Network API、CSP、6G、通信のトレンドを網羅していたエリクソン ーMWCバルセロナ2024レポート1

5Gと6Gの谷間である時期だが、MWC Barcelona 2024(以下MWC24)はほぼ完全復活に近い状況になっていた。

来場者数は過去最高だった2019年の107,000人には及ばなかったものの、205の国と地域から10万人を超える来場者となった。出展社やスポンサー、パートナーは2700社を超え、会場内に空いたスペースは殆ど見当たらず、通路も人で溢れていた。

MWC24の注目テーマだが、まずは誰もが予測しているAIだ。

AIはあらゆるブースで関連展示があり、CES2024以上にAIが中心だった。

一方、MWC24に行ったことで見えてきたテーマもある。その1つがNetwork APIだ。

特にエリクソンブースではNetwork API関連の展示が多く、それらを軸に、6Gに向けた取組みと併せて紹介する。

IPやアプリと通信ネットワークをつなぐNetwork API

まずNetwork APIについて簡単に説明する。

Network APIはアプリケーション側からネットワークに対してネットワークサービスの利用を要求することや通信品質を要求することができるインターフェースだ。

ユーザーが持つ端末やクラウドにあるアプリケーションや機能が必要とするネットワーク側にあるサービスや品質をアプリケーション側から利用することや、通信品質の要求・確認をすることができる。

Networkのセキュリティは守られていることはもちろん、他のサービス利用者に対する影響は与えないようになっている。

サーバやクラウドストレージとつながるNetwork API
サーバやクラウドストレージとつながるNetwork API

ブースではエリクソンが2022年に買収したVonageを活用したソリューションが複数展示されていた。

VonageはUnified Communications as a Service (UCaaS) 、Contact Center as a Service (CCaaS)、Communications Platform as a Service (CPaaS)を提供していて、CPaaSにコミュニケーションAPI(Network APIの一部)が包含されていてSMSやVoIPなどを簡単に開発・連携ができる。

IP電話と一般的な電話が接続できることや、SMSを利用した二段階認証などは、まさにコミュニケーションAPIによって実現できている機能だ。

Sim Countと用途(広告や災害時活用)の紹介
Sim Countと用途(広告や災害時活用)の紹介

Vonageの活用事例の中で、コミュニケーションAPIとは少し視点が異なるNetwork APIのユースケースが紹介されていた。

特定のエリアにおけるSIMの数をカウントできるAPIを使うと、その場にどのくらいの人がいるかがリアルタイムで推察ができるという。

特定のロケーションのメディア価値評価や、SIMの密度に応じた広告の出し分けなどの活用や火災などの災害時に要救助者がそのエリアにどの程度いるか、という初動の確認にも活用できる仕組みだ。

5Gの価値を拡張する産業向けのNetwork API活用

産業向けのユースケースの多くは、提供したい機能便益が明確であり、ベストエフォート型ではサービス品質が担保できないシーンや用途だ。

ソニー製のスポーツ中継配信用のカメラが直接ネットワークに対して必要な通信速度を要求し、その速度をネットワーク側が担保し、映像のアップロードを行うというユースケースが紹介されていた。

つまり、5G SAのネットワークスライシングをアプリケーション側や端末側からダイナミックに要求することが可能となる。

もちろん確保されている帯域の上限を超えることはできないが、事前に接続するカメラの数や、優先条件などを決めておくことで、多くの人が来場して混雑しているスタジアムでも撮影映像を5Gネットワークで遅延や品質劣化なくサーバーやテレビ局へ届けることができる。

産業別Network API活用:映像のアップロード
産業別Network API活用:映像のアップロード

モビリティのユースケースも紹介されていた。

トヨタなどが中心となって立ち上げたコネクテッドカーの基盤整備を推進する業界横断事業体AECCが定義するConnected Vehicle APIだ。

コネクテッドカーは安全性や車内の快適性を向上させていくために様々な通信サービスを利用する。

車内エンターテイメントを快適に楽しむためのQoSも望まれるが、それ以上に事故などを未然に防ぐ安全のための通信は絶対に品質を保持しなくてはならない。

産業別Network API活用:モビリティにおける多様な用途への対応
産業別Network API活用:モビリティにおける多様な用途への対応

また、さらなる安全性の向上や、緊急車両との連携のためにも交通インフラとの接続なども求められるため、APIの定義、標準化が必要となる。そのために「CAMARA – The Telco Global API Alliance」と連携し標準化を進めていくという。

※CAMARAは2022年にLinux FoundationとMWCの主催団体であるGSMAが立ち上げた異なるオペレーターやアプリケーション提供者間であっても、通信とアプリケーションがスムーズに連携可能となるAPIの標準化を推進するオープンソースプロジェクト

コンシューマー向けスマホアプリでのNetwork API活用

Network API活用事例としてのバーチャルスタジアム
Network API活用事例としてのバーチャルスタジアム

コンシューマー向けの事例として身近なスマホアプリでNetwork APIを活用したユースケースもあった。

特定のアイスホッケーチームのファンに向けたアプリで、多くの人が同時にバーチャルスタジアムで快適なリアルタイム多視点映像を楽しめるようになっている。

課題となるのは配信の際の映像品質だ。そこで、E2Eの5G SAの公開用Network APIを活用することで、アプリ側から最適な通信品質を要求することができるという。

またアプリにはファンとのエンゲージメントを向上させるためのゲーミフィケーションも組み込まれていた。

アプリ内のアクションで貯めたポイントで選手カードを獲得してコレクションしていく仕組みだ。バーチャルスタジアムで没入し、ゲーミフィケーションでファンの沼にハマっていく、というまさにImmersiveなコンセプトが感じられるものだ。

ファンのエンゲージメントをゲーミフィケーションで実現するアプリ「LIF ZONE」
ファンのエンゲージメントをゲーミフィケーションで実現するアプリ「LIF ZONE」

通信ビジネスは通信サービスビジネスに進化

Network API以外で、MWC24で目立ったキーワードがCSPだ。

CSPはCommunication Service Providerのことで、日本語に直訳すると通信サービスプロバイダー(CSP)だ。

これまでCSPは通信事業者やインターネットサービスプロバイダー、テレビ局などのメディア事業者などがメインだったが、Network APIの存在と拡がりで、インターネットサービス提供者をはじめ様々な企業が通信ネットワークを活用したサービスを提供できるようになる。

つまり、誰もがCSPになり得る時代となっていく。

CSPの収益拡張のためのUCaaS
CSPの収益拡張のためのUCaaS

CSPの収益拡大のためのUCaaS活用も展示されていた。

背景にあるのは、ビジネス上でも多くのツールが利用されていて、Chatツールやビデオ会議アプリケーションだけでも複数存在するような実態だ。

セキュリティ面でも使い勝手の面でも、多様なツールの使い分けを利用者に任せ続けることは望ましくない。このような課題をサービスの統合などで解決し、使い勝手も安全面もクリアしていくことがUCaaSのビジネスチャンスとなる。

Network API活用の拡がりは、UCaaSなどのソリューションサービスを提供するCSPを増やしていくことになるだろう。

※UCaaSとは、Unified Communications as a Serviceの略で、企業が業務上必要とするすべてのコミュニケーションを一つのソリューションに統合し、管理や運営、APIなどを統合するサービス。

センチメートル波に注目が集まる6G

最後に6Gの現状だが、エリクソンブースでは6Gの実験環境の一部を持ち込んでいて、現時点の6G端末も展示されていた。

現状の6G端末はテスト用のものだが、小型のスクーターより大きいサイズだ。今後開発と進化が進み、2030年頃、6G商用化に向けてどんどん小さくなっていくことになる。

6Gテストベッド端末Zeus
6Gテストベッド端末Zeus

6Gのテストベッドでは7~15GHzのセンチメートル波を使って通信をしていた。

5Gで注目されたミリ波帯は実用面での課題が解決できておらず、今後も当面は特性に合わせた使い方に限定されるだろう。

そこで汎用的な用途で期待されているのがミリ波より低い帯域のセンチメートル波だ。この帯域の中であればある程度の広い帯域の確保ができる見込みで、例えば1.6GHz程度を確保することで、10Gbpsの速度が出るということだ。

対応する帯域が記載されたZeus 6G Testbed
対応する帯域が記載されたZeus 6G Testbed

6Gに期待されるのは速度や低遅延、目的に最適化するフレキシビリティなど多くの要素があるが、もう1つ注目したい領域が電力効率の向上だ。

エリクソンブースでは、5Gの新型アンテナや基地局設備でも電力効率の向上がアピールされていたが、6Gではネットワーク全体でのエネルギー効率化が求められている。

6GのコーナーではFuture AIはエネルギー効率の活用が必須であるというメッセージもあり、通信ネットワークはもちろんだがAIそのもののエネルギー効率化にも今後注目が集まりそうだ。

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