MWC2023レポート第四弾はクアルコムだ。
最近はオートモーティブ領域で大きく存在感を増しているクアルコムだが、MWCでは常にトレンドの中心であり、スマートフォンをはじめとするモバイルデバイスのモデム及びSoC領域をリードしている企業だ。例年同様、同社ブースでは5Gをはじめとするモバイル通信のこれからが見えてくるものが複数展示されていた。
衛星通信が可能なSnapdragon Satellite
まず目についたのがSnapdragon Satelliteだ。その名の通り、衛星通信ができる。
Snapdragon Satelliteは、今後発売される全ての5Gモデムに対応し、まずはHONOR、モトローラ、NOTHING、OPPO、vivo、シャオミのスマホメーカー6社と共に、衛星通信機能付きスマートフォンを開発する。
衛星通信はLバンドに対応し、まずはイリジウム衛星との通信と接続可能となるという。
これにより、セルラーの通信圏外となる山間部や沖合などでも通信が可能となり、緊急時の救助はもちろん、海や山での趣味の拡張につながることが考えられる。
尚、現状では、通信事業者がどのようなサービスとして提供していくのか、という具体については触れておらず、明確な用途、需要が想像できるからこそ、商用化の際の利用条件、契約方法、そして料金などが気になるところだ。
5Gの課題に対応する、Snapdragon X75
5Gの特徴として挙げられていた高速通信だが、これは広い周波数帯が利用できるミリ波(28GHz帯)を使うことで実現される。
ただそのミリ波は非常に直進性が強いこともあり、現状では接続することがかなわないことが多い。
そこで、接続しやすい帯域であるSub-6(3.7GHz及び4.5GHz)と同時にミリ波帯を利用するデモを展示していた。
会場内にスペインのNo.1オペレーターであるテレフォニカが会場内にミリ波とSub6のアンテナを設置し、下り通信で1.9GHzの速度が表示されていた。
しかし、スマートフォンとミリ波アンテナの間に人が入るなど、ちょっとした遮蔽物があると速度は瞬時に半分以下となっていた。このあたりは引き続きの課題だ。
クアルコムはこういった課題に対し、最新の「Snapdragon X75」で、大きく2つのアプローチを打ち出した。
AIを活用したスループットの向上
1つはAIの活用だ。AIの活用でデリケートなミリ波の接続性を端末側で調整し、スループットを向上させるという。
しかし、これでミリ波の接続性が容易に解決できるかというと、帯域の特性上引き続き課題は残るだろう。
ミリ波以外の活用で、速度の向上を実現するためにはSub-6の有効活用が重要となる。
5キャリアアグリゲーションを活用した高速通信の実現
X75では、Sub6での5キャリアアグリゲーションが搭載され、これがユーザー体験を変える可能性が高い。
これは、Sub6の中で5つの周波数を同時に利用することができる技術で、5キャリアアグリゲーションにより4Gbps以上の速度が出ることも紹介していた。
またその他にも上り通信のキャリアアグリゲーションでも、高速化なども実現するため、LTEの時同様に、5Gも時間と共に実測値が高速化していく。
5GとNB-IoTの中間を実現する5G NR Lightを対象とした、Snapdragon X35
Qualcommからはもう1つ新しい5Gモデムが発表された。それがX35というモデルだ。
これは、世界初の5G NR-Lightに対応したものだ。
5G NR Lightとは、5Gの特徴として挙げられる高速通信、超低遅延などの高性能な領域と、低スペックだが低消費電力なNB-IoTなどの中間的な位置づけとなるもので、昨年5Gの新たな規格として導入された。
下り・登りの通信は、それぞれ150Mbps、50Mbpsまたはそれ以上という仕様となっていて、5Gのフルスペックには満たないが幅広い通信ニーズに応えることができる。
例えば、小型スマホのような高機能化したスマートウォッチや、映像のアップロードはするが、リアルタイムの高画質配信を求めない小型のウェアラブルカメラなどが搭載例としては考えられる。大きさはX75より若干小さい。
X75の紹介でも記載したが、クアルコムはAI活用にも積極的だ。
映像のAIによる修正技術は、すでに多くの人が持っているスマートフォンにも搭載されているものだ。
撮影した瞬間に、光でぼやけていた文字がくっきり表示されるような写真を見たことがある人もいるだろう。
実はスマホの処理能力の高度化は、様々なAIが動作することで、快適なユーザー体験をもたらしている。
MWC2023のクアルコムブースでは、画像生成するAI「Stable Diffusion」をローカルで動作させるデモを見ることができた。
これは、最近流行しているジェネラティブAIの一種で、テキストで表示したい画像に関するキーワードを入力すると、そのテキストに適合した画像を表示するAIだ。
通常はハイスペックなGPUを持つサーバーで処理するものを、スマホ上で処理するのだが、10数秒程度で512×512Pixelの画像が生成できるという。目の前のデモでもちょうど15秒で画像が生成された。
これまではスマホのスペックアップによる体験価値の進化は、CPUやモデムの性能向上が大きく影響してきたが、今後はAIの活用がそれ以上の影響をもたらすだろう。
また当然ながらネットワーク側にもAIが活用されているので、それぞれの最適化がもたらす、これからの5G体験、そして6Gへの進化が楽しみだ。
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未来事業創研 Founder
立教大学理学部数学科にて確率論・統計学及びインターネットの研究に取り組み、1997年NTT移動通信網(現NTTドコモ)入社。非音声通信の普及を目的としたアプリケーション及び商品開発後、モバイルビジネスコンサルティングに従事。
2009年株式会社電通に中途入社。携帯電話業界の動向を探る独自調査を定期的に実施し、業界並びに生活者インサイト開発業務に従事。クライアントの戦略プランニング策定をはじめ、新ビジネス開発、コンサルティング業務等に携わる。著書に「スマホマーケティング」(日本経済新聞出版社)がある。