再生可能エネルギーの導入とエネルギーマネジメントの両面で、脱炭素を実現する ―オムロン 田渕博史氏インタビュー

オムロン フィールドエンジニアリングは、鉄道や道路、金融機関など緊急性が求められる公共性の高い社会システムを中心に運用・保守・点検といった、フィールドサービスを主事業として展開している一方で、製造業をはじめとするさまざまな企業のカーボンニュートラル(脱炭素)へ向けた取り組みの支援を加速させている。

そこで本稿では、エネルギー事業に取り組むようになったきっかけや具体的なカーボンニュートラルへの取り組みや事例、今後実現していきたい未来について、オムロン フィールドエンジニアリング株式会社 エネルギーマネジメント事業本部 田渕博史氏にお話を伺った。(聞き手: IoTNEWS 小畑俊介)

インフラの施工や保守・運用の経験を活かし、エネルギー課題にも取り組む

IoTNEWS 小畑俊介(以下、小畑): まずは、御社の事業内容と、カーボンニュートラルなどのエネルギー事業に取り組まれるようになったきっかけについて教えてください。

オムロン フィールドエンジニアリング 田渕博史氏(以下、田渕): 弊社の主事業は、グループ会社であるオムロン ソーシアルソリューションズが製造・販売しているインフラに関する機械やシステムの設置工事や保守・メンテナンスですが、15年ほど前に、現在のエネルギーマネジメント事業本部の前身である環境事業本部を立ち上げ、エネルギー課題の解決への取り組みを開始しました。

例えば、エネルギー使用量の大きい事業者へ向けた省エネ工事や、太陽光発電設備や蓄電池などの企画提案、設置工事、運用、保守などを行っています。

小畑: 15年ほど前ということは、かなり以前よりエネルギー事業に取り組まれているのですね。

田渕: 最近カーボンニュートラルについてよく目にするようになったという方も多いかもしれませんが、日本でのエネルギーに関する取り組みは、以前より行われています。

例えば1979年に制定された省エネ法や、1998年に公布された地球温暖化対策推進方など、エネルギーの効率化や温室効果ガス排出に関する法律が策定されています。

また、2012年には再生可能エネルギー(以下、再エネ)普及へ向けて、再エネ発電を行う事業者に対して、発電された電気を決められた価格で国が買い取るという固定価格買取制度も導入されました。

そうした流れの中で、弊社もエネルギー事業への取り組みを始めました。しかし当時は、法律自体に強制力や罰則規定があるわけではなかったこともあり、なかなか進展しないという状態でした。

しかし昨年開催されたCOP26(※)をはじめとする世界的な脱炭素への流れを受け、最近は引き合いやお問い合わせがとても増えており、弊社としても取り組みを加速させています。

※COP26: 気候変動枠組条約に加盟する各国が、気候変動に関して国際的なルールを話し合う「国連気候変動枠組条約締約国会議(通称:COP)」の26回目の会議。

スペースを有効活用したカーポート型ソーラーシステムの事例

小畑: 実際にエネルギーマネジメント事業本部として取り組まれた事例について教えてください。

田渕: 岡山県にある村田製作所様に、500台分の駐車場を活用したカーポート型(屋根と柱のみの簡易的な車庫)のソーラーシステムを導入した事例があります。

再生可能エネルギーの導入とエネルギーマネジメントの両面で、脱炭素を実現する ―オムロン 田渕博史氏インタビュー
村田製作所に導入されたカーポート型のソーラーパワープラント

小畑: どのような背景で導入に至ったのでしょうか。

田渕: 村田製作所様は、「2050年までに再エネ導入率を100%にする」という目標を掲げているなど、もともと気候変動対策にとても力を入れている企業です。

そうした中、自社の拠点に太陽光発電設備を導入したいという依頼があり、受注しました。

小畑: 今回駐車場を活用したカーポート型のソーラーシステムを導入されたということですが、なぜ駐車場を活用して太陽光発電設備の設置を行ったのでしょうか。

田渕: 事業者としては、たとえ保有する空き地があったとしても、将来的には建物を建てるなど、土地を有効に活用したいと考えます。そこで普段から駐車スペースとして利用している屋根の上であれば、事業上邪魔になりません。

また、屋根の上といっても強度の問題もあるので、屋根のどこにでも設置できるわけではありません。そうした事柄を加味した結果、今回の事例ではカーポート型のソーラーシステムにたどり着きました。

小畑: こうした太陽光パネルは、御社やグループ会社で製造したのでしょうか。

田渕: もともとオムロン ソーシアルソリューションズでは、家庭向けの太陽光発電の電力を変換するパワーコンディショナーという機械の製造は行っていますが、大規模な産業領域に関しては、オムロングループ内部で製造しているものはほとんどありません。

そのため、産業領域で事業展開を行っている弊社は、要望やニーズに合わせて各社様々なメーカの製品から最適なものを調達し、設計・施工を行うという形で事業を展開しております。

調達をする際の製品選定に関しては、弊社の自社施設にて、再エネやそれに伴う設備などを実際に導入してみて、どのような使い方をするのが合理的なのかを実証しながら行っています。

太陽光発電を例に挙げると、どのような状況で障害や発電量が落ちるのかといった実証を行うなど、トライアンドエラーを行いながら選定をしています。

また、村田製作所様との取り組みでは、ソーラーシステムを1期、2期と、2回の工事を経て完成させました。

再生可能エネルギーの導入とエネルギーマネジメントの両面で、脱炭素を実現する ―オムロン 田渕博史氏インタビュー
左側が1期目につくられたソーラーパワープラント。右側が2期目につくられたソーラーパワープラント。

その際、1期目で見えてきた課題を2期目で解消するために製品を変えるなど、メーカに囚われていないからこその提案ができたと思っています。

小畑: 確かに「駐車場」と言っても、現場によって敷地の広さや環境、日の当たり具合など様々ですよね。そうした環境や顧客のニーズに合わせた導入を行っているということが分かりました。

こうしたカーポート型や、屋根の上に太陽光パネルを導入する事例は増えてきているのでしょうか。

田渕: カーポートへの導入という引き合いは、村田製作所様の事例が広まったこともあり、非常に増えています。やはり建物の屋根の上は強度的に今後数十年使い続けるのは難しいという、同じような悩みを持たれている事業者も多いため、カーポートは注目されています。

また、工場は郊外にあることが多く、車通勤が一般的です。そのため、駐車場スペースを広く確保している工場は多く、有効活用したいというニーズがこの1年ほどで増えています。

中小企業もエネルギー課題に取り組むべきメリット

小畑: 村田製作所の事例は大規模な工場を保有する企業の例だと感じるのですが、小規模な工場のみ保有しているような中小企業などは、導入するのは難しいのでしょうか。

田渕: 日本においては、もともと国が中小企業を支援する補助金の制度など、中小企業をサポートしようという動きがあります。

そうした中で、環境省は国際的な再エネのイニシアティブRE 100のアンバサダーとして参画し、RE Actionといった、企業・自治体・教育機関などの団体が、使用電力を100%再エネに転換する意思と行動を示す新たな枠組みを設けています。

また、環境省や経済産業省においても、太陽光発電導入を促進するための補助金を出すなど、多くの予算が再エネや脱炭素に割かれています。

こうした再エネや脱炭素への取り組みをアピールできる場や、資金調達も含めて国の体制が整いつつあるので、中小企業もこうした枠組みを活用しながら取り組むメリットは大いにあると考えています。

小畑: 一方で、利益が出なければ単純なコストアップだと感じてしまう企業も多いのではないでしょうか。費用対効果についてはどのように考えていますか。

田渕: 太陽光発電に特化してお話しすると、再エネの固定価格買取制度の買取額が下がるのに比例して、以前よりも太陽光設備の製造コストや建設コストが下がってきています。

そのため、初期投資はかかるものの、これまでかかっていた初期負担は小さくなるとともに購入する電力量も少なくなるので、結果的に製造原価の低減に繋げられます。

また、ESG投資への流れや取引先からの評価など、対外的なアピールとしても取り組む意義は大きいと考えています。

現在でも一部ですが、製品の製造において再エネを活用している「カーボンニュートラル製品」も登場し初めています。

現状ではまだ工場全体を再エネで賄うのは難しいですが、今後そうした流れが増してきたときに、サプライチェーンも含めた脱炭素が求められます。

そうした先々の投資としても、とても意味のあることだと考えています。

今後必要となる、先を見通した準備や投資

小畑: そうした「カーボンニュートラル製品」などの流れが増してくると、再エネで作った電力が、どこでどれだけ使用されているかを追いたいというニーズも出てくると思うのですが、何か取り組まれていることはあるでしょうか。

田渕: 自社の施設内全体での再エネの利用箇所と、その状況を追うのは非常に難しいのが現状です。工場内では「電気」以外にも、ガスや油というエネルギーも使われますので、それら全てを区別して可視化していくのは困難です。

ただ、電力やエネルギーの可視化を行うことは可能ですので、ある特定の製造ラインや工程の電力を測り、太陽光で賄えそうなら導入に踏み切るといったことはできます。

また、リアルタイムで100%再エネを活用するのは難しくても、太陽光と蓄電池を掛け合わせて、溜めておいた電力を活用するといったことや、年間を通しての比率で見ていけば、結果的に再エネ率を増やしていくという方向性も考えられます。

現時点では、カーボンニュートラルの製品と名乗るための明確な基準があるわけではないので、そこはこれから議論がされていくポイントだと思います。

しかし基準や制度が決まった際に、そこに対応できるよう準備をしておくことが重要だと考えています。

全体のエネルギー最適化へ向けたEMSの構築

小畑: 今後はどのような取り組みをされていきたいとお考えですか。

田渕: まずは、太陽光発電や蓄電池を活用して、リアルタイムに再エネを提供していき、脱炭素へのサポートをしっかり行っていきたいと思っています。

そうした事例を増やした後には、太陽光発電のみならず、工場全体でのエネルギー最適化へ向けた取り組みを推進したいと考えています。

もともと弊社は省エネ設備や空調設備、ボイラーなど、様々なエネルギーを使う設備の省エネ化を長年やっています。

そこで、燃料系のエネルギーも含めた使用量をどう最適化し、カーボンニュートラルを実現していくかといったニーズや課題に対して、EMS(エネルギーマネジメントシステム)を構築しようとしています。

現在でも、太陽光と蓄電池を組み合わせた際に、災害など非常事態の電力は確保しながら、電気の使用量に応じて蓄電池からの放電を行うといったような、コントロールシステムの準備は行っており、一部導入も始まっています。

それを発展させ、工場の設備や生産設備、エネルギーユーティリティ設備などのデータをEMSに紐付け、生産状況に合わせて最適なエネルギーの流れを生み出せればと思っています。

工場の生産と結びついていれば、オンサイト・オフサイト問わずに再エネでエネルギーを賄うことができるのではないかと計画しています。

小畑: 本日は貴重なお話をありがとうございました。

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