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NTT、10空間多重光信号の空間モード多重増幅中継伝送に成功

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5Gサービスの開始や分散型社会への生活様式の変化に伴い通信需要は継続して増えており、これまで長年にわたり情報通信インフラを支えてきた既存の光ファイバを用いた光通信システムが提供できる伝送容量の限界が近年見えつつある。キャパシティクランチ(※1)と呼ばれるこの伝送容量の危機を回避するために、次世代の光通信システムを実現する基盤技術として空間分割多重技術が現在注目を集めている。

空間分割多重技術は、これまで主に利用されてきたシングルモード光ファイバ(SMF)と比べ、光ファイバの中の光の「通り道」の数(これを多重数といいます)を増やすことで光ファイバあたりの伝送容量の飛躍的な向上が期待されている次世代の有望な光通信技術である。

空間分割多重技術の一つの形態として研究開発が進められている空間モード多重伝送技術では、マルチモードファイバ(MMF)と呼ばれる空間モード多重光ファイバを利用する。MMFは、複数の空間モードを用いてそれぞれ異なる情報を送ることで伝送容量を多重数(空間モード数)に応じて増やすことができ、特にこれまでのSMFと同じ直径(標準クラッド径)を維持したままでも単一の光ファイバで10以上の多重数へ容易に拡張できる点が特長だ。

一方で、送られた光信号から受信側で情報を取り出す際には、伝送途中に発生する異なる空間モードの光信号の混じり合い(空間モード結合)や、各空間モード光信号の受信器への到着時間ずれ(モード分散)によって生じる信号波形歪みを、受信機におけるMIMO(※2)型デジタル信号処理によって取り除く必要がある。特に、より多数の空間モードを使うほど、また距離が長くなるほどモード分散の影響は大きくなり、それに応じて要求されるMIMO信号処理の処理量がボトルネックとなるため、これまで空間多重数の拡張と光信号の長距離伝送を両立することは困難となっていた。

日本電信電話株式会社(以下、NTT)は、これまでの光ファイバと同じ直径を保ちながら伝送容量を10倍に拡大可能な空間モード多重光ファイバによる、1300kmの10空間モード多重信号の光増幅中継伝送に成功した。

同研究では、これまで研究所で6つの空間モード多重伝送で検討してきた技術を拡張し、より多くの空間モードを持つ光伝送路向けに対応可能な拡張巡回モード群置換技術を提案した。

拡張巡回モード群置換技術では、10以上の空間モード多重伝送を行う際に顕在化する各空間モードの光伝送特性差(光損失、伝搬遅延時間等)を平準化するために、光増幅中継器において空間モード間での強制的な光信号の入れ替え(置換)を効率的に行う。この結果、モード置換に伴う信号損失劣化を低減しつつ、伝送中に累積するモード分散を抑圧できるため、受信器内でのMIMO信号処理量を低負荷化でき、結果として長距離伝送が可能になる

NTT、10空間多重光信号の空間モード多重増幅中継伝送に成功
提案した拡張巡回モード群置換技術
これまで検討した6空間モード多重伝送では、空間モードの置換の候補総数は720通り(6の階乗)であったのに対し、10空間モード多重伝送では約363万通り(10の階乗)へと爆発的に増大するため、拡張巡回モード群置換技術による空間モード多重信号特性の高い平準化効果を得るためには、空間モードの伝送特性を熟慮したうえで置換方式を選択することが重要である。

そこで同研究では、光学的特性の似た空間モードをグループとして取り扱う「モード群」の特性に着目し、2通りの置換方式を選択した。

1つ目の置換方式1は、置換を「対称的」に行う方式だ。例えば、空間モード1と空間モード10を入れ替え、空間モード2と空間モード9を入れ替えるような形でそれぞれの空間モードに対して対称的な入れ替えを行う。置換方式1では、光学特性が最も異なるモード群の入れ替え(モード群1とモード群4)により高い平準化効果を望むことができる一方、入れ替えの前後で同じモード群へ置換される空間モード(空間モード5や空間モード6)の組み合わせも出てしまう。

このような組み合わせが発生することを回避するため、2つ目の置換方式2では置換の前後で必ずモード群の変換が起こる組み合わせを選択した。提案した置換方式は中継スパンごとに順次行われるため、複数回の中継伝送後にモード分散を含む空間モードごとの伝送特性の平準化効果が得られ、長距離伝送が可能となることが期待できる。

NTT、10空間多重光信号の空間モード多重増幅中継伝送に成功
拡張巡回モード群置換技術における置換方式の比較
また、今回拡張巡回モード群置換技術を導入した10並列の周回信号伝送評価系を構築し、標準クラッド径グレーデッドインデックス型屈折率分布(※3)を有する10空間モード多重光ファイバを光伝送媒体として用いた長距離伝送実験を行った。同ファイバは光学的特性としては、長さ52km、コア径25μm、モード分散係数157ps/km(@1550nm)、損失係数<0.25dB/km(@1550nm)を有する。

中継増幅間隔おきに各空間モードを入れ替えることにより光学特性がやがて平準化され、モード分散累積に起因する信号パルスの拡がりが100kmを超える伝送距離で大きく低減されることを確認できた。信号パルス拡がりの低減効果は置換方式2の方が顕著であり、この結果から置換の前後で必ずモード群の変換を起こす組み合わせがよりモード分散の高い平準化効果を示すことが分かった。特に置換方式2を用いた場合、1300kmの距離を伝送した後に従来伝送と比較して82%の信号パルス拡がりの低減効果が得られた。

この結果は同時に、受信側のMIMO信号処理の規模を従来と比較して約5分の1へ低減できる可能性を示唆する。また、1300km伝送後にすべての伝送チャネルにおいて誤り訂正復号閾値を上回る良好な信号特性を確認した。
NTT、10空間多重光信号の空間モード多重増幅中継伝送に成功 同成果は、実証実験で用いた光信号の1空間モードあたりの周波数利用効率(※4)3bps/Hzを基にすると、10空間モード多重光信号としての周波数利用効率はその10倍となる30bps/Hzに達し、これまでの光ファイバあたりの伝送容量を10倍に拡大する長距離ペタビット級伝送システムの実現にむけた要素技術となることが期待される。

また、同成果により、従来技術では困難であった10以上の空間多重数拡張と長距離伝送の両立が可能になるため、光ファイバあたりの伝送容量の飛躍的な向上が見込める。これにより、将来的なクラウドサービス拡大などにより増大する通信トラヒックを収容可能なペタビット級の超多重スケーラブル光ネットワークの実現に貢献する。加えて、NTTが提唱するIOWN構想・Beyond 5G/6G時代を支える大容量光ネットワークの実現に貢献する次世代の伝送基盤技術として期待される。

なお、同研究成果の一部は、国立研究開発法人情報通信研究機構の「Beyond 5G研究開発促進事業」の委託研究(採択番号01001)により得られたものである。

※1 キャパシティクランチ:通信需要が光通信システムの提供できる容量の物理的限界を上回る事象。SMFを用いた長距離光通信システムの場合、この限界値は光ファイバ1本あたり概ね100Tbit/秒程度と見積もられている。
※2 MIMO(Multiple-input multiple-output):日本語で多入力多出力を意味する。元々、無線分野の技術用語であり、送受信機の間で複数の異なるデータの並列的な通信を同一の周波数で行う技術を指す。光伝送分野の場合でも光ファイバ中の偏波や空間モードを利用することでMIMO技術による伝送容量の向上が期待できる。
※3 グレーデッドインデックス型屈折率分布:光ファイバのコアの中に光信号を効率よく閉じ込めるための屈折率分布の一種。コア中心に向かうにつれて屈折率に勾配を付けることで、マルチモードファイバで励振される複数の空間モードの伝搬遅延時間差(モード分散)を小さくすることができる。
※4 周波数利用効率:1Hzあたりの情報伝送の効率。この周波数利用効率に信号帯域を乗じた値が、信号の正味のスループットとなる。

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