南極における海中の調査では、一般的に技術者や研究者自身が現地に赴き、有線接続した水中航走体(ROV:Remotely Operated Vehicle)を海中に投入・操作して、海中の映像のモニタリングやデータ計測・サンプル回収などを行っている。これには多大な時間とコストがかかる他、過酷な環境である沿岸の調査ポイントに長期滞在しなければならず、効率性や持続可能性に課題があった。
そこでソフトバンク株式会社は、トラッキング技術を活用した水中光無線通信と衛星通信を組み合わせることにより、ソフトバンクの本社から南極の海氷下を移動する水中ロボットをリアルタイムで遠隔制御する実証実験を実施し、成功したと発表した。
この実証実験は、日本の技術者や研究者などが南極まで出向くことなく、日本にいながら遠隔地から海中を調査できるシステムの構築の可能性を検証するために実施された。
具体的には、ソフトバンクが2023年3月に発表した、光の明滅を信号に変換する技術である「OCC(Optical Camera Communication)」と、非地上系ネットワーク「NTN(Non-Terrestrial Network)」を組み合わせた水中ロボットの遠隔リアルタイム制御システムを改良して、南極で実証実験を行った。
このシステムでは、LEDの光の明滅をカメラで撮影し、画像処理を用いたトラッキング技術で光を検出・追従することで、光の輝度変化をデジタル信号に変換する。これにより、リアルタイムな通信が可能となり、水中ロボットが互いに協調動作を行うための指示やデータを送受信することができる。
さらに、このシステムは親機となる水中ロボットとNTNで接続することで、遠隔地からコマンドを送る機能があるため、離れた場所にいるオペレータが海洋で動作している水中ロボットに対して指示を出すことができる。
また、水中ロボットは搭載された各種センサから得た情報を収集し、そのデータや水中ロボットの動作状況を遠隔地のオペレーターに送信することも可能だ。
例えば、水温や水圧などのセンサ情報を取得し、そのデータを衛星通信などのNTNを通して共有できるため、オペレータはリアルタイムで海洋環境の状況を把握し、意思決定を行うことができる。
この技術を活用した実証実験により、南極の海中を移動する水中ロボットを、約1万4,000km離れた日本からリアルタイムで遠隔制御し、水中ロボットに搭載した水温や水圧などのセンサ情報をモニタリングすることに成功した。
また、水温が約-2℃まで低下し、海氷に閉ざされることで音響通信の活用が難しい南極の海氷下においても、水中ロボットや機器をリアルタイムで遠隔制御するとともに、水中ロボットからのデータの収集や観測などを遠隔で実行できることが確認された。
今後は、自律型水面航行ロボット(ASV)と組み合わせて、活動範囲や水中ロボットの同時制御可能台数を拡張した遠隔制御システムを開発し、遠隔でのサンプル回収・分析などの研究を進める計画だ。
また、この技術を応用した、日本近海における水中測位や水中無線コミュニケーションが可能な水中ロボットおよびダイバー向けソリューションの開発も推進し、2026年度の商用化を目指すとしている。
ソフトバンクは、「このソリューションは、将来的に海底資源の探査や海洋インフラの監視、災害時の救難活動など、さまざまな分野での応用が期待されている」としている。
なお、この実証実験は、大学共同利用機関法人 情報・システム研究機構 国立極地研究所の協力の下、第65次南極地域観測隊による観測事業の一般研究観測課題「マルチスケールのペンギン行動・環境観測で探る南極沿岸の海洋生態系動態」の一環で実施されたものだ。
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