インダストリー4.0という言葉をきっかけに、製造業ではスマートファクトリー化について多くの関心が向けられている。
そこで、インダストリー4.0の本場、ドイツに本社を置く、工作機械やレーザー技術の産業機器メーカーである、TRUMPF(トルンプ)グループの、株式会社エフエーサービス 取締役 麻生 正樹氏にIoTプラットフォーム「AXOOM」についての話を伺った。(聞き手:IoTNEWS代表 小泉耕二)
ドイツの工作機械メーカーTRUMPFとエフエーサービス
弊社エフエーサービスは、ドイツの工作機械メーカーTRUMPF(トルンプ)の100パーセント出資会社で、日本におけるCAD/CAMソフトウェアやIoT関連のソリューション開発及び販売の会社です。
TRUMPF社は、南ドイツのディッツィンゲンというところに位置しております。
同族会社として創立90年以上を誇っています。ドイツでは、メジャーなのですが、株式公開していませんので、長期的視点に立った独自の経営戦略を展開しているというところが、ユニークなところです。
なので、利益を積極的に開発投資に回すことができるために、このAXOOMというビジネスにつながった形になるかと思いますね。3千億円以上の売上規模を誇っていて、従業員もドイツ国内で約5000人。国外で我々(エフエ―サービス)も含めて大体5000人規模という形になります。
ーTRUMPF本社は、シュトゥットガルト(Stuttgart)ですね。
そうです。ドイツではメルセデスやポルシェなどが有名なところです。
TRUMPFの主な商品は、パンチ、レーザー、複合機、ベンディングなどの工作機械です。例えば、パソコンのケースや、箱ものをイメージしていただければいいのですが、薄い板を切り取ったり、曲げたり、箱状にするといった機械を販売しているメーカーになります。
金型で色々な形状に抜き取るパンチングプレスや、レーザー技術でカッティングするという2通りの抜き方があるのですが、特にレーザー技術に関しては、トルンプはお客様から非常にご好評を得ており強みの一つになっています。
ところで、日本でも機械販売はTRUMPF(トルンプ)ジャパンという会社が横浜にあります。TRUMPF(トルンプ)ジャパンは、主に機械販売、保守、メンテナンスを担当しています。
エフエーサービスは、工作機械を動かすために必要になってくるCAD/CAMシステムとか、今回お話させて頂いて入りAXOOMなどを扱っています。元々、エフエーサービスは、CAD/CAMパッケージ販売がメインの会社でした。これからはIoTプラットフォームのAXOOMを含めて日本のみならず、アジア全域に向けて市場拡大していく方針です。
弊社の現在のメイン商品は、MetaCAM(メタキャム)と呼ばれるCAD/CAM ソフトウェアで、TRUMPF機械だけでなく、国内すべての板金用工作機械メーカーのNCデータを作ることができるという、サードパーティーな位置づけです。
それぞれの工作機械メーカーは自社製のCAD/CAMシステムを販売していますが、お客様の工場の中に複数メーカーの工作機械があるときには、お客様が複数のCAD/CAMシステムを使い分ける必要があり大変不便です。
そこで、エフエーサービスは、国内のさまざまなメーカーの加工機に対応できるCAD/CAMシステム「MetaCAM」をお客様に提供させて頂きました。
インダストリー4.0に完全対応したIoTプラットフォーム「AXOOM(アクスーム)」
AXOOMはドイツに拠点を置く開発会社の名前でもあり、我々のIoTソリューションのブランド名でもあります。
AXOOMは、TRUMPFドイツの100%出資会社です。そこが約3年前にAXOOMという「IoT専門の会社」を立ち上げました。主にインダストリー4.0に完全対応したプラットフォームプラットフォームや周辺技術の研究開発を行っています。
これからの時代、IoTプラットフォームだけでは”ものづくり”現場に役立てることはできません。最新のクラウド技術と生産現場のカイゼン(LEANやTPSの考え)を取り入れたMESや自動スケジューラー、世界最高レベルの通信セキュリティ、機械やセンサー接続などの容易性など、我々の技術は多岐に渡ります。つまりは、”ものづくり”に強いIoTプラットフォームを作り上げたのです。
この点はIoTプラットフォームの競合他社に対して大きなアドバンテージとなります。
ーなるほど。
そして大事な点が、TRUMPFは、先ほど申しましたとおり板金用の工作機械メーカーなのですが、AXOOMは、その産業だけのプラットフォームではないのです。ものづくり全般、また、医療、農業、物販などの業界にも使えるものです。
これからのインダストリー4.0におけるものづくりは、生産現場だけでなく素材メーカー、消耗品などのサプライヤー、さまざまな業種の協力会社、物流などとバリューチェーンを繋げて、柔軟かつリードタイムを最短にする効率生産が必要とされています。
そこで、TRUMPFはオープン思想かつ、全業種に適用可能な会社「AXOOM」とIoTプラットフォームを作ったという経緯です。
上の図は、主に工場を中心としたAXOOM製品の概略図となります。この例では、AXOOMによる受発注であったり、手配であったり、生産計画立案や製造指示、進捗管理、出荷管理などのバリューチェーンの実現や、個々の機械との接続方法を見ていたくことができます。
また、お客様が既にお持ちの情報システムと接続することもできます。例えば、上位の生産管理からオーダー情報を受け取り、AXOOMのシステムへと連携することができます。
この図の生産計画(スケジューラー)のアプリケーションを例にとると、「今、どれだけ機械が忙しいのかがわかる。じゃあ、あの機械で加工して次工程はこの機械で」とか、電車のダイヤを考えるようなイメージで製造のスケジュールを自動的に考えてくれることも可能になります。
「このオーダーに関しては、何時何分はこの工程で、次工程はこの機械にいきなさい」っていう感じでやってくれます。
そこに、割込み生産の特急品が入った時には、他のオーダーの納期に影響をかけないようにリ・スケジュールをしてくれます。
また、生産中のオーダーが、今どこの加工機の、どの工程で、何枚加工されているとか、進捗管理もできます。現場では、進捗管理も重要で「生産が滞ってないか」ということも見なければなりませんから。
また、生産現場でおきている状況を数値化(KPI)することは大事です。例えば「仕掛り数」や、「設備稼働率」といったものですが、仕掛り数や設備稼働率、OEE(overall equipment effectiveness)と呼ばれている総合設備効率もそうです。こういった数字を経営サイドや、関係するマネージャーレベルに即座に表示できるというところが大きいです。
ポイントとしては、「じゃあ数値指標が見えたらなんなの?」っていうことですね。
例えば、生産実績や設備稼働率をよく見る企業の方に「このデータをカイゼンに役立てておられますか?」と聞くと、意外と踏み込んで考えられていないケースも多いのです。
せっかく投資して高い設備やシステムを導入するのですから、それを回収する利益率の向上をしないといけませんよね。
設備投資を回収するスマートファクトリー
昨今「スマートファクトリー」というキーワードが飛び交っています。
我々の一つの回答としては、「資本回転率を向上させること」なんです。要するに、お客様の工場が受注して、納品・出荷し、売掛金を回収するまでのリードタイムを短くするということで、経営の原理原則となります。これを実現しない限り、儲かる工場にはなりません。
例えば、多品種少量生産に対応させるためには、現場の構成を変える必要があるかもしれない。そういったカイゼンアクションに結び付けるためのIoTツールというのが、本来スマートファクトリー化の第一歩となると考えております。IoTはツールであり、魔法の道具ではありませんから、ものづくりの原理原則を忘れて進めるわけにはいかないのです。
そこで、弊社では「こういったものができます。どうですか?」というアプローチではなく、まず、お客様のヒヤリングをさせて頂いています。例えばモニタリングしたいのか、進捗管理したいのか、スマートファクトリーを意識されるのか。それで得た情報からどのように利益率向上を果たすことができるのか、徹底的に議論と提案を繰り返していきます。
ーなるほど。
少し話は変わりますが、日本を代表する企業であるトヨタ自動車は非常に売上高が高いですよね。一方で、フォルクスワーゲンや米国の自動車メーカーも比肩する売り上げ当然持っています。しかし、企業の収益を示す純利益などを比較すると、トヨタは群を抜いています。
では、それはなぜかということなのです。それは中小企業様によるものづくりも全て同じ理屈になると思います。
昨年までものづくり補助金や省エネルギー補助金が出たことで、機械の導入は進んでいます。しかし、その機械が実際、稼働効率がどうなって、実際儲けられているのかというのは、こういったツールを入れてまず測定しないことには、どこを改善すればいいか分からないですよね。お客様からの注文に対しても、どれだけ受注していいか判断もつかないですよね。
まずは、きちんと受注から資金回収までの流れを分析して、「きちんと数値で見える化をしてカイゼンへと繋げていきましょう」というのが、我々のファーストステップです。
もちろん、お客様自信が既に戦略をお持ちの場合は、すぐにシステム導入へ着手することが可能です。
ーなるほど。結構ファーストステップっていうか、そこまでできてないところが大半ですよね。
すべての産業機器の情報を取得
工場に入っている機器にはいろんなメーカーがあります、それこそ30、40年前の工作機械でネットワークの口すらないものもあります。そういったものをとりあえず情報の粒度は違いますが、全てつなげてIoTの世界にもってくるっていうのが我々のミッションになります。
TRUMPFの機械でも、他社メーカーの機械でも、インダストリー4.0に対応した業界標準のインターフェースであればすぐにつながります。
独自仕様の機械等は我々が仕様を提案させて頂き、機械情報の収集経路を開発させて頂くことになります。
ー最近PLCがあればデータ抜けますという感じのものが比較的増えてきている感じがします。
そういう環境にはなってきていると思いますし、今後「予防保全にはこういったデータ」、「モニタリングではこういうデータ」というのが決まってくるのだと思います。
そうなると、関連する機械メーカー、PLCメーカーは、接続情報をオープンにせざるを得ないと思います。
一方で、いくら情報が取れても、先に述べた通り「何のために取るべきデータなのか」ということを、きちんと定義する必要があります。ですから最初に戦略定義はやはり大事であり、「これだけ利益率が上がるだろうと想定しますので、この製品の価格は利益率向上分で十分に回収できます」というシナリオを組み立てていく必要があります。
ー今後の展開を教えて下さい。
エフエーサービスはグループ一丸となって、お客様にトータルでの「ものづくり」をサポートしていきます。
当然ながら、CAD/CAMシステムや生産管理システムなどの既存製品だけでなく、今回お話させて頂いたインダストリー4.0時代においてのスマートファクトリーのご提案も含めています。
そして、アジア市場における展開をこれから積極的に行っていく方針です。
ーありがとうございました。
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