ポスト5G時代においては、IoTデバイスがアプリケーションを処理するためのサーバやコンピュータ(以下、計算資源)へ行うリクエスト数が増大することが見込まれている。そのため、低遅延を維持しつつ、大量のリクエストを処理するための基盤技術が必要とされている。
しかし、従来のクラウドとデバイスを用いた処理システムでは、5Gネットワークを用いてもIoTデバイスからクラウドまでは通信遅延が大きく、データを応答性の高い速度(低遅延)で処理することは困難だ。
それに対して、近年ではMECなどのデバイス近傍の拠点を生かしたエッジコンピューティング技術を用いて低遅延でデータの処理を行うための技術開発が進められているが、MECの限られた計算資源だけでは、大量のIoTデバイスからのリクエストを処理することが困難になることが予測されている。
そこでソフトバンク株式会社と国立研究開発法人産業技術総合研究所(以下、産総研)は共同で、MECおよびクラウド環境を用いた分散処理システムで遅延制約を満たすと同時に、スループットを最大化するためのアプリケーションを構成するコンポーネントの最適配置を動的に行うシステムをNEDOの事業の一環として開発した。
このシステムは、5Gシステムからのネットワークの情報と、MECやクラウドの計算資源に関する情報をリアルタイムに監視・取得し、その状況に応じたアプリケーションを構成する複数のコンポーネントの最適配置解を計算する。そして、その結果に基づきコンポーネントを動的に配置するものだ。
最適配置解の計算については、独自のアルゴリズムを開発。今回開発したアルゴリズムは、アプリケーションおよび計算機の特性や性能を厳密に計算し、アプリケーションからの遅延要求を満たす中で、最大のスループットを達成するコンポーネントの配置解を導出す。

このアルゴリズムを用いたシステムにおいて、ネットワークの状態変化や計算資源の状況に応じて満たすべき遅延制約やスループットを確保しながら、動的にコンポーネントの配置解を導き出すことが確認された。
具体的には、システムの特長を生かすため、低遅延・多数同時接続・広域性を必要とするユースケースとして、車両と様々な要素を通信する「V2X」による、自動車の衝突回避支援を想定したシミュレーションを実施した。
このシミュレーションでは、疑似的なV2Xアプリケーションを開発し、ネットワークの状態や計算資源で疑似的なポスト5G環境を構築した上で、最適配置の有効性について検証した。
「V2X」に求められる遅延制約を25msと設定し検証した結果、クラウド(1番デバイスから遠い計算資源)にのみ配置した時では満たせない14.8msを達成し、エッジのみで処理した場合に比べ、2倍の実効スループットを達成した。

なお、今回この事業で開発したシステムのプラットフォームは、オープンなインターフェースとして、5Gデジタルサービスの開発・運用を可能にする環境の提供が想定されている。
今後、5GデバイスやMECを用いた実証実験を通して、自動運転や工場のスマート化などのユースケースに関わる実用化検証を行う予定だ。
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