近年、海洋における資源探索や水中構造物の点検などにおいて、自律型無人潜水機などの水中IoT機器への注目が高まっているが、海中では電波が著しく減衰する。
そこで、機器間の主な通信手段として音波を利用する水中音響通信が用いられるが、従来の水中音響通信技術では、利用できる周波数帯域が狭く、伝送できる情報量が限られている。
また、海中の伝搬速度は非常に遅いために、水中IoT機器の移動に伴い、発生波の周波数とは異なる周波数が観測される「ドップラー効果」の影響を大きく受け、海面や海底の反射によるマルチパスの影響もあることから、通信のリアルタイム性や安定性に多くの課題があった。

そうした中、沖電気工業株式会社(以下、OKI)Iは、水中音響通信装置の目標通信速度(海中2km間で20kbps)を約1.6倍上回る32kbpsの海中通信を実現する水中音響技術を開発し、実海面での実証試験に成功したことを発表した。

新技術は、OKIが2020年の実証実験で実施した、海面と海底方向の鉛直方向の通信を、離れた場所にある機器を遠隔地から効率的にオペレーションするための水平方向通信に拡張すべく開発した。
水平方向の通信への拡張にあたっては、上述のマルチパスやドップラー効果の影響が大きくなるため、その対処を強化するとともに、水中音響通信装置における一般的な目標通信速度の1.6倍(距離2kmで速度20kbpsから速度32kbpsへ)の高速化をはかることで、送信できる情報量に限りがある点が改善された。
また、水中IoT機器への取り付けができるように、送受波器の規模も長さ1mを下回る規模で、マルチパスやドップラ―効果への対策を行っている。
この技術を用いることで、自律型無人潜水機などの水中IoT機器を使用したシーンでも、干渉などの影響を受けにくく、遠隔地にいるオペレータが数km離れた水中IoT機器を制御することが可能となる。
たとえば、海洋資源調査など、有人探索ができない場面においても、長距離通信ができる水中IoT機器同士をつなぐことで、より幅広い範囲の一斉探索が可能になる。
そしてOKIは、開発した水中音響通信技術を用いて、2023年3月に駿河湾海中の海域で実証実験を行った。
この試験では、試験船2隻から通信用の送受波器を海面から約15mに吊り下げた状態で、2隻間の距離を約2km離してデータ送信を行い、通信速度32kbpsで安定した状態が確保できることを確認した。

水中音響通信技術によって水中の無線通信ネットワークの構築が可能になれば、沖合養殖の設備管理や海洋資源調査など、海洋産業の効率化や新たなビジネスの創出が可能になる。
今後OKIは、水中における1対Nでの複数通信や、無人機を中継ノードとしてさらなる遠距離通信を可能にする水中でのマルチホップ通信などの開発を進め、1つのシステムで複数の水中ドローンやロボットなどが広範囲で利用可能となるシステムの実用化を目指すとしている。

なお、今回の実証実験は、OKIグループで海洋音響機器製造・販売と海洋計測・調査などを行うOKIコムエコーズの協力のもと実施された。
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