ソフトバンク株式会社は、AI-RANコンセプトに準拠した、AIとRAN(無線アクセスネットワーク)を、同一のNVIDIAアクセラレーテッドコンピューティングプラットフォーム上で動作可能にする統合ソリューション「AITRAS(アイトラス)」の開発を本格的に開始したことを発表した。
「AITRAS」は、AIとHPCアプリケーションのためのプロセッサである「NVIDIA GH200 Grace Hopper Superchip」のプラットフォーム上に、RANをキャリアグレードで提供するとともに、生成AIなどさまざまなAIアプリケーションの提供も、同時かつ効率的な運用を可能にするソリューションだ。
実際の無線環境では、日常的に発生する急激なトラフィック増加や、マルチパスなどによる電波干渉に対して性能を引き出すために、さまざまな高速処理やアルゴリズム機能を適用するが、高度かつ複雑な処理が必要なため、システムの安定性を保つことが課題になる。
そこで「AITRAS」のL1(物理層)ソフトウエアは、ソフトバンクが、仮想サーバ上でのAI開発環境を提供するソフトウェア「NVIDIA AI Aerial」プラットフォームをベースに開発した。これにより、信号の並列処理やタスク起動タイミングの最適化などにより、キャリアグレードに必要な安定性や高性能を実現すると同時に、RAN容量の最大化や消費電力の削減などを実現する。
また、仮想化基盤と連携するオーケストレータも開発しており、AIとRANそれぞれのアプリケーション特性を踏まえて効率的にコンピューティングリソースを動的に配分することが可能だ。
通信事業者は、「AITRAS」を導入することにより、従来のRANインフラの投資を継続しながらAIインフラの構築も同時に行えることに加え、AIを活用したネットワークの効率化も図ることができる。
さらに、「AITRAS」には、大規模言語モデル(LLM)の開発・展開を容易にする機能群で構成されたソフトウエアプラットフォーム「NVIDIA AI Enterprise」が実装されている。
これにより、顧客である企業自身でAIアプリケーションを開発・展開することも可能になる。
今後ソフトバンクは、「AITRAS」をソフトバンクの商用ネットワークへ導入するとともに、2026年以降には国内外の通信事業者などへの展開・拡大を目指すとしている。
また、ソフトバンクは、「AITRAS」の実用性と効果の実証を目的として、通信事業者向けに「AITRAS」のリファレンスキットの提供・展開を、2025年以降に実施する計画だ。
通信事業者は、このキットを自社の屋内外のラボに導入することにより、NVIDIA AIコンピューティングインフラ上に実装されたAI-RANの機能や性能、経済性などの実証を自社のみで行うことが可能になる。
また、通信事業者が新たなユースケースの創出のため、事業者自身がAIアプリケーションを開発し、キット上に展開・動作させ、検証を行うことも可能になる予定だ。
さらに、同キットでは、効率的なコンピューティングリソースの運用を可能にするオーケストレータも提供するとのことだ。
なお、同キットは、主に下記の7要素で構成されている。
加えてソフトバンクは、「NVIDIA GH200 Grace Hopper Superchip」プラットフォーム上で、ソフトバンクが開発したL1ソフトウエアを用いた5GのvRAN(仮想無線アクセスネットワーク)を、屋外実証実験環境として構築した。
この屋外実証実験環境は、神奈川県藤沢市に構築されたもので、「NVIDIA GH200 Grace Hopper Superchip」を搭載した1台のサーバ上で、100MHz幅の帯域を持つ5G 20セルのベースバンド処理を可能にしている。
また、この環境で実施されたひとつの実証実験では、4.9GHz帯の周波数の電波を利用し、最大4レイヤーのMIMO(Multi-Input Multi-Output)により、1セル当たり最大約1.3Gbpsの通信容量の実現に成功したとしている。
他にも、キャリアグレードとして必要な安定性、高接続性を確認するため、100台以上の端末を用いたさまざまな実証実験を行っているとのことだ。
今後は、Massive MIMOのような空間多重技術や、AI-RANについても併せて評価する予定だ。さらに、RAN容量の最大化や消費電力の削減などを実現するL1ソフトウエアの開発も行う計画だ。
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