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匠の技を世界につなぐ基盤、IVIがつくる「ものづくりデータバンク」

一般社団法人インダストリアル・バリューチェーン・イニシアティブ(IVI)と米国のインダストリアル・インターネット・コンソーシアム(IIC)は、6月1日、東京ビッグサイトで合同ユースケース共有セミナーを開催。本稿では、IVIが推進する「未来プロジェクト」より、「ものづくりデータバンク」の取り組みを紹介する。

IVIの「未来プロジェクト」は、4つのテーマが進行

IVIは、企業が垣根をこえて“つながる”ものづくりを推進するため、2015年6月に設立された製造業を中心としたフォーラム。国内外で250社以上が参加している。

IVIでは、会員企業の工場で実証実験を進めていくワーキンググループ(WG)の他に、世界ではまだ実現されていない、製造業の数年後のしくみをつくる「未来プロジェクト」の活動を進めている。

同プロジェクトでは、IVIの会員企業25社から中堅・若手を中心に約30名のメンバーが集まり、次の4つのテーマに取り組んでいる。

  1. ゆるやかなエッジOS:工場内の知的財産を守りつつ、外部とつながるためにオープンにすべき情報を公開するオペレーションシステム(OS)を構築。
  2. ものづくりデータバンク:ものづくりのノウハウをデータ化し、提供する側と利用する側との間をつなぐしくみを構築。新たなビジネスモデル創出を支援する。
  3. コンビニ型ファクトリー:ユーザの多様なニーズに対応するため、組立と仕上げの工程を「ミニファクトリー」で行うしくみを提供。
  4. SMU連携ステーション:企業を超えものづくりの最小単位(SMU)が連携するプラットフォームのしくみを提供。

本稿では、6月1日の合同ユースケース共有セミナーで発表された、「ものづくりデータバンク」の内容について紹介する。発表者は、同プロジェクトのリーダーを務める、TIS株式会社の長井大典氏だ。

【「ものづくりデータバンク」のチームメンバー】
・TIS株式会社 長井大典氏(リーダー)
・アンリツ株式会社 秋山智宏氏
・フューチャー株式会社 杉江周平氏
・アビームシステムズ株式会社 田中義二氏
・三菱重工業株式会社 西田昌弘氏

匠の技を世界につなぐ基盤、IVIがつくる「ものづくりデータバンク」 ―IIC & IVI合同ユースケース共有セミナー
「ものづくりデータバンク」のリーダーを務める、TIS株式会社の長井大典氏

日本の製造業は、後継者不足が深刻化

昨今では、IoTの活用により製造現場にあるさまざまなモノから大量のデータを収集し、それらをデジタル空間で最適化し、現場にフィードバックできるしくみがつくられている。

また、IoTの活用はそれだけにとどまらず、長年、ものづくりの現場で培われてきた熟練者の「匠の技」をデジタル化し、設備の予知保全に活用したり、若手技術者へと継承したりする取り組みも活発化している。

ただ現状では、そのデータはそれぞれの企業が保有する知的財産であり、外部に公開するものではない。技術情報などのデータが流出し、他の企業に使われてしまうようなことはあってはならない。

しかし、「デジタル化したノウハウを流通させ、世界中で使ってもらうことで得られるメリットもあるのではないか」と長井氏は提起する。

匠の技を世界につなぐ基盤、IVIがつくる「ものづくりデータバンク」 ―IIC & IVI合同ユースケース共有セミナー
「ものづくりデータバンク」のコンセプト(出典:IVI)

長井氏は、「日本企業が廃業する理由の3分の2が、後継者がいないこと」と指摘。しかも、高い技術力を持ち、黒字経営をしているにもかかわらず、後継者がいないために倒産してしまう企業が増えているという。

倒産してしまうと、その企業の技術やノウハウもすべて失われてしまう。しかし、それらをデータ化できれば、その財産は次世代に引き継ぐことができる。

また、後継者不足で悩む企業は、その新しいビジネスモデルを導入することで、経営を持続可能なものにできるかもしれない。

しかしそのためには、ノウハウを提供する側と利用する側を「安全・安心に」つなぐ基盤が必要だ。そこで、立ち上がったのが「ものづくりデータバンク」だ。

「ノウハウを安心・簡単に提供し、そこから収益を上げられるしくみがあれば、小さな企業や個人の匠でも世界中の利用者と取引が可能になる」と長井氏は述べる。

匠が”クリエイター”として活躍できる時代に

匠の技を世界につなぐ基盤、IVIがつくる「ものづくりデータバンク」 ―IIC & IVI合同ユースケース共有セミナー
「ものづくりデータバンク」の4つのユースケース(出典:IVI)

ユースケースの一つは、「ノウハウの資産化」だ。長井氏は、「日本では使わなくなった技術やノウハウでも、世界では必要としている場合がある」として、企業はまず自社で使わなくなったノウハウをデータ化することで、収益を向上できるとしている。

また、流通しているベストプラクティスのデータを自社で活用することで、品質や生産性の向上につなげる。あるいは、匠が自らのノウハウを流通させることで世界中にたくさんの弟子をつくり、新しいサービスにつなげるといったビジネスモデルも想定されている。

さらに長井氏は、「データの流通があたりまえの社会になってくると、より多くの個人がチャンスをつかめるようになる」と指摘。ある特定の技術を持った匠が、YouTuberのようにノウハウを発信し、生計を立てられるようなビジネスモデルも考えられるという。

2021年より、事業運営を開始

匠の技を世界につなぐ基盤、IVIがつくる「ものづくりデータバンク」 ―IIC & IVI合同ユースケース共有セミナー
「ものづくりデータバンク」のビジネスモデル(出典:IVI)

「ものづくりデータバンク」にデータを預けた企業には、そのデータが他の企業に利用されると「配当金」が支払われる。このビジネスモデルでは、「キャッシュフローが速い」ことが企業にとってメリットになると長井氏は説明する。

黒字経営をしていても、キャッシュフローが悪いために倒産してしまう企業が増えているという。しかし、既存の事業に加えて「ものづくりデータバンク」を活用することで、改善できる可能性があるのだ。

また、「ものづくりデータバンク」に預けられたディープデータをデータ加工業者が買い取り、分析した結果を加工レシピとして流通させる。あるいは装置メーカーが、流通している自社製品のデータを利用し、サービスに活かすといった方法も可能だ。

また、流通を促進するため、世界のデータ流通市場とも接続。その際には、ディープデータ(ノウハウ)そのものはオープンにせず、カタログ情報として公開するという。

来年度(2019年度)には実証実験を完了し、事業体を設立。3年後(2021年度)には事業運営を開始する。まずは日本国内の部品加工の分野でデータ流通市場を構築し、その後は食品加工や日用品の分野にも展開していくという。

5年後(2023年度)には、こうしたものづくりデータの「コンテンツ産業化」を日本国内で浸透させ、次はそれを海外へ展開。海外メーカへ日本のノウハウを輸出できる体制をつくっていくという。

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