組織を牽引し、既存ビジネスをDXするための挑戦 ーSORACOM Discovery 2022レポート2

ソラコムが主催する年次IoTカンファレンス「SORACOM Discovery 2022」が、7月6日〜7日、オンラインにて開催された。

本稿ではカンファレンス1日目、「DXへの道 DXは既存ビジネスをどう変えるか」と題し、既存ビジネスのDXを推進してきたシーメンスヘルスケアと日本瓦斯の取り組みや、組織やカルチャーをどのように変革してDXを実現させていくのかについて行われたディスカッションの内容を紹介する。

登壇者は、シーメンスヘルスケア株式会社 IT本部 本部長 長谷川勇一氏(トップ画右)と、日本瓦斯株式会社 DXアドバイザー 松田祐毅氏(トップ画右中央)、モデレータはフジテック株式会社 専務執行役員 デジタルイノベーション本部長 友岡賢二氏(トップ画左中央)と、ノンフィクションライター 酒井真弓氏が(トップ画左)が務めた。

既存事業をDXするため、活用されるソラコムソリューション

まず、シーメンスヘルスケアと日本瓦斯(以下、ニチガス)の事業概要と、DXへの取り組みが簡単に紹介された。

シーメンスヘルスケア

シーメンスヘルスケアは、ドイツに本社を置く、医療機器の研究・開発・製造・販売・保守メンテナンスを行うグローバル企業だ。

DXへの取り組みは、胸部CT画像AI解析受託サービスなどの医療機関向けのデジタル化と、3年前より推進されている全社的なデジタル変革の取り組み、「Digital Company」プログラムなどが実行されている。

ソラコムのソリューションを活用した事業は、アドバンスト・モビリティ・ソリューション「Medical-ConneX」が挙げられた。

組織を牽引し、既存ビジネスをDXするための挑戦 ーSORACOM Discovery 2022レポート2
アドバンスト・モビリティ・ソリューション「Medical-ConneX」で活用されている大型車両のイメージ

これは、大型車両に、CT装置や検体検査装置、超音波画像診断装置、AI画像解析ソフトウェアを含むシーメンスヘルスケアの製品やシステムを搭載し、災害医療や往診・巡回車両として活用されるソリューションだ。

しかしシーメンスの製品群は、温度や湿度管理を徹底する必要があり、様々な環境へ出向くことを想定された車両内の環境をコントロールすることが課題であったという。

また、災害時に出動することを想定すると、現在地を確認できることが必要があった。

そこで、ソラコムのビーコン対応GPSトラッカーGWやBLE温湿度センサをはじめ、通信やデータベース、ダッシュボードなど、ソラコムのソリューションを活用して実現したのだ。

組織を牽引し、既存ビジネスをDXするための挑戦 ーSORACOM Discovery 2022レポート2
ソラコムのソリューションを活用して車両位置と温湿度情報の可視化を実現している。

ソラコムのソリューションを活用した理由を酒井氏が伺うと、「大きな理由は、自分たちでスモールスタートすることができ、すぐに結果が分かることだ。」と長谷川氏は述べる。

グローバルな企業であるが故に全社を動かすことは難しいが、スモールスタートでローカルに実験することができれば、その結果を示して本格始動へと移行することができるのだという。

ニチガス

ニチガスは、LPガス・都市ガス及び電力の供給販売を主軸に、ガスに関する周辺サービスの提供を行っているが、デジタル化への注力を強化している企業でもある。

例えばガスメータや配送車・トレーラー、工場や営業所といった、ニチガスが物理空間上に保有する抽象化されたデジタルデータを、デジタル空間上で活用するための、メタバース化構想が描かれている。

組織を牽引し、既存ビジネスをDXするための挑戦 ーSORACOM Discovery 2022レポート2
ニチガスDXの全体像を表した図

この構想の、物理とデジタルの橋渡しの役割を、ソラコムのソリューションが担っているのだという。

その他にも、ソラコムの回線を活用したガスメータの自動検針装置「スペース蛍」を共同で開発したり、完全無人の浜松営業所にソラコムのエッジAIカメラ「S+ Camera」を導入したりと、ソラコムのソリューションが活用されている。

こうしたソラコムのソリューション活用や共同開発の始まりは、デバイスは既存製品を活用しながら、データを受けるクラウドの仕組みを作るところからだったと松田氏は語る。

そして松田氏が描いた全体構成の構想と、ソラコムのソリューションアーキテクトの方との構想が一致したことで、本格的な開発が始まったのだという。

また松田氏は、「今後も増えていくであろう複数ある通信の選択肢を、途中で変えたとしても全体の構成を変える必要がなく、物理とデジタルをつなげることができるのが、ソラコムのサービスなのだ。」と語った。

組織を巻き込むVISION共有と、業務やシステムの整理

前章で紹介したDXへの取り組みには、様々なステークホルダーが関わっており、社内だけにおいても様々な部門が存在し、部門ごとに日々の業務があるという構造になっている。

既に構築されている組織が、DXという新たな取り組みを行う際、どのようにVISIONを共有し、実際の行動に移していくのかについて、友岡氏は2人に投げかけた。

松田氏は、ニチガスとソラコムが共同開発した「スペース蛍」のプロジェクトを例に挙げ、ポイントは2点あるのだと言う。

1つ目は、VISIONの共有だ。

スペース蛍は、ガスメータをオンライン化し、自動検針や開閉栓、保安データの取得を可能にするといったプロジェクトだ。

組織を牽引し、既存ビジネスをDXするための挑戦 ーSORACOM Discovery 2022レポート2
「スペース蛍」の概要図

このプロジェクトには、ニチガスの技術系メンバーとビジネス系メンバー、そしてソラコムのメンバーが関わっていたが、日々ミーティングを重ねるも、なかなかプロジェクトが進行しなかったのだという。

この理由に関して松田氏は、「この時点で共有していたVISIONは『データの収集』という、抽象度の高いVISIONのみの共有であったからだ。」と語る。

そこで、データ収集を行うことで実現できる「在庫検知による配送の新しい仕組みの構築」や「保安業務への活用」といった具体的な成果を共有し、必要であれば実際に試作品を見せるなどして実感を持ってもらったのだ。そうして足並みを揃え、共に進んでいくことが重要だとした。

2つ目は技術的な観点で、システムドメインの整理を挙げた。そのためにまず、1人が複数の部署を跨いで業務を行なっていることが属人的なシステムを生む原因だとし、業務を分解して整理したのだ。

その上で、ビジネスドメインを分解し、システムのドメインを分け、データを整理した上で、それぞれを結合させ新たなシステムとして構築したのだという。

また、レガシーシステムに関しては、それ自体を改変するのではなく、周辺に新たな技術を活用したシステムを構築し、必要なAPIのみを作った。

これにより、インターフェースが決まり、外部との連携をする際にレガシーシステムを意識しなくても良くなったのだ。

「最終的にレガシーシステムを解体するにしても、一度に短期間で行うのは無理がある。そこで、各部門との関係性を構築し、改変できそうなタイミングで周辺のシステム構築を行いながら、良きタイミングを見計っている。」と松田氏は述べた。

「デジタルカンパニー」へ向け、トップダウンとボトムアップ両軸で進める

一方シーメンスヘルスケアは、世界各国で事業を展開するグローバル企業であるため、「トップダウンで物事を推進している印象がある」と言う友岡氏に対し、「そう簡単にはいかない」と長谷川氏は述べる。

シーメンスヘルスケアでは、全社をあげたデジタル推進を行うため、「デジタルカンパニーの推進」といった事業戦略が打ち出され、全社的なデジタル変革の取り組みである「Digital Company」プログラムが実行されている。

しかしデジタルへの取り組みは歴史があり、IT本部をはじめとする一部の部門が、社内でのユースケース作りを以前より行っていたのだという。

例えば、オンプレミスのサーバをクラウドへ移行させたり、全ての業務をモバイルで遂行できるようにしたりと、ボトムアップの取り組みを重ね、その成果を社内に見せていった。

そうしたボトムアップの取り組みを2年ほど行っていたところに、「デジタルカンパニーの推進」という強烈なトップダウンが行われたことで、少しづつ仲間を増やすことができたのだという。

とはいえ、各部門は日々の業務があり、PLベースの達成すべき目標がある。

つまり、バリューチェーンはサイロ化しているため、デジタルカンパニーへ向けた共通の意識があったとしても、部門ごとにデジタルカンパニーへ向けた目標を打ち立てるため、取り組み自体もサイロ化してしまうのだ。

これに対し長谷川氏は、「まずは、各部門がサイロ化したとしても、全社の目標のために新たな取り組みを行う必要がある。しかし、取り組んできたものをサイロ化させたままにせず、つないでいく必要があるため、現在各部門で蓄積されたデータをつなぐ取り組みを行っている。」と語る。

組織を牽引し、既存ビジネスをDXするための挑戦 ーSORACOM Discovery 2022レポート2
シーメンスヘルスケア株式会社 IT本部 本部長 長谷川勇一氏

また、各部門共通に響くのが「顧客視点」であるため、顧客とのエンゲージメントをデジタル化していくといったことや、モノの売り方をデジタル活用により変えていくという取り組みを行っているのだという。

モノづくりにおけるソフトウェアの活用方法

友岡氏は次に、モノづくりを行っていたメーカと、ソフトウェアベースの発想では、カルチャーが違うのではないかという点に話を移す。

例えばスマートフォンはソフトウェアを主軸としたハードウェア製品の代表例であるが、そうしたソフトウェア起点の製品開発は、これまで物理的な「モノ」を作っていた企業においてギャップはなかったのか、どのように開発を推進しているのかについて2人に伺った。

シーメンスヘルスケアの製品は、過去数年、製品そのものの性能で選ばれていた時代があったのだという。しかし、競合の品質向上も著しく、品質のみでの競争であれば、どうしても横並びになってしまう。今後も技術革新は必要である一方、製品自体や性能だけでは差別化ができなくなっているのだと長谷川氏は語る。

そこでシーメンスヘルスケアでは、以前より医療プラットフォームを自社で開発しており、プラットフォームを通してサービス提供することで、付加価値をつけている。

つまり、単純に製品を販売して設置するだけでなく、プラットフォームを通じてアップデートやメンテナンスする環境を構築するなど、アフターフォローも含めたサービス提供をしているのだ。

一方ニチガスは、トップ自らがデジタル化への舵を切っていることから、初めから理解はあったのだと松田氏は述べる。

しかし、ニチガスの製品自体は、松田氏が就任した当初、ハードウェア自体に機能を詰め込むことで、高性能かつ高価格化していた。そのため、顧客は使わない機能があったとしても同価格を支払う必要があり、オペレーションが変わったとしても柔軟な対応ができない状態であった。

そこで、ハードウェアには最低限の機能だけに留め、あとはソフトウェアで拡張していく発想を推奨したのだという。

エンジニア確保や内製化へ向けた取り組み

トップの理解が得られ、全社的な方向性が決まったとしても、必要なエンジニアをどのように確保し、既存社員とのコミュニティ形成を行っているのかについて、友岡氏は疑問を投げかける。

これに関し松田氏は、「現状課題は残っているが、まずは興味を持ってもらうことが大切だ。」と言う。

日本の会社では、エンジニアが限定的に自分のタスクを持っているケースが多い。そのため社内教育においては、現場のタスクの延長線上からは少し外れたとしても、エンジニアが興味を持ちそうな目標を掲げ、そこに到達するためのプロセスを考えてもらうのだという。

外部エンジニアに対しても同様に、「ニチガスが掲げる目標やVISIONを伝え、面白そうだと思ってもらうことから始めている。」と松田氏は述べる。

また、友岡氏は、「良い技術者を集められたとしても、技術ベースではなく、どうビジネスに興味を持ってもらい既存事業にコミットしてもらうかが課題ではないか。」と尋ねると、松田氏は「日本の企業はサイロ化しているが故に、DXを実現することができれば、良いサービスが生まれる。」と語る。

組織を牽引し、既存ビジネスをDXするための挑戦 ーSORACOM Discovery 2022レポート2
日本瓦斯株式会社 DXアドバイザー 松田祐毅氏

そこで、垂直統合していたものを水平統合した上で事業を切り出し、DXしていく道筋を考えていく。例えば、「配送」という事業を切り出し、DXを実現していくといったことだ。そうして切り出した事業を遂行するため、エンジニアに対しては、PoC的に実際にデータを集め、AIで分析して表現するなどをしてイメージを共有し、経営層に対してはマネタイズを打ち出す。

このように、社内の各関係者に理解を得ることで、実際に取り組みを遂行する足がかりをつくるのだと松田氏は語った。

長谷川氏は、「社内の人材は医療の各専門領域で働いているため、いきなりソフトウェアエンジニアに転身するのは難しい」とした上で、デジタル活用による成功事例やユースケースを紹介する中で、自分ごととして捉え、チャレンジできるのではと考える人材も出始めているとした。

また、エンジニアはインドにて内製化しており、今後は、日本、韓国、中国向けにデリバリーセンターを作る計画を立てているため、そこにも人材を配置していくという。

仲間を増やし、挑戦を続ける

最後に酒井氏が、DXを推進している方々へ向けてのメッセージをお2人に伺った。

松田氏は、「一人だけで頑張らずにステークホルダーで連携してほしい。若い人たちは面白いことやりたいと思っている人がたくさんいるので、現場に行ってみて、仲間を見つけてDXの旅に出てほしい。」と述べた。

長谷川は、「一番大事にしていることは、失敗を許容すること。経営陣は寛容な態度で、実際に実行する人は失敗を恐れずにチャレンジしていく。一つの成功が人を寄せつけるため、小さく初めて、成功を積み重ねることで、やがて大きなことが成し遂げられる。『DXをするんだ』といきなり大きく構えずに、目の前にある課題を解消することから始めてみてほしい。」と、チャレンジしていくことの重要性について語った。