スマホアプリも簡単構築できる、BaaSサービス -Kii 株式会社 CEO 荒井氏インタビュー(1/2)

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BaaSとは、Backend as a Serviceの略で、IoTサービス構築のため必要なサーバ側の様々な機能をあらかじめ準備して提供することで、サーバー側のコーディング及び運営をする必要がなくなり、サービス開始の敷居を低くするものだ。先日KDDI社や大日本印刷社とコンソーシアムを作ったことでも話題となった、IoT向けBaaSを提供されている、Kii 株式会社 代表取締役会長 荒井真成氏にお話を伺った。

全2回の記事で構成されており、前半は、Kii社のBaaSについて、後半は、BaaSをエコシステムにまで昇華させたサービス”Space”について紹介する。

Kii 株式会社 代表取締役会長 荒井真成氏 プロフィール

「半年ほど現役引退していたが、暇で暇できっと死ぬまで仕事をし続けないと生きていけないことに気づいた」、という荒井氏は、シリコンバレーに20年住んでいる。 1995年から米インテリシンク社で赤外線通信のパソコン同士の通信や、Palm Pilot、ザウルスなどのPDAとパソコンのOutlookやロータスノーツのデータを同期する世界を構築し、最終的に企業のモバイル化の根幹となるデータ同期のエンジンのソリューション展開をするという事業をしていた。

その後、米インテリシンク社がノキア社に買収された後、ノキアエンタープライズソリューションの日本、韓国のカントリーマネージャーを担当後、Kiiの前進となるシンクロア社を2008年に設立、再度全世界事業展開を展開するためにスマートフォンのテクノロジーを保持する米Servo Software社を買収し、2010年Kii株式会社となった。

 

-Kiiを設立した背景を教えてください、

もともとパソコンやPDA、携帯電話などのデータを同期させるソフトウエア「Intellisync」を扱っていたインテリシンクという会社の創立メンバーの一人で、プロダクトマーケティング、ビジネスデベロップメントの全責任を持ち、さらにアジア全域の総責任者をしていました。さらに皆さんが携帯でよく使っている赤外線通信の国際仕様を決めたりする 役割も担っていました。日本では、ドコモ、ソフトバンクの電話帳お預かりサービスを作りその後、インテリシンク社がフィンランドのノキアに買収される際、一部の事業を買い取り今のKiiの前身となるシンクロアを設立しました。

その後、スマートフォンのアプリが全盛期の時に、スマートフォン向けのアプリ自体を作るのではなく、アプリを作るコンポーネントをクラウド化し、様々なアプリケーションに提供すればいいのではないかというアイディアに到達し、今のBaaSという概念をはじめたのがきっかけです。

BaaSを提供するためには、アプリを作るため必要な構成要素を幅広く提供することと、様々なスマホのOSに対応するSDKを用意し、クラウドを運営し、ユーザー数に応じてクラウドをスケールさせることが必要です。 KiiのBaaSはインテリシンクがもともと持っていたキャリアグレードのスケーラブルなサーバ技術と、買収した米Servo Software社のアプリ開発技術のコンビネーションがうまくいって完成しました。Sevrvo Softwareの買収時にシンクロアからKiiという名称に変更しております。

プロダクトがリリースされたのが、2013年の初頭くらいです。その時は、スマートフォンアプリのBaaSにフォーカスして、特にビジネスになるかは考えず、アプリ数とアプリ開発者を増やすことに集中していました。ゲーム、ユーティリティー、メディア、教育、企業向けなど様々なアプリに利用され、一年間で1万5千人ほどの開発者が集まり2万アプリをサポートするに至りました。現在もその数は増え続けています。 

 

Kii 株式会社 CEO 荒井氏インタビュー
左:Kii 株式会社 代表取締役会長 荒井真成氏/右:IoTNEWS 小泉耕二

2014年からは、その中でも2つのエリアにフォーカスすることになります。一つは企業向けアプリで、もう一つはIoTソリューションです。

企業向けアプリでは大きく2つのユースケースがあります。一つは自分の顧客にアプリを提供するB to C (Business to Consumer)のエリアで、もう一つは企業の中で使うB to E (Business to Employee)とB to B (Business to Business)です。 B to Cのユースケースは、例えば企業がプロモーションなどをするためにアプリを作る場合があります。この際、スピード感が大事で、3ヶ月ぐらいでどんどんアプリを作っていきます。中にはプロモーションが終わったら使われなくなるアプリもあります。そこで、素早く費用を使わずにアプリを作ることができ、運用の手間がかからない弊社のBaaSが非常に適しています。 B to E, B to Bのユースケースは、企業内の情報システムのモバイル化に使われています。この際、他の企業内情報システムに繋げることが必要になり、プラットフォームの拡張性及び品質などが重要になります。 Kii Cloudはこの点で非常に高く評価されています。これら企業向けソリューションを広げるために、KiiはKDDI, DNPなどのシステムインテグレーターの方たちとパートナーシップを組んで、企業のお客様へソリューションを提供しています。

2つ目のフォーカスであるIoTソリューションのエリアでは、IoTソリューションを作る時に多くの場合、デバイスをコントロールするモバイルアプリが必要になることに目をつけ、デバイスメーカーのかたにKiiのBaaSを提供し始めました。もともとインテリシンク社(以前荒井氏が所属していた会社)の時に技術をPDA、フィーチャーフォンなどの多くのデバイスメーカーに提供しており、デバイス開発の中心である日本、台湾、中国などに幅広い人脈がありました。 さらに、メモリーやCPUパワーがすくないデバイス、様々なエンベデットOSへの対応の仕方などもよく理解していました。 デバイスメーカの方にBaaSを提供し始めてから、すぐに多くのお客様に利用されるようになりました。 ヘルスケア、スマートホーム、スマートシティ、ウエアラブルなど様々なIoTソリューションに利用されるようになりました。 そして、会社のフォーカスをIoTのバックエンドに絞り今に至っています。

 
-まわりまわって、デバイスソリューションというところに戻ってきたというわけですね。

一般にIoTのBaaSというと、デバイスのマネージメントや大量のセンサーから上がってきたデータをマネージしビッグデータにするというクラウドサービスなど多くあるのですが、冒頭に申し上げた通りコンシューマーユースのIoTは必ずモバイルアプリが必要です。

そこで弊社は、モバイルアプリ側から入ってここを充実させました。モバイルアプリとIoTのバックエンドという2つの軸をきちんと持っている企業は世界を見てもなく、僕らがユニークな存在だと思っていますし、IoTのBaaSと言われると、世界で5本の指に入るようなポジションになっています。いつも競合になるのは、Amazon、Microsoft Azure、Google、ThingWorxあたりになります。

 
-世の中には様々なデバイスありますが、どんなデバイスも繋いでいくのでしょうか。

IoTのデバイスは様々ありますが、その用途は大きく分けると2通りになります。

ウエアラブル、ヘルスケア、スマートホームなどコンシューマーにサービスを提供するソリューションに使われるケース、二つ目は工場、街、ビルディングなどの経費節減、効率化、品隲向上をするために使われるインダストリアルIoTソリューションです。 

Kiiはその出発点が前者のモバイルアプリを必要とするB to Cソリューションで、その用途では他のソリューションを大きくリードしていますが、今ではインダストリアルIoTのプラットフォームとしても多く使われるようになりました。いずれのケースもさまざまなデバイスをサポートしています。活動計、体組成計、体温計、おもちゃ、さまざまなセンサー類(湿度、温度、空気汚染度、輝度、モーション、ドアなど)、ウエブカム、スマートキー、LEDライトなどのスマートホーム系、GPS トラッキングデバイスなど本当に多岐にわたっています。

 
-確かに、クラウドにあげたデータをグラフで見ましょうというところまではあるのですが、スマホのアプリまで簡単に作れますというところまでは、あまりないですよね。

BaaSの基本的なことは、単純な考えに基づいているのですが、何のソリューションでもいいのですが、ソリューション開発者は差別化できるところに投資を集中すべきです。

IoTソリューションの差別化要因は、デバイスがユニークな機能を持っているとか、軽いとか、電池が長持ちするとか多くあります。また、それと対になっているモバイルアプリケーションもUIが使いやすいとか、サクサク動くとか、必要な機能が使いやすいとか、重要な差別化要因が沢山あります。 

一方、これらを動かすためのクラウドのほうは、ユーザー管理機能を作って、通知機能を作って、データを蓄積、位置情報を取得し、アナリティクス回したり・・・というのは誰が作ってもほぼ同じものを作ります。本来なら差別化要因であるユーザーとの接点の機能に時間をかけなければいけないのに、クラウド側を自社で全てを作ろうとすると、裏側に多大な時間と費用を使ってしまい、競争力がなくなってしまいます。

サーバーエンジニアを雇い、サービス展開がはじまったら、オペレーションエンジニアを雇い、差別化できない部分に時間とお金をかけてしまいます。でもこれらは、Kiiのソリューションではほぼ全て揃っています。スマートフォンのSDK、デバイスエージェントをダウンロードしてもらえば、サーバー側は開発しなくていいし、オペレーションもしなくていいので、基本的にはサーバーエンジニアとオペレーションエンジニアはいりませんというのが、BaaSの考え方です。

ベンチャーも大手も、BaaSの重要性に気づき始めた

Kii 株式会社 CEO 荒井氏インタビュー

IoTは色々な方がデバイス、ソリューションを作られていますが、まだ創世記で1995年にブラウザができた時と一緒で、これからしばらくは試行錯誤が続くと思います。その結果失敗も多くあると思います。なぜかというと、テクノロジーが先行して、本当にユーザーが何にを欲しているのかわからないからです。

すごいウェアラブルデバイスを作ったとしても、電池が持たなかったり、つけ心地が悪かったり、重かったりなど完成できてないものが多くあり、モバイルアプリの機能、使い心地も同じように多くの場合問題があります。僕が見ている中では50分の1ほどの成功率です。したがって、プロトタイプしては作り直すという繰り返すという過程で全部クラウド側の機能を自作していたら、成功するのが50回に1回だと仮定すると、そこに到達するまでに資金が尽きてしまいます。

しかし、Kii Cloudは最初は無料で使い始められますので、最初に、POC(Proof Of Concept、プロトタイプの前段階の概念実証)を行い、プロトタイピングとまわして、「いける」と思ったら、はじめて弊社に来てビジネス条件の話をするということがけっこうあります。ベンチャーだけではなくて、大手のR&Dという部署もだんだんBaaSを理解してきて、最近は問合せがすごく多い状況です。

BaaSという概念がさらに力を発揮するのは製品展開してからです。IoTのソリューションを成功させるというのは、トライ&エラーを繰り返さないといけないというのがひとつと、いけるなと思っても継続性が高いサービスやモノなどを売ろうとしたら、サービスを一度作って終わるのではなく、繰り返し改善していかないとならないということです。

このために重要なのが、モバイルアプリの中に、エンドユーザー行動を分析する機能を入れて、誰がどんな機能をどう使って、使いづらいところはどこにあり、どんな機能を欲しているのかなどを見ていかなければいかないですし、デバイスに関していえば、接続が切れていないかなどチェックして品質をあげていかないといけません。

IoTソリューションは冒頭に述べたように、成功のパターンがまだはっきりしておらず、成功率は非常に低いです。したがって重要なのは、最小必要機能(MVP, Minimum Valuable Product)を小さく作って、改善のサイクルをぐりぐり回して、いいものに仕上げていく、リーンスタートアップの典型パターンをうまくやることが非常に大切になります。この観点からもBaaSはこの改善サイクルを素早く回せるので、非常に有効です。

差別化というのは、クラウドの機能自体にはあまりありません。ところが、クラウド上にデータが集まりはじめると、このデータは差別化、ビジネス拡大の最大要因の一つとなります。

例えばこの私が使っているデバイス(京セラ デイリーサポート)は京セラさんが作った健保向けのサービスでつかわれていて、人々の生活習慣のさまざまなデータを取っています。 

京セラ デイリーサポート
京セラ デイリーサポート

 

このデバイスは単に歩数を測るだけでなく、階段を登ったり、エスカレーターを使ったこと、自電車に乗ったことなどもわかります。さらにスマホを使い何を食べているのか、そのカロリーはいくつか、どのくらいの時間をかけて食事を取っているか、どのくらいの睡眠を取っているかなどのデータを毎日全部取っていて、その結果生活習慣のビッグデータが多く溜まっていきます。当初はそのデータを使い何をやるかすべてわからなくても、あとで相関関係などのアルゴリズムを回してみると非常に意味のある結果が得られ人々の健康に役立てることができます。 これは大きなビジネスチャンスを生みます。

ビッグデータを入れるプラットフォームはそれ自体はサービス、ビジネス化に取って差別化ではないのですが、スケーラブルなシステムを簡単に作れるか、というとそれは難しいのです。スケールしその上で分析アルゴリズムを素早く回すと言う柔軟性を持ったシステムは構築が非常に難しいです。

さらに市場展開を考えると、例えばフランスで行って血圧のデータを取ろうとすると、フランス国内にクラウドがないとダメ、という国のレギュレーションの問題があったりします。こういったことを、ベンチャーが対応できるかというと、それは非常に難しいので、そこのフレームワークも専門家に任せた方がいいのだと思います。そのうえで分析のアルゴリズムは自分たちでやるのがよいと思います。

 

続き:IoTで「販売」までサポートするエコシステム”Space” Kii 株式会社 CEO 荒井氏インタビュー(2/2)

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Kii株式会社

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