日本電信電話株式会社(以下、NTT)と上智大学は、商用運用中の携帯電話基地局から送信される電波の変動をAIで解析することにより、屋外の人流を推定する技術の実証に成功したと発表した。
この成果は、第6世代移動通信システム(6G)での導入が期待されるISAC(Integrated Sensing And Communication:通信センシング融合)技術の有効性を具体的に示すものであり、カメラや専用センサを用いることなく、通信インフラのみで広範囲のセンシングを可能にするものとして注目される。
ISACは、通信用の電波をそのままセンシングにも活用することで、専用センサを必要とせず、電波の特性を活かした非接触かつプライバシーに配慮したセンシングを実現するものだ。これにより、見通しの悪い環境や夜間など、従来のカメラベースのセンシングが困難だった状況での活用も期待される。
今回両者は、通信端末と無線基地局間の同期信号から、センシングに活用可能な電波伝搬情報(RSSI、CSI)を高精度に取得する技術を確立した。
そして、取得した電波伝搬情報を深層学習を用いて解析することで、屋外の通行人数を推定するシステムを開発した。
実証実験では、上智大学四谷キャンパスの屋外通路という実環境において、実際に運用されている4G(2GHz帯 バンド1)の商用基地局からの電波を2本のアンテナで受信し、通行人数を計測した。
比較対象として、同エリアを撮影したカメラ映像からAIで通行人数を算出し、今回開発した技術で推定した人数との精度を比較した。

その結果、通行者数の増減とRSSIの移動分散(電波強度のばらつき度合い)に高い相関が見られた。
さらに、時間分解能力の高いRSSI(1秒間に100回計測)と空間情報を含むCSI(1秒間に1回計測)の両方を入力データとして深層学習モデルで解析した。
その結果、RSSIからは時間変化の特徴を、CSIからはアンテナ間・サブキャリア間の変化から空間的な特徴を抽出し統合することで、推定精度を向上させた。
加えて、屋外環境特有の風による揺れなどによるノイズの影響を低減し、モデルの汎化性能を高めるため、観測値と教師データにノイズを加えるデータ拡張技術を適用。これにより、推定誤差を従来手法に比べ半減させることに成功したのだという。
今回の成果により、プライバシーに配慮しつつ、夜間や悪天候下でも利用可能な人流センシングなど、カメラや専用センサが不要である特徴を活かした移動通信システムでの新たな価値創出が期待される。
今後両者は、商用4G/5G電波を活用した様々な生活環境におけるISACの実証実験を重ね、技術開発を推進するとしている。得られた知見は、3GPPなどの標準化団体に提示し、6GにおけるISACの実用化を促進する計画だ。
さらに、複数キャリアの基地局からの同期信号を統合的に解析する技術開発にも取り組み、センシング精度のさらなる向上を目指す他、ISAC技術を活用した新たなサービス展開の検討・実証を進めていく方針だ。
なお、今回の成果の詳細は、2025年5月28日~30日に開催される「ワイヤレスジャパン×ワイヤレス・テクノロジー・パーク」にて技術展示される予定だ。
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