商業施設におけるAIを活用した売上を向上する取り組み —ABEJA「SIX 2018」 パルコ、トヨタオートモールクリエイト

株式会社ABEJAは、2018年2月22日、東京都内でAIカンファレンス「SIX 2018」を開催した。そこでは、AIの実装に取り組むさまざまな産業・業界の企業が登壇し、最新の事例が紹介された。

今回は、「小売・流通」に関連したパネルディスカッションの模様をレポートする。登壇者は以下の3名。テーマは、「人工知能時代、商業施設の必勝法」だ。

  • 株式会社トヨタオートモールクリエイト 常務取締役 トレッサ横浜 プレジデント 栗原郁男 氏
  • 株式会社パルコ 執行役 グループICT戦略室担当 林直孝 氏
  • 株式会社ABEJA Marketeing Director/Still Day One合同会社 代表社員 小島英揮 氏(モデレーター)

これまでABEJAの小売流通向けAIサービス「ABEJA Insight for Retail」を活用してきた2社が、その取り組みの内容を発表し、さらにはAIの活用における現状の課題や小売店舗の未来についても議論した。

「仮説」ではなく「数字」をもとにしたサービス改善が可能に

トヨタとパルコ、AIを活用した「顧客分析」の最新事例 —ABEJA「SIX 2018」
株式会社トヨタオートモールクリエイト 常務取締役 トレッサ横浜 プレジデント 栗原郁男 氏

はじめに、株式会社トヨタオートモールクリエイト 栗原氏より、これまでの同社の取り組みについて紹介があった。

トヨタオートモールクリエイトは、トヨタ自動車の100%子会社で、ショッピングセンターやオートモールの企画・運営を手がける企業だ。

同社が運営するトレッサ横浜は、220件の店舗をかまえる大規模なショッピングセンターだ。そのなかにはオートモールがあり、トヨタやダイハツの新車が60台程度展示されているという。

「ふだん、クルマに興味のない買い物客が、たとえば大根を買いに来たついでにふらっと立ち寄り、思わず買ってしまうようなところです。いわば、”究極の衝動買い”がねらいです」とトヨタオートモールクリエイトの栗原氏は説明する。

「家族をつれてディーラーに行くことは、なかなか切り出しにくいこともありますから、買い物に行った先にたまたまディーラーがあれば、買いやすくなります」(ABEJA 小島氏)

しかし、顧客がクルマを購入しやすいような構造になっているとはいえ、クルマは大きな買い物であり、受注に至るのは簡単ではない。

そのため、同社では接客方法やクルマの配置を変えるなどさまざまな工夫をこれまでも行ってきたが、実際にどのような効果があったのかを「数字」で評価できないことが課題だったと栗原氏は説明する。

「トレッサ横浜にどれだけ人が来ているのか、オートモールの前にはどれだけ来てくれるのか、そのなかにどれだけ立ち寄ってくれるのか。そして、お声掛けした人数、商談にいたった人数、購入に至った数。(顧客分析のために)把握しなければならない数字はたくさんあります」(栗原氏)

しかし、そのなかで実際に把握できていたのは、トレッサ横浜に来館した人の数、商談した人数、クルマが何台売れたかの三つだけで、その間の数字を見ることが難しかった。

これまでは、年に最低2回(平日1回と休日1回)、多くのスタッフを動員し、「カウンター」を使ってカチカチと顧客の数をカウントしていたという。

そして、スタッフが、販売員や顧客の動きを観察し、「この販売員はいい対応をしている」というような定性的な方法で、応対力やVMDの分析などを行っていたということだ。

VMD(ビジュアル・マーチャンダイジング):通行する顧客を店舗・クルマに誘引する力

しかし、この方法では、莫大な時間とコストがかかるのだという。また、分析を実施する日が2日しかないうえに、分析するヒトによってその判断の傾向は異なるため、信頼できるデータを得ることは難しかったのだという。

そこで同社は、昨年の10月から「ABEJA Insight for Retail」を導入し、顧客のカウントや分析をする主体を「ヒト」から「カメラ」に置き換えた。

カメラを使えば、これまでブラックボックスだった、来店してから受注に至るまでの顧客の動きが数字で把握できる。また、時を選ばず常に監視でき、分析の基準も統一できるため、データの揺らぎは少なくなることが期待された。

トヨタとパルコ、AIを活用した「顧客分析」の最新事例 —ABEJA「SIX 2018」
スライド:クルマの並べ方に応じ、「立ち寄ったヒト」と「しばらく立ち止まったヒト」の数がどう変化するのかを分析した(人数は1日あたり)

同社は、カメラを使って、クルマの展示を変えることで、顧客の行動がどう変わるかを分析した。たとえば、導入した10月は、1列目に1台、2列目に1台、3列目に2台というようにクルマを並べた(写真左図)。

すると、1列目には1日あたり890名の見込み客が立ち寄り、その中で50名が「ある一定の時間以上、クルマの前で立ち止まった」ことがわかった。

2列目では、立ち寄る見込み客の数は490名まで減るが、一定時間以上立ち止まる見込み客の数は50名で変わらない。さらに、3列目では立ち寄る見込み客の数は減るものの、一定時間立ち止まる見込み客の割合は上がっている。

「今回の結果から、店舗内のどこにいるお客様にお声かけをするべきなのかがあらためてわかりました」と栗原氏は述べた。

顧客の動向は、各ショップの入店数から見えてくる

トヨタとパルコ、AIを活用した「顧客分析」の最新事例 —ABEJA「SIX 2018」
株式会社パルコ 執行役 グループICT戦略室担当 林直孝 氏

次に、株式会社パルコ 林氏より、IoTやAIを活用したこれまでの取り組みが紹介された。

パルコは、昨年の11月、東京都上野に「パルコヤ(PARCO_ya)」をオープンした。ここは、「ABEJA Insight for Retail」を導入したPARCOの第1弾になるという。

PARCO_yaには現在、70店のショップが出店しており、そのうちの約9割が「ABEJA Insight for Retail」を導入済みだ。そして、各ショップでは、ABEJAのソリューションを使って次の2つを分析し、サービス向上に活かしているという。

  1. 各ショップ区画への入店客数(A. 時間帯別/ B. 日別)
  2. 各ショップの入店客の属性(A. 年齢層/ B. 性別)

1と2は、それぞれ別のカメラを用いてデータを取得しているということだ。

「入店客の属性」は顧客の顔をもとに分析を行うことになるが、パルコもテナントのスタッフも撮影した画像データは見ることができず、「年齢層」や「性別」などの数字のレポートのみが提供されるという。

「従来、多くの商業施設は(PARCOも含めて)、ショッピングセンターの入口では来店者数のカウントは行ってきました。

一方で、来館者ではなく、テナント単位での顧客の動向をつかみ、それを可視化したうえで、テナントに分析データとしてお戻しすることに価値があると考え、ABEJAさんのカメラを導入しました」と林氏は語る。

例えば、「時間帯別の入店者数」の傾向は、テナントの人員配置計画に活用することができる。入店者数の最も多い時間帯がわかれば、その時間帯にショップの人員を最大にするシフトを組むことができるのだ。

また、PARCOではテナントが毎日、商品を購入した顧客数(レジ客数)のデータを集計しているという。そのデータと、ABEJAのカメラで新たに収集した「日別の入店客数」を組み合わせることで、ショップごとの「買上率」(レジ客数/入店者数)がわかるようになる。

そして、その「買上率」を日ごとに比較し、高い日にはなにが売れたのか、どのようなサービスを行ったのかなどを分析すれば、「買上率」が向上する要因がわかる。また、悪い場合にはその要因から、オペレーションを改善していくことができるのだ。

トヨタとパルコ、店舗における「顧客分析」のIoT/AI活用事例 —ABEJA「SIX 2018」

入店してくる「客層」(年齢や性別)を正確に把握できることも、ショップにとってはとても価値のあることだ。

「個々のショップさんではオープン時、このような客層が見込めるから、このような商品をご用意しましょうと、お客様に喜んでもらえる環境をつくろうとします。ただ、それが実際に正しいかどうかはわからないのです」(林氏)

カメラで得た分析結果から、各ショップは、実際の客層にあった品ぞろえを検討できるとともに、商品配置を変更した前後の客層の変化も把握することが可能だ。

「品ぞろえの変更など、これまでもやってきました。ただ、それらは経験と勘にもとづいていました。これからは、よりよい接客をするためにもデータをもとにやっていきましょうと、ショップさんには提案しています」と林氏は語る

「Amazon GO」は無人店舗ではない

トヨタとパルコ、店舗における「顧客分析」のIoT/AI活用事例 —ABEJA「SIX 2018」
モデレーター:株式会社ABEJA Marketeing Director/Still Day One合同会社 代表社員 小島英揮 氏

ここでABEJAの小島氏は、トヨタオートモールクリエイトの栗原氏とパルコの林氏が発表した内容から共通して言えることは、「従来は知るすべがなかった、”来館者数”と”お買い上げした顧客の数”の間の数字が、カメラを使ってようやく見えるようになり、顧客の動向を、数字を根拠にして分析できるようになってきたことだ」と述べた。

そのうえで、「それは、オンライン(Eコマース)だと、あたりまえのようにできている」とした。ネット上のユーザーの”クリック”を通じて、「購入の手前まで行ったのに結局買わなかった利用者」の情報など、顧客の動向をすみずみまで把握できるのが、オンライン店舗における事業者側のメリットだという。

そこで、小島氏はオンライン店舗の手法をオフラインの店舗に活かしている一つの事例として、今年の1月にシアトルでオープンした「Amazon GO」に言及した。同氏は、実際に「Amazon GO」に足を運び、店内の様子を見てきたという(会場では、小島氏が撮影した動画により、現地の様子が紹介された)。

「何分間お店に滞在して、自分は何を買ったのか、ということが、アプリの画面を見ればすべてわかります。これはつまり、顧客の動きをすべてお店側が把握しているということでもあります。これは、Eコマースの手法そのものです」と小島氏は指摘する。

また、小島氏は、「日本では、Amazon GOはなぜか”無人コンビニ”と言われているのですが、実際はそうではありません。店内にはたくさん人がいます。つまり、限られたリソースは接客に回されています。コスト削減というよりは、接客を厚くすることがアマゾンの目的だと思います」と述べた。

店長ではなくAIが指示をだす未来

ここで、トヨタオートモールクリエイトの栗原氏は、今後のテーマは顧客の「行動分析」だとして、次のように述べた。

「現場では、来店者に対し、販売員が声をかけた方が成約率が上がることは、これまでの経験からわかっています。ただ、ある調査によると、声をかけてほしい人とかけてほしくない人の数は半々だということです。

そうすると、販売員は声をかけるのをためらってしまったり、自分なりにこの人は買ってくれそうだと思う人だけに声をかけるようになります」

つまり、現状での声かけが販売員の主観に依存するため、「本当は声をかけるべき人」に対する接客ロスが生じている可能性があるというのだ。

「一方、優秀なスタッフは、声をかけるべき人を見極めることができます。ただ今後は、AIを使って、外観によらず数字で見極められるようにしたいです」と栗原氏は続けた。

それに対し、ABEJA 小島氏は「製造業のAIでは、99%をこえるような高い精度が求められますが、接客であればそこまで精度が高くなくても、販売員の対応は変わってくるのではないでしょうか」と指摘し、栗原氏は次のように述べた。

「そうだと思います。いまは、断られる確率が半々なので販売員は心が折れてしまいますが、7割もあれば全然違うと思います」

さらに、パルコの林氏は、今後の自社の取り組みについて、リアル店舗に来店した顧客に対し、スマホアプリやデジタルサイネージによるリコメンデーションを、AIを使って提供していくとした。

これまでもパルコでは、AIを活用し、個々の顧客にあったブランドを紹介するブログ記事を提供してきたという。

「導入する前後の3か月の顧客の動きを見てみたところ、ブログ記事を”お気に入り登録”するお客様が2割で、それによってショップでのお買い上げも2割上がりました」(林氏)

これまでは、オンライン上の”クリック”と実際のお買い上げの実績の相関関係をAIで分析し、ブログ記事によるリコメンデーションを行ってきた。今後は、直接オフラインの店舗内でリコメンドしたり、顧客誘引していくという。

最後に、「将来、小売事業者としてAIで実現したいこと」に話題はおよんだ。そのなかで、栗原氏は次のように展望を語った。

「いまは店長が店内の様子を見て、逐一スタッフに指示を出しています。ただ、これがAIになって、”この人はすごく大事”という顧客を可視化して教えてくれればいいですね」

それに対して小島氏は、「ARのスマートグラスに、お声がけするべきお客さんが浮かび上がってくるようなイメージですね。このような会場でも、興味のありそうな人となさそうな人(たとえば、眠そうにしている人)がいると思いますが、それを可視化できれば、興味のある方にターゲットをしぼれるので、その後の接客もやりやすいですね」と述べた。

【関連リンク】
トヨタオートモールクリエイト(TOYOTA AUTOMALL DEVELOPMENT)
パルコ(PARCO)
アベジャ(ABEJA)
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