と広島の街の音を織り交ぜて流すことで、よりリアルな広島の街並みを感じてもらえるような設計にしています。

高度な撮影技術で広島の歴史や魅力をデジタル空間で拡張し、広げていく ―広島テレビ 佐藤氏インタビュー
「デジタル3Dコンテンツin平和記念公園」のポータルサイト。ドラッグすることで360°の景観をみることができる。

平和記念公園は景観を守るために、近くに高い建物がほとんどありません。そのため、景観が守られている一方、今回のような眺望はどこからも見ることはできませんでした。

また、平和記念公園周辺の空撮はかなり制限が厳しいのですが、今回の取り組みを通じて実現することができ、改めて自然豊かな街並みを一望してもらうことができました。

小泉: 川と海が見えて、俯瞰で見るとより街並みの美しさが分かりますね。

リアリティの追求と、現実を拡張させるコンテンツ設計

小泉: ポータルサイトにアイコンが浮かび上がっていますが、これは何でしょうか。

佐藤: アイコンを押すと、各コンテンツに遷移される設計になっています。現在アイコンには、黒枠と白枠、人が歩いているマークがついている3種類あります。

黒枠は360°画像を見ることができ、施設によっては様々な視点から360°の景色を見ることができます。

高度な撮影技術で広島の歴史や魅力をデジタル空間で拡張し、広げていく ―広島テレビ 佐藤氏インタビュー
原爆ドームのアイコンを押すと、説明書きと各視点からの360°映像を見ることができる。

また、各施設の説明書きは、広島平和文化センター元理事長であり、平和学習ツアーを行っている平和教育NPO法人 PCV代表のスティーブン・リーパー氏が監修しており、ツアー内で紹介されている内容をそのまま盛り込んでいます。

自動ガイドツアー機能もリーパー氏が監修しており、実際にガイドツアーを受けながら散策しているかのように、各施設の音声ガイドを聞きながら巡ることができます。

なお、こうした自動ガイドツアーを含めた全てのコンテンツは、英語に切り変えることができる設計にしています。

小泉: これまで行われてきた実際のツアー内容を盛り込むことで、デジタル上であっても、よりリアルな体験をすることができますね。

佐藤: 次に白枠のアイコンですが、ここをクリックすると、被爆前の平和記念公園周辺の様子を見ることができます。

高度な撮影技術で広島の歴史や魅力をデジタル空間で拡張し、広げていく ―広島テレビ 佐藤氏インタビュー
MR技術により、戦前の街並みを合成している。

海外の方などを中心に、「原爆が落ちたのが公園で良かったね」とよく言われます。しかしご覧の通り戦前は公園ではなく、映画や洋食などモダンな文化を発信する広島有数の繁華街でした。

こうした街並みに落ちたのだということを理解してもらうために、中島町と川岸の部分のみをMR合成しています。

そして、人が歩いているマークがついている3箇所が、メインのコンテンツとなります。

この3箇所は、施設全体を3Dモデリングしており、施設内を自由に歩くことができます。

さらに、施設内の各ポイントにタグづけして情報を付加することができ、説明書きを埋め込んだり、映像を埋め込んだりすることができます。

高度な撮影技術で広島の歴史や魅力をデジタル空間で拡張し、広げていく ―広島テレビ 佐藤氏インタビュー
レストハウス2階のカフェに設置されている被曝ピアノ。設定されたタグをクリックすると、説明書きと動画が現れる。

また、デジタルコンテンツならではの特徴としては、普段安全面などの関係で入れない箇所に関しても、アーカイブして見学できるという点です。

例えば先ほどのレストハウスでは、原爆の衝撃を受けたにも関わらず崩落することなく、当時のまま形態をとどめている地下室があります。

この地下室には、当時忘れ物を取りに行ったことで建物内での唯一の生存者となった方の手記などを展示しており、デジタルコンテンツ内で閲覧することも可能です。

また、現地では安全面で立ち入り禁止となっている地下室からの旧階段についても、ウォークスルーすることが出来ます。

高度な撮影技術で広島の歴史や魅力をデジタル空間で拡張し、広げていく ―広島テレビ 佐藤氏インタビュー
レストハウスの地下室。地下室の説明や、生存者の手記などが展示されている。

小泉: こうして見てみると実際に行きたくなりますね。また、オンライン上での体験という価値だけでなく、デジタルコンテンツ化されることでリアルな体験が拡張されていくのですね。

佐藤: オンラインで見られてしまうと、実際に来てくれなくなるのではないかという議論もありましたが、やはり雰囲気や空気感は現地に行かなくては感じることができません。

そこであえて、平和記念資料館の展示物に関しても、権利関係の調整を行ってオンライン上で見られるようにしています。

オンライン上で「広島」や「平和」について体験してもらうことで、興味を持ってもらい、実際に行ってみたいと思ってもらえるような仕組みを構築しています。

小泉: 知ることでより興味を持ちますし、実際に足を運びたくなりますよね。

各コンテンツ開発を実現させた「技術」や「歴史」

小泉: また、デジタルコンテンツでありながら、かなりリアルかつ高精細な映像だということも、見る人を惹き付ける重要なポイントだと感じました。

この映像クオリティはやはり広島テレビの経験や人材が活きているということなのでしょうか。

佐藤: 映像クオリティに関しては、空撮の8K映像や360°撮影など、これまで培われてきた広島テレビの撮影技術が存分に活かされています。納得のいく映像が撮れるまで、施設内の撮影を何度も行いました。

また、広島テレビはこれまで平和に関するドキュメンタリーや報道も数多く行ってきたという歴史があります。

今回のコンテンツを実現させるためには、撮影許可をはじめとする権利関係や申請が必要でしたが、様々な関係者の方々に協力していただくことで実現することができました。

小泉: 広島テレビが中心となって事業を立ち上げたことで、今回のデジタルコンテンツが完成したのですね。

佐藤: また、空気が何分間で入れ替わるかを予測する「換気効果シミュレーション」に関しては、大手自動車関連各社からも受託解析を行っているエンジニアリング企業に協力してもらうことで、精度の高いコンテンツが実現しました。

高度な撮影技術で広島の歴史や魅力をデジタル空間で拡張し、広げていく ―広島テレビ 佐藤氏インタビュー
空調及び窓からの風による換気状況を示している。

もともと広島の自動車会社であるマツダでは、スパコンの技術を活用したシミュレーションを得意としています。

また、中四国地域で唯一スパコンや各種CAEソフトウェアをセットで利用できる拠点「ひろしまデジタルイノベーションセンター」からも、多くのアドバイスをいただきました。

そうしたエンジニアリング企業の技術と3Dモデリング、現地の空調の様子や平和記念公園周辺の過去10年分の気象情報などを織り交ぜて構築しています。

小泉: こうしたシミュレーションは幅広く応用が効く技術ですね。

佐藤: おっしゃる通りです。こうした技術があるということを知ってもらい、広島県のホテルや観光事業者の方々が使いたいと思ってもらえれば、今後是非展開していきたいと思っています。

3Dモデリング技術の可能性

小泉: もともと3Dモデリング技術は、製造業や物流倉庫のシミュレーションに活用されることが多いと思うのですが、今回観光施設での活用をしてみて、どのような感想を持たれましたか。

佐藤: 今回、実際に現地で測量したデータを活用してMatterportに取り込んでいるので、かなり現実に近い施設環境下でのシミュレーションが可能なのだということを実感しています。

例えば換気シミュレーションでいうと、建物の構造はもちろん、建物内に置いてある机やテーブルといったモノなども加味し、モノを移動した場合なども含めて風の流れを予測することができます。

また、建物全体が3Dでモデリングされているため、施設全体を見ることができるといったことや、施設内のモノや壁などの長さを図ることも可能です。

高度な撮影技術で広島の歴史や魅力をデジタル空間で拡張し、広げていく ―広島テレビ 佐藤氏インタビュー
机の横幅を計測している。測量モードにすることで、空間の全てにおいて計測を行うことができる。

こうした緻密なデジタルツインのもと予測ができることが分かったので、防災や浸水シミュレーションなどにも応用することができるのではないかと考えています。

小泉: そうした技術が広島テレビに蓄積されることで、表現の幅も広がっていきそうですね。

デジタルコンテンツを発展させ、新たな価値創出を行う

小泉: 今回「デジタル3Dコンテンツin平和記念公園」ということで、一旦完成されたコンテンツが出来上がりましたが、今後様々な発展への期待が広がります。

例えばデジタル上で旅の記録を残せたり、観光客自身がコンテンツを足せる仕組みができたりと、インタラクティブな機能をつけるなど、可能性の幅がとても広いなと感じます。

今後の展開や展望などがあれば教えてください。

佐藤: 大きくは2つの展開を構想しています。1つ目は、この「デジタル3Dコンテンツin平和記念公園」の、地域や観光スポットといった領域を拡充していくという取り組みです。

高度な撮影技術で広島の歴史や魅力をデジタル空間で拡張し、広げていく ―広島テレビ 佐藤氏インタビュー
広島テレビ放送株式会社 DX事業推進室 DX事業部 新規事業プロデューサー 佐藤晃司氏

広島の観光地の課題は、滞在時間の短さや消費単価の少なさなどが挙げられています。

そこでまずは認知を高め、位置関係も分かるデジタルコンテンツを活用することによって、スポットの認知や楽しみ方の訴求などが行えればと思っています。

例えば平和記念公園の周辺にはお好み焼き屋さんや弓道が体験できる施設など、様々な観光施設があります。

また、今後平和記念公園の近くに新しいスタジアムができる予定で、大きな道路も建設されます。そうした周辺施設や新たなスポットの誘客も行える仕組みにしていきたいです。

さらには、宮島や尾道など、少し離れた場所も空撮を活用することで、数多くある広島の観光スポットを空でつないで、コンテンツに組み込んでいければと思っています。

2つ目は、平和教育のコンテンツとしての発展です。

現在広島市やたびまちゲート広島と共に、修学旅行生などに対する教育コンテンツとして、どのように組み込んでいくかを模索しています。

ただ単にオンライン上で公開して、「自由に使ってください」ということではなく、例えば資料館の学芸員さんの解説を聞きながらオンラインで進めていくなど、複合的なコンテンツづくりをしていきたいです。

また、修学旅行生を受け入れている旅行会社からも、予習・復習のツールとして活用したいという引き合いが来ており、連携をしながら進めていければと思っています。

小泉: 本日は貴重なお話をありがとうございました。

デジタル3Dコンテンツ in 平和記念公園

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