トヨタ、ドコモ、マイクロソフトが目指す、ヒトもつながる「コネクティッド」の未来

あらゆるモノやヒト、情報がつながり、ビジネスや社会インフラが変化する「コネクティッド」の世界が期待されている。東洋経済新報社は、3月27日、主に経営者を対象としたカンファレンス「Hello! CONNECTED WORLD」を開催。パネルディスカッションでは、トヨタ自動車、NTTドコモ、日本マイクロソフトの3社が登壇し、「コネクティッド」で変わる未来について議論した。本稿では、その内容を紹介していく。

【登壇者】

  • トヨタ自動車株式会社 コネクティッドカンパニー コネクティッド統括部 部長 山本昭雄 氏
  • 株式会社NTTドコモ 執行役員 法人ビジネス本部 IoTビジネス部長 コネクテッドカービジネス推進室長 谷直樹 氏
  • 日本マイクロソフト株式会社 IoTデバイス本部 Azure 担当部長 村林智 氏
  • IoTNEWS代表 / 株式会社アールジーン代表取締役 小泉耕二(モデレータ)

ドコモは「仕組み」を提供し、パートナーと価値創造を目指す

トヨタ、ドコモ、マイクロソフトが見据える、ヒトもつながる「コネクティッド」の未来

はじめに、ドコモの谷氏より、同社の取り組みが紹介された。谷氏は、現在の日本社会の課題として「次世代モビリティ」「製造業」「建設業」「防災」「一次産業」「地方創生」などのテーマがあげられるとし、これらを解決するための手段として、IoTやAIが必要だと説明した。

例として紹介された「次世代モビリティ」の取り組みでは、同社は「AIタクシー」の実証実験を2016年6月に開始。今年の2月より商用化がスタートしている。

タクシー業界は今、ドライバー不足や観光需要増への対応など課題を抱えている。その課題を解決するため、同社が持つ「人口統計データ」に「タクシー運行データ」やその他「気象データ」などの様々なデータ加え、そこにAIを使って高精度な「需要予測」を実現し、運行を最適化することがAIタクシーの目的だ。

東京無線タクシーでは、実証実験を行った4か月間において、実験参加者(ドライバー)の売上が平均で1人1か月あたり4万円強、向上したという。

谷氏は、「ドコモ自身が、タクシーを運行管理をしたり、配車システムをつくったりすることはしない。当社の強みを活かしてつくった仕組みを提供し、多くの方に使ってもらうことが目的」とドコモの役割について説明した。今回構築されたモデルは、タクシーの運行という用途以外にも応用できるという。

トヨタ・ドコモ・マイクロソフトが見据える「コネクティッド」で変わる未来
株式会社NTTドコモ 執行役員 法人ビジネス本部 IoTビジネス部長 コネクテッドカービジネス推進室長 谷直樹 氏

マイクロソフトは、Azureを通じたエコシステムの形成を推進

トヨタ、ドコモ、マイクロソフトが見据える、ヒトもつながる「コネクティッド」の未来

次に、マイクロソフトの村林氏より同社の取り組みが紹介された。村林氏は、「IoTは簡単だ。データを集めて、クラウドにためる。基本的にはそれだけだ。ただ、それをいざ活用しようという時に、考えなければならないことは多い」と述べた。

マイクロソフトはそのために必要なツールを、デバイス、プラットフォーム、ソリューションの各レイヤーで包括的に提供してきた(上の画像)。

もう一つ、マイクロソフトが注力しているのはAIだ。同社の年間1兆円の研究開発投資のうち、約50%はAIへの投資だという。顧客が自らAIエンジンを開発しなくてもすぐに実装の段階に移行できるよう、Microsoft Azureを通して機械学習ができるPaaS(Platform as a Service)、深層学習用のSaaS(Software as a Service)などのソリューションを提供してきた。

村林氏は、同社のAIソリューションのテーマは「みんなのAI」であり、これまでAzureに蓄積されてきたデータの活用、またパートナー企業と培ったノウハウを活かせることが特長だとした。

トヨタ、ドコモ、マイクロソフトが見据える、ヒトもつながる「コネクティッド」の未来

さらにマイクロソフトは、Azureを利用するパートナー企業とのエコシステムづくりを推進している。「その業種について詳しいパートナーと組み、その業種の知見を高めていくことが大事だ」と村林氏は語った。

同社は2016年2月には「IoTビジネス共創ラボ」を設立。Azure、IoTをキーワードに今年の1月時点で431社が参画。IoTエキスパートを中心に、プロジェクトの共同検証を通じてノウハウを共有しているという。

トヨタ・ドコモ・マイクロソフトが見据える「コネクティッド」で変わる未来
日本マイクロソフト株式会社 IoTデバイス本部 Azure 担当部長 村林智 氏

トヨタの「コネクティッド」はクルマも社会も変えていく

さらに、トヨタ自動車の山本氏より、同社の取り組みが紹介された。山本氏の所属するコネクティッドカンパニーには、トヨタの「コネクティッド」に関わる全ての事業が集約。今年の1月にラスベガスで開催されたCESで豊田章男社長が発表したモビリティサービス専用EV「e-Palette」も、同カンパニーが手がけているという。

トヨタ、ドコモ、マイクロソフトが見据える、ヒトもつながる「コネクティッド」の未来

山本氏は、昨今「コネクティッド」という言葉が注目される背景として、「自動車業界では今、『電動化』『情報化』『知能化』の3つが進行している。この3つどれもが、クルマとクルマ、あるいはクルマと街がつながっていなければ実現できない。つまり、コネクティッド(つながっていること)がこれからの自動車産業におけるすべての基盤になる」と説明した(上図)。

トヨタのコネクティッド戦略は、「すべてのクルマをつなげること」、「ビッグデータを活用してビジネスを変革すること」、「あらゆる異業種やIT企業と連携して新たなモビリティサービスを創出すること」の3本の矢からなるのだという。

具体的には、トヨタは主に次の3つのコネクティッドサービスを提供している。一つは、「ITS Connect サービス」だ。これは、クルマとクルマ、あるいはクルマと信号機などの街のシステムなどがつながることで、クルマの危険な状態を察知し、ドライバーに注意喚起を促すなどして交通事故の減少を目指すというものだ。

もう一つは、テレマティクス保険。ドライバーの運転状況のデータから、たとえば事故を起こす傾向が低い安全な運転だと判断されるような場合には、ドライバーの保険料が下がるという仕組みだ。これによりドライバーは安全運転に努めるようになり、交通事故が減るという社会的なメリットがある。

三つめはビッグデータの活用で、例として「通れた道マップ」というサービスが紹介された。災害が起きた場合、被災地に救援物資を運ぼうとしても、道が遮られていてトラックが通行できないなどの事態が起こる。その際、結局クルマはどこを走って目的地にたどり着いたのか、その走行履歴をプロットしていけば、次に運ぶ際には最適なルートを選択できるというソリューションだ。

「コネクティッドな社会を実現するためには、クルマ単体を見る視点よりも、それによって社会の課題がどう解決されるのかという、全体を見る視点が大切だ」と山本氏は述べた。

トヨタ・ドコモ・マイクロソフトが見据える「コネクティッド」で変わる未来
トヨタ自動車株式会社 コネクティッドカンパニー コネクティッド統括部 部長 山本昭雄 氏

クルマが変わると社会が変わる事例として、「自動運転が実現すると、毎日の通勤を考えた場合には、たとえ遠方でも家から会社までの移動が大変には感じなくなってくるだろう。それによって都心部に家を持つ必要性は下がり、地方にヒトが増えていく可能性もある」と山本氏は説明し、このように「コネクティッドで社会全体を変えていくという視点を持ちたい」とした。

また、コネクティッドによって業界の垣根がなくなってくるという。「少し前の時代ではクルマでドライブデートをするカップルも多かったが、カラオケボックスが登場してからは、ドライブデートの需要はカラオケに流れてしまった。しかし自動運転が実現すると、クルマの中がカラオケボックスにもなる。従って、今後はクルマとカラオケボックスがビジネスの競合になるということも起きてくる」と山本氏。

トヨタは今年の夏に、15代目のクラウンを発売する予定だ。山本氏によると、新型のクラウンは走行性能を向上しただけではなく、「コネクティッド・クラウン」をテーマに、様々な「コネクティッド」の機能・サービスが搭載されているという。

「15代目クラウンを皮切りに、トヨタは本格的にコネクティッドのクルマやサービスを市場に投入していく」と山本氏は意欲を示した。

「コネクティッド」で地方はもっと明るくなる

トヨタ、ドコモ、マイクロソフトが見据える、ヒトもつながる「コネクティッド」の未来

続いて、あらゆるモノやヒトがつながる「コネクティッド」の世界では、地方・地域はどのように変わっていくかというテーマに議論は移った。

ドコモの谷氏は、「コネクティッドが進むと、地域・地方は活性化するはずだ」と述べた。同社は、経産省が2016年6月よりスタートした「地方版IoT推進ラボ」で、様々な地域とプロジェクトを組み、実証実験を行ってきたという。

「地方版IoT推進ラボ」:経産省が地域におけるIoTプロジェクト創出のための取り組みを「地方版IoT推進ラボ」として選定し、地域での取り組みを通じたIoTビジネスの創出を支援するもの。これまでに74の地域が選定されている。

たとえばAIを活用した乗合型の配車サービスでは、ユーザーの希望する「乗りたい場所」と「降りたい場所」に対し、特定のエリアを巡回するクルマの中からAIが最適な配車ルートを組んでクルマを提供する。高齢者が街へ出かけやすくすることが狙いだという。他にも、高齢者が歩いた分だけポイントがたまるサービスなど、IoTを活用して「ヒトが家の外へ出歩きやすくなる」ための仕組みを検証してきたという。

谷氏は、「実証実験の結果を見ていると、実際にヒトは動くようになっている。これらの仕組みを積み上げていことで、地方はもっと明るくなると思う」と手応えを語った。

マイクロソフトでは、前述した「IoTビジネス共創ラボ」の分科会が各地方で行われているが、そこでは「地域の課題は、地域のコミュニティでしか解決できない」として、議論が進まないこともあるのだという。それに対し、マイクロソフトとしては、どこの地域でも使える「仕組み」を提供していきたいと村林氏は述べた。

たとえば、ある地域の町工場で、自社の二つの工場が遠く離れた場所にある場合に、仮にどちらかの工場のラインが止まったとしても、データを相互に共有できるような「仕組み」さえあれば、生産性の低下を防げるかもしれない。このような課題を解決することで、「地方を明るくしたい」(村林氏)という。

続いて、トヨタの山本氏は、同社のモビリティサービス専用EV「e-Palette」に言及。「e-Paletteは、いわば移動の箱だ。夜は宅配、昼は店舗というふうに用途を変えられる。この仕組みをうまく活用していくことで、人々の生活をより便利にできると考えている」と山本氏は語った。

また、山本氏は「トヨタのクルマを販売するのは地域の販売店だ。彼らがクルマを売りやすい環境をつくるには、その地域の顧客のニーズを把握しなければならない。そのためには顧客とコネクティッドする(つながる)ことが必要であり、その仕組みを彼らに提供していくことがトヨタの役割だと考え、色々な施策を練っている」と語った。

モデレータである、IoTNEWSの小泉は、「若い人は都会へ出て行き、その一方で過疎化は進んでいるというのが現状だ。そこで、コネクティッドによって地場の産業を盛り上げ、さらにはそれを見える化して子供の頃から身近に触れられるような環境をつくっていけば、地元に残って働こうとする若い人も増えてくるだろう。コネクティッドが地方にもたらす効果は大きい」と語った。

トヨタ・ドコモ・マイクロソフトが見据える「コネクティッド」で変わる未来
IoTNEWS代表 株式会社アールジーン 代表取締役社長 小泉耕二(モデレータ)

エコシステムで局所最適を乗り越える

最後に、コネクティッドな世界に向けたビジョンとそれを実現するために今必要なことが議論された。

ドコモの谷氏は、「いま、あらゆるモノがつながりつつあり、人々がこれまで夢にまで見た将来の姿が実現できる時代に近づいている。そこで重要な役割を担うと期待されるのが、5Gだ。これはキャリアの使命としてやっていくとともに、その上にのるサービスについては、多くのパートナー企業と一緒にやっていきたい」と述べた。

マイクロソフトの村林氏は、「インターネットが世の中に登場した時、すぐに使いこなせるヒトがいる一方で、そうではないヒトもいた。そうしたヒトたちをつなげたいと思い、私もマイクロソフトもやってきた。IoTも、つながることがコンセプトでありながら、まだまだビジネスのきっかけにできていないヒト、つながっていないヒトがいる。マイクロソフトはそのヒトたちをつなげていくための、誰もが気軽に使えるようなプラットフォームを追求していきたい」と述べた。

トヨタの山本氏は、「繰り返しになるが、局所的なメリットだけ見ていてはいけない。社会全体の課題を解決していくためにどうするか、そのためにクルマで何ができるのかという視点で考えていきたい。これから、自動運転車などが市場に出てくると、新車が売れなくなる。トヨタが米国で販売しているクルマは約250万台だが、2030年にはそのうち50万台がなくなるという予測もある。その場合には、クルマからコネクティッドによるコトづくりのサービスへシフトしていかなければならないという危機感を持っている。そんな状況を打開するために、多くのパートナー企業と連携して、一緒にやっていきたい」と述べた。

最後に、モデレータであるIoTNEWSの小泉は、「コネクティッドがあたりまえになると、ヒトの生活も産業構造も大きく変わる。その中で、移動という概念も再定義されようとしている。クルマは産業規模が大きいこともあり、世界のスマートシティへ向けた動きを見ていても、その中心はクルマになってくると考えられている。そんな中、トヨタ、ドコモ、マイクロソフトの3社が手をつなぎエコシステムをつくってやっていこうという考えを持っていること自体にも、とても未来を感じた」と述べた。

【関連リンク】
「Hello! CONNECTED WORLD」(主催:東洋経済新報社)
トヨタ(TOYOTA)
NTTドコモ(NTT docomo)
マイクロソフト(Microsoft)

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