モバイル通信トラフィックは、約80%が屋内で発生するため、ミリ波技術を活用した高速ワイヤレス通信が屋内対策として検討されている。
しかし、ミリ波帯は大きな伝搬損失と高い直進性を有するため、十分なサービス品質を実現するために、基地局と端末間の見通しを確保することが必要となる。
この課題解決のひとつとして、端末と直接データの送受信を行う分散アンテナユニット(以下、DA:Distributed Antenna)を高密度に設置し、遮蔽物を回避することが挙げられるが、DAのサイズ、消費電力、必要量を設置するためのコストが課題となっている。
こうした中、日本電気株式会社(以下、NEC)は、安定したミリ波通信ネットワークを安価に構築することが可能な1-bitファイバ伝送方式の光ファイバ無線システム(以下、RoF)を開発し、その実証に成功したと発表した。
従来のRoFは、デジタルRoFシステム(以下、デジタルRoF)とアナログRoFシステム(以下、アナログRoF)に分類される。
デジタルRoFは、無線ユニットで生成されるデジタル信号を、DAにファイバ伝送する。デジタルRoFで用いられるDAには、デジタル信号を処理するデバイスやデジタル-アナログコンバータを装備する必要があるため、消費電力が大きくコストも高くなる。
一方アナログRoFは、RUで高周波アナログ信号を生成し、DAにファイバ伝送する方式を用いている。アナログRoFにおいては、DAにはデバイスやデジタル-アナログコンバータが不要となり構成が簡素化されるが、電気-光変換器には、アナログ信号向けの高い線形性が求められる専用の変換器が必要となる。
そこでNECは今回、1-bitファイバ伝送方式と、それを用いた1-bit RoFシステム(以下、1-bit RoF)を開発。1-bitファイバ伝送方式は、高周波アナログ信号を1-bitパルス信号に変換してファイバ伝送する方式で、フィルタを介すことで、所望のアナログ信号を再生することができる。

この方式を用いた1-bit RoFでは、デジタルRoFと同様、デジタル通信向けの安価な汎用電気-光変換器を用いることが可能となり、同時にアナログRoFのように、DAにデバイスやデジタル-アナログコンバータを必要としないという双方のメリットを享受している。
しかし、1-bit RoFの実用化には、1-bitパルス信号に変換する1-bit変調器の、信号対雑音・歪特性が低いという課題があった。
そこで今回、ダウンリンク向けの1-bitファイバ伝送方式として、雑音・歪特性に優れたベクトル分解方式を開発した。また、アップリンクにおいては、1-bitファイバ伝送で発生する信号歪をキャンセルし、元の信号を再生するデジタル再生方式を開発した。
これにより、ダウンリンク・アップリンクの双方向において、1-bitファイバ伝送時の信号対雑音・歪特性の劣化を抑制することに成功した。

加えて、今回開発した1-bit RoFシステムが、モバイル通信規格へ適合することを確認するため、新たに無線ユニットと小型DAで構成される40GHz帯向け光ファイバ無線試作機を開発し、実証の結果適合が確認された。

なおこの成果は、2024年6月16日から米国ワシントンDCで開催される国際会議「IEEE MTT-S International Microwave Symposium (IMS2024)」で発表されるとのことだ。
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