5Gや6Gを商用化するには、切れ間なくデータのやりとりをすることが求められるが、従来の基地局を中心にエリア構築を行うセルラー方式では、基地局間の干渉で、セル境界での通信速度の劣化が発生することが課題となっている。
そうした中、株式会社KDDI総合研究所は、2023年2月21日から5月12日の間、同本社の敷地内にユーザセントリックRANを用いたセルフリー方式によるエリアを構築し、基地局から複数のスマートフォン方向へのデータ通信の実証実験に成功したことを発表した。
セルフリー方式は、分散配置された多数の基地局アンテナを連携させるCell-Free massive MIMO技術により干渉を抑制し、エリア内での通信速度の劣化をなくす無線通信方式だ。
今回実証実験で構築された、ユーザセントリックRANを用いたセルフリー方式は、「AP Cluster化技術」(関連する成果3)により、無線信号処理の計算量を低減しながら、ユーザごとの通信速度を確保し続けることが可能なように、最低限の基地局を選択して連携させる技術だ(トップ画参照)。
今回の実証実験では、KDDI総合研究所本社敷地内、約500m2の屋外環境に中心周波数4.7GHzの基地局とアンテナ8本を分散配置した。

そして、セルラー方式とユーザセントリックRANを用いたセルフリー方式を用いて屋外にエリアを構築し、両方式において、基地局から複数のスマートフォン方向のデータ通信を行った。
うち、1台のスマートフォンを移動させ、通信速度を計測。AP Cluster化技術を動作させ、移動するスマートフォンに対して、通信速度の確保に必要な最低限の基地局の選択を実施した。

その結果、セルラー方式と比べて、ユーザが持つことを想定したスマートフォンが、基地局の連携に最低限必要な組み合わせをエリア内のどの場所に移動しても選択しつつ、通信速度を確保し続けることを確認した。
セルラー方式では、主に中央付近の通信速度が低下していることが確認できる。これは、中央付近では、上下左右に配置された基地局アンテナからの電波の干渉を受けやすいことが原因だ。
一方、ユーザセントリックRANによるセルフリー方式では、該当エリアの通信速度が、セルラー方式に比べて、高い速度で確保されていることが確認できる。
これは、無線信号処理で干渉を抑えるとともに、「AP Cluster化技術」による通信速度を確保するために最低限必要な基地局の選択で、個々のスマートフォンに安定した通信を提供できているためだ。
今後は、スマートフォンから基地局方向のデータ通信の実証や、「CPU間連携技術」「光ファイバー無線技術」といった要素技術と組み合わせた実証を進めていくとしている。
また、ユーザ数や基地局数をさらに増やした場合でも、エリア内での通信速度の確保を実現する処理負荷が少ない制御技術を検討していくのだという。
なお、今回の実証実験の成果は、2023年5月24日~26日に東京ビッグサイトで開催される「ワイヤレスジャパン 2023×ワイヤレス・テクノロジー・パーク 2023」のKDDI総合研究所ブースで紹介される。
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