SORACOMカンファレンス、”Connected”最終回は、「モバイル通信だからできることについて」というテーマでのパネルディスカッションが行われた。
【登壇者】
株式会社リクルートライフスタイル 執行役員 大宮 英紀 氏
キャノン株式会社 映像事務機事業本部 映像事務機DS開発センター 主席研究員 八木田 隆 氏
株式会社東急ハンズ 執行役員 オムニチャネル推進部長 長谷川 秀樹 氏
株式会社ソラコム プリンシパルソフトウエアエンジニア 片山 暁雄 氏
リクルート 大宮氏:現在、Air レジというPOSレジのサービスをやっている。一般的にPOSレジというのは高機能で高額なものが多い。そこで、使い役て便利、誰にでも届くものを作りたいと考えている。できることとしては、注文入力と会計、売上、予約、顧客など様々なことを管理することだ。リリース後2年間で約210,000店舗が使っている。POSの他にも受付、カード決済、予約管理などもやっていこうと思っている。
SORACOMとは、iPadにSORACOM Airを組み合わせた事例がある。登録が簡単で従量課金である。POSのデータが小さくスピードを問わないということで、六本木ヒルズで実施した店舗で実証実験も行った。
キャノン 八木田氏:エンタープライズにおけるIoTについて。複写機の事業を行っているがそこでSORACOMのSIMをつかってみたいと考えている。SORACOMのサービスでは、カスタムDNS(※)の機能が好きだ。これによって、クラウド側から端末を制御することができるという機能で面白いと思っているということだ。
キャノンのクラウドサービスは現在AWS上で動いている。クラウドと複合機を連携させることで、管理や運用面、プリントののサポートをすることができる。現在は、エンタープライズの環境で複合機を提供しているが、AWSではお客様毎にデータを管理しなければならないので、「マルチテナンシー」という考え方、つまり、それぞれのテナントの状態をセキュアに維持管理する必要があるのだ。
一方、複合機は導入後のサポートが重要だ。しかし、こういう環境であるにもかかわらず、お客様の環境に簡単にネットワーク接続ができない(セキュリティポリシー上)ということが起きているのだ。そこで、今後こういったことが解決したいと考えている。
東急ハンズ 長谷川氏:拠点間ネットワークのバックアップネットワークとしてSORACOMの回線を利用を考えている。
ネットワークの冗長構成は、有線と無線で組むのがよいというのが一般的だ。現状フレッツが昔とは違い、かなり安定しているにもかかわらず、バックアップ回線に固定の費用を払うのはもったいないと考え、SORACOMに変えようかと検討している、ということだ。
次世代店舗では、店舗内の工事をしなくても、機器が直接モバイル経由でデータセンサーに繋げればよいという構想がある。工事に400万円、通信費用5万円くらい払い続けるより、SORACOMを利用したほうが安くつくのではないかと思う。
様々な仕組みを検討してもセキュリティなど様々な対応に投資をすることなく、AWS上の閉域網に接続することができるので、10年で費用は約2/3ですむのではないかという試算もしているということだ。
-ソラコム 片山氏:(広義の)IoTをどう捉えているか?
キャノン 八木田氏:Akerunは鍵という概念を仮想化したサービスだと考えている。リアルタイムで様々な対応もできているのだ。こうやって、IoTにすることで「リアルタイム」に問題解決ができるということだと思っている。
ハンズ 長谷川氏:オフィスのコピー機が壊れた時、あと10日以内にこわれそうなので、直していいですか?というような事前のアラートができれば、故障後にお客様に怒られながらサービスするより、感謝されながらサービスするこができるようになるのにと思う。
ソラコム 片山氏:リアルタイム以上に、故障予兆ができればよいと考える。SORACOM Airをつかって、お客様の連絡があった時に、リアルタイムにお客様の情報を表示するシンカCTIというサービスがある。
リクルート 大宮氏:IoTは、インプットするという側面と、インプットしたものに対して形を変える、そしてアウトプット(アクション)をするという3つから成り立っていると思う。インプットはセンサーが、変えることはクラウドが担当しているので、あとはアウトプットの部分をどう変えていくかが今後重要になると思う。(自分としては)ハード、ソフトということを包含したサービスをソリューションとして提供したい。
ソラコム 片山氏:ものやヒトがつながり、情報が取れることで、様々なサービスができる期待感があると思われる。仮に、すべてのものがインターネットにつながって情報が取れるとした場合、今後は確かにアウトプットが重要になると思う。
-ソラコム 片山氏:ものがネットワークにつながった場合の期待感はなにがあるか?
リクルート 大宮氏: 期待感はあるが、世の中は便利な方向にしか流れないので、すべてのものがインターネットにつながるということは好むと好まないとにかかわらず変化が起きる。実は、飲食店などでは、発注作業でFAXを手動で仕入れ先におくらなければならないのだが、今後、なくなった食材は自動的に発注されるようなことになれば、時間の短縮になり便利になるのではないかと考えている。
キャノン 八木田氏: 現在の複写機がインターネットにつながる発想については、キャノン視点の発想だと考えている。今後は横につなげる発想が必要だと考える。例えば、東急ハンズで何かのサービスをやっている、キャノンも複写機のサービスをやっている、そういった際、キャノンとか東急ハンズとか関係ない世界でクラウド間、モノ間が連携するような世界に対して期待している。
-ソラコム 片山氏: データ連携のイメージですか?モノのイメージですか?
リクルート 大宮氏: エアレジで入力したものが、キャノンのクラウドのサービスと連携して、レシートが印刷されるなど、日常生活の中でどういうサービスが提供できるかというのは単体の会社ではできないということだ。
-ソラコム 片山氏: AWSのクラウド上でシステムがあれば簡単につながるので、2社のサービスをつなげるとき、SIM認証ができるとおもしろいかもしれないですね
ハンズ 長谷川氏: SIM認証を使ったセキュリティという考え方がありえると考えている。カーシェアリングの際や、金庫などで開けるときに、SIMをつかった認証ができていけるということに期待がかかる。
-ソラコム 片山氏: 実は、SORACOM Endorseというサービスがリリースされて、SIMが持っている認証の機能を他のサービスに利用することができます。他の業務などで使えるケースはありますでしょうか?
リクルート 大宮氏: 今後、IoTとなるとセキュリティの分野が切っても切り離せない。クラウドデータには個人情報や会計情報などの秘密情報も多いので、閉域網をつかったセキュアなサービスが必要になる。
キャノン 八木田氏: SIM認証に興味がある。複合機のサービスをやっていて、転売などを考慮するとデバイスをどう認証するかという課題がある。どのお客様がどのデバイスをつかっているかが不明だと認証することができない。
-ソラコム 片山氏: 今後のソラコムへの期待を教えてください。
ハンズ 長谷川氏: 電話や速い回線もやってほしいと思う。
キャノン 八木田氏: グローバル対応だ。
リクルート 大宮氏: IoTは今後地に足つけて広がっていくと思うので、いろんな業界がつながる場が必要だと考えている。そういう出会う場も作ってほしい。
ソラコムの片山氏から、「世界中のヒトとモノをつなげ共鳴する社会へ」というビジョンを提示して会を終えた。
※SORACOM カスタムDNSの機能について
SORACOMのA~Fのサービス以外にもいくつか話題があるのだが、中でもキャノン八木田氏が触れていた、「カスタムDNSの機能」について解説したい。
この機能は、SORACOMを語る上でとても重要な機能だ。
ソラコム社の説明では、「カスタムDNSとは、オペレータが用意した独自のDNSサーバを使うようにできる機能」となっているが、DNSといわれてもピンとこない人もいるだろう。
同じイベント内で、eConnect Japan社が発表した訪日外国人向けサービスを例にする。この企業は、訪日外国人向けに、一定期間、一定量の通信を可能とする通信サービスを行っているのだ。
つまり、ソラコム社のSIMをスマートフォンに搭載し、訪日外国人に提供するという、MVNOサービスをやっているということになる。
おかしなことを言っているように感じるかもしれないが、通常通信事業者が行う通信制御をソラコム社のサービスではプログラムで制御できるようになっているので、利用者にとって料金的な問題さえなければ通信費に対する利ザヤを取るサービスも可能だというのだ。
例えば、30日間で30GB利用可能なサービスだと、その期間中で、その容量を越えない限り一定金額で利用可能ということだ。
しかし、下の図のように30GB利用しきったが、まだ20日目だったとする。あと10日は使いたいから、できれば追加料金を支払ってもよいから使い続けたいと思うはずだ。
そういった場合、30GB使いきった状態になった時、通常のインターネットは利用できないが、特別なドメイン(例えば、keizoku.com)だけは接続する設定を可能とするのだ。
具体的にどうやっているかというと、そもそもSORACOMはSIMを管理するためのグループという概念があって、グループ単位で好きなDNSを設定することができる。ここでいうDNSというのは、例えば、keizoku.comといったドメインをイメージしてもらえば良い。
一方、SORACOMは、プログラムで管理グループを変更できるので、下の図のように「30GBの利用を越えたら、管理グループを変更する」といった設定が可能なのだ。
これができることで、この利用者はインターネットに接続しようと思うと自動的にkeizoku.comに飛ばされ、利用料金を支払うとまた元どおりインターネットに接続可能となる。eConnect Japan社はこういった機能も今後検討していると述べたのだ。
前段でキャノン 八木田氏が述べた、「クラウド側から端末を制御する」というのは、おそらく、この例のように、一定の条件になった場合、複合機を特別なサイトやプログラムに遷移させることで複合機を制御しようとしているのだろうと思われる。これが可能となると、例えばアプリケーションのバージョンアップがあるときは、クラウド側から特別なURLに通信を遷移させることでバージョンアップを行うといった遠隔保守でできることも増えるだろう。
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IoTNEWS代表
1973年生まれ。株式会社アールジーン代表取締役。
フジテレビ Live News α コメンテーター。J-WAVE TOKYO MORNING RADIO 記事解説。など。
大阪大学でニューロコンピューティングを学び、アクセンチュアなどのグローバルコンサルティングファームより現職。
著書に、「2時間でわかる図解IoTビジネス入門(あさ出版)」「顧客ともっとつながる(日経BP)」、YouTubeチャンネルに「小泉耕二の未来大学」がある。