2. 年間1兆個のセンサが動くIoT時代に必要な、「電池レス」の技術
IoTNEWS生活環境創造室 吉田健太郎(以下、吉田): アナログ半導体メーカーである御社が、「CLEAN-Boost」を開発した背景について教えてください。
エイブリック武内勇介博士(以下、武内): 一つには、エンドユーザー様に直接価値を届けたいという狙いがありました。弊社では、これまでさまざまな半導体を手がけてきましたが、それだけではエンドユーザー様に価値を与えられる部分が限られてしまいます。そこで、弊社のコア技術と品質を活かして、現場で使えるような付加価値のある「ソリューション」を提供したいと考えました。
もう一つは、世の中の背景からです。昨今はIoT時代と言われています。アメリカには、毎年1兆個のセンサが使われる「トリリオン・センサ」の世界を10年以内に目指す、産学連携の国際フォーラムがあります(2013年に第1回開催)。そのロードマップによると、センサの数は2024年には年間1兆個に達するだろうという見通しです。

武内: 年間1兆個ものセンサを使ってIoTの世界を実現するには、無線通信に必要な「電池」が重要な役割を担うようになります。しかし、電池には課題があります。使われる電池の個数が増えてくると、回収が大変です。放っておくと液漏れし、火事につながる可能性もあります。
そこで、電池を使わずにセンシングを行う「電池レス」のソリューションが求められてきました。その一つが、「エネルギーハーベスト」(環境発電)と呼ばれる、太陽光や振動、熱などの身のまわりにあるエネルギーを使って発電を行う技術でした。しかし、まだまだ適用できる範囲は限られています。
吉田: 御社の「CLEAN-Boost」は、エネルギーハーベストの技術の一つになるのでしょうか。
武内: 「CLEAN-Boost」は、非常に小さいエネルギーまで発電の対象としています。その点が、他のエネルギーハーベストの技術とは違うところです。「CLEAN-Boost」の発想は、1998年に弊社で製品化した熱発電時計「サーミック」が元になっています。隣にいる宇都宮が回路の設計やセンサの開発を行いました。
エイブリック 宇都宮文靖氏(以下、宇都宮): 「サーミック」は、体温と気温の差を使って発電します。電池は一切使いません。フル充電すると10か月もちます。1日使うと、必要な電力の10倍たまります。
吉田: すごい。それなら、電池はいりませんね。
宇都宮: ええ。当時は30万円ほどしましたが、今では他社が同じような腕時計を4万円で販売しています。扱う電力は約2マイクロワットで、とても小さなものです。
武内: このように、時計に使うのと同じくらいの微小な電力を使って、無線通信を行うのが「CLEAN-Boost」です。例を二つほどご紹介しましょう。

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技術・科学系ライター。修士(応用化学)。石油メーカー勤務を経て、2017年よりライターとして活動。科学雑誌などにも寄稿している。