生産設備立ち上げ工数削減に貢献する、オムロンの統合開発環境「Sysmac Studio」

工場の生産設備は、複雑化が進んでいる。以前は、町工場で製品を作っていたような単機能をこなす小さな設備が多かったが、いくつかの工程を経て製品を生産する生産ラインのような設備が増えている。

生産設備が複雑になると、それだけ立ち上げ工数や機器の設定に要する時間も増える事になる。

これまでの生産設備の立ち上げでは、PLCを設定する場合はPLCのツール、ロボットを動かすときはロボットのツールというように、それぞれの機器にそれぞれのツールが用意されており、ツールの使い分けをする必要があった。また、装置担当者もメカ設計者、エレキ設計担当者、ソフト設計担当者というように分かれていて、上流の設計段階で遅延が生じると、他の工程や担当者に影響が出て、装置立ち上げが遅延してしまうという問題があった。

また、それぞれの工程で設定や立ち上げを実施しても、それらを連結して生産ライン全体で確認を行おうとすると、うまく装置が動かないという問題が多く発生するという。その際に、何の要因で装置が動かなくなっているかトラブルシュートを行うには、担当者や使用ツールが煩雑になってしまっていることもあり、多くの知識と経験が必要になる。

製造業では、競争力のある製品をタイムリーに生産し顧客に提供することが企業の競争力を高めるためには必要だとされる。そのためには、上記の課題を解決し、装置立ち上げの工数を短縮することが必要だ。

オムロン株式会社では、産業用コントローラの統合開発環境である「Sysmac Studio」を提供している。本稿では、オムロン株式会社 商品事業本部 コントローラ事業部 コントローラPMG 中川 僚氏に、Sysmac Studioの特徴や、今後の方向性についてお話を伺った。(聞き手:IoTNEWS代表 小泉耕二)

Sysmac Studioの特徴

Sysmac Studioは、装置やシステムのライフサイクル全体の生産性を向上させるために設計された統合開発環境だ。過去IoTNEWSで取材した、オムロンのマシンオートメーションコントローラを動かすための開発環境である。

これまで煩雑だった様々なツールを統合環境として提供するものである。マシンオートメーションコントローラが制御している範囲内の設備は、統合環境内で一括して設定や管理ができるようになるということだ。これまで装置制御とは別軸で考えられてきたモーション、セーフティ、ロボット等の制御も一体で開発、運用が可能になっている。

※モーション制御とは、多軸のモータを同期制御させるような制御のことを指す。通常、PLCの他にモーションコントローラを設置し、別途設定を行う必要がある。

統合開発環境があることで、ソフト設計・立ち上げ・保守を1つのツールで行うことができ、また、複数人開発を行うこともできる。バージョン管理システムであるGitと連携しているため、複数人開発を行った場合でも、プロジェクトの管理やマージする工数を削減することが可能だ。

参考情報
Sysmac StudioのGit連携

Sysmac Studioには大きく4つの特徴があるという。

国際標準規格への対応

Sysmac StudioはPLCのプログラミングに関する国際標準規格であるIEC-61131-3に準拠し、人材確保と教育コスト削減に貢献するという。

オムロンは、FA業界においてグローバルでの標準化が今後より顕在化するニーズであると捉え、10年前に、加速するグローバル展開や国際競争に対応するためのソフトウェアとしてSysmac Studioを開発した。当時は、まだ国際標準規格に準拠した製品がなく、オムロンが先駆けとしてSysmac Studioの開発を進めたという。

国際標準規格に準拠することで、グローバルに展開できるものづくりができること以外にも様々なメリットがある。

例えば、人材採用の面でのメリットがある。海外に工場を建てる場合、現地の作業者を採用する必要がある。その際に、日本メーカー独自のプログラミングの場合、経験者を採用することは難しくなってしまう。国際標準規格に準拠していることで、海外メーカーの同じ規格を準拠しているツールを使用していたことがあった場合、Sysmac Studioにもすぐに馴染んで使用することができるということだ。教育コストの削減にもつながる。

また、国際標準規格に準拠したツールを使用したという実績は、作業者のキャリアにとってもメリットになるだろう。

その他にも、開発効率向上やプログラミング品質の向上等、国際標準規格を準拠したツールであることのメリットは多いという。

制御プログラムのモジュール化

また、Sysmac Studioは制御プログラムを機能単位でモジュール化しており、開発資産の再利用が可能であるそうだ。

従来のプログラミングはハードウェアの構成が決まった上でプログラミングを作成していたため再利用性がなく、装置立ち上げの度にプログラミングを作成する必要があった。

モジュール化することで、ハードウェアとソフトウェアを切り離すことができるようになり、一度作成したモジュールは次の開発でも再利用することが可能になるため、開発期間の短縮が可能になる。

統合シミュレーション

複数のシミュレーションを同時に確認することができる。
複数のシミュレーションを同時に確認することができる。

1ツールで様々な機器を管理しているため、PLCだけでなく、ロボットやモーションも含めた設備全体のシミュレーションを実施でき、設計効率向上ができるという。

どこが問題で装置が動いていないのか、どうしたらより効率良く稼働させることができるのかということを全体最適でシミュレーションできるようになるため、それぞれの設備は問題ないが、全体で動かそうとしたときに問題が起きてしまうというトラブルもシミュレーションで確認できるようになる。

Sysmac Studioの管理画面では、マシンオートメーションコントローラのシミュレーション画面とロボットコントローラのシミュレーション画面を同時に確認できるようになっており、プログラミングが動いたときにロボットが正しく動くか同時に確認できるようになっている。

更に3DCADのデータの読み込みや、ロボットも含めたシミュレーションも実施できるようになっており、オムロンとして統合シミュレーションに力を入れているところであるとした。

エンジニアリングチェーンの統合

これまでは、生産設備の立ち上げは分業体制で取り組んでいたが、エンジニアが減っていることや資産の流用性を上げていくという観点から、開発工数削減のため、エンジニアリングチェーンの統合に現在取り組んでいる最中だという。

製品設計で使ったデータを工程設計で活用し、工程設計で使ったデータを装置のメカ設計で活用し、というように、エンジニアリングチェーンの上流から活用できるデータを共有することで、エンジニアリングチェーン全体の効率をあげようという動きだ。

製品のモデル設計やメカ設計のツール等の様々なツールとSysmac Studioが連携し、それぞれのツールの良いところをSysmac Studioで使えるようにすることで、エンジニアリングチェーンを統合していくという機能を実装していく動きを直近では行っているそうだ。

電気CAD等、エンジニアリングチェーンのツールと連携することで更に全体最適を実現できる。
電気CAD等、エンジニアリングチェーンのツールと連携することで更に全体最適を実現できる。

Sysmac Studioの今後の方向性

オムロンは、Sysmac Studioの今後の方向性として大きく2つの方向性を考えているという。

1つは、エンジニアリングチェーンの統合機能を更に拡張していくことだという。数値解析ソフトウェアであるMATLABや電気CADのEPLAN等との連携が可能になっているが、それぞれのツールの利点を最大限活かすことができると、新たな装置を作ることができたり、立ち上げに関するミスを減らしたりできるようになると考えているそうだ。これまでは、各ツールの連携が難しい部分もあったそうだが、中間ファイルの標準化が進んだことで、データ連携がしやすくなったという。

エンジニアリングチェーンのそれぞれの強みを活かしつつ、マシンオートメーションコントローラの世界に落とし込んでいくという部分に力を入れていくとした。

2つ目は、複数人開発、リモート機能の強化だ。生産設備の複雑化や、環境変化に伴って、複数人開発やシミュレーションの活用、リモート設計、リモートメンテナンスに対応することが必要となっている。現状は、ツールをPCにインストールして各個人のPCで設計や設定を行う必要がある。このやり方では開発効率が中々上がってこない。また、同時に複数のシミュレーションを動かそうとするとかなり高いスペックのPCが必要になってしまう。

今後は、ライセンスをPCに対して与えるというより、活用するエンジニアの個人IDに対して与え、どのような環境下でも、各機能やアプリケーションを使用できる開発環境へと進化させるという。複数人開発や、他社の可視化ツールやリモートメンテナンスツールとの連携も、簡単かつ効率的に図れる環境を構築できる様になるだろうとした。

オムロンは商品ラインナップが幅広いことが強みであり、オムロンの製品だけで生産設備を作ることも可能である。製造業の細かなデータを現場から拾い上げたり、他社のツールと連携したりということをPLCだけでやりきることができるのはオムロンの強みであるとした。

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