人手不足の製造業。人が目視で行っている製品の外観検査を、機械の画像処理で代替したいと考えている企業も増えているだろう。だが、実際にはどんな装置を使えばいいのか、本当に機械でできるのか、費用対効果は大丈夫か……悩みも多い。
そのような製造業の課題を解決するべく、日本で初めてのメーカー横断型・画像処理検証ラボが誕生した。日本サポートシステム株式会社が運営する、「画処ラボ(ガショラボ)」だ。本稿では、2月20日に行われた画処ラボの開所式の様子と、ラボ内の展示の内容についてお届けする。
外観検査の検証ができる新しい画像処理専門ラボ
神奈川県相模原市の「さがみはら産業創造センター SIC-2」内に設立された画処ラボ。運営する日本サポートシステムは、茨城県、神奈川県、タイに拠点を置く関東最大級のロボットシステムインテグレーターだ。スマートファクトリーをワンストップで提供する企業コンソーシアム「Team Cross FA」に参画しており、その中で同社は工場の設計から製造、納品後のサポートまで一貫してサポートする役割を担っている。
参考記事:「Team Cross FA」が進めるスマートファクトリーの構築と実例 —「Smart Factoryセミナー2019」レポート1
顧客に最適なスマートファクトリーをまるごと1個提案できる――。Team Cross FAのコンセプトだ。その中で、メーカー横断で産業用ロボットやIoTソリューションの検証・体験が行える拠点が、栃木県小山市にある「スマラボ」である。それに対し、今回新たに設立された画処ラボは、Team Cross FAにおける画像処理に特化した検証・体験ラボという位置づけになる。
画処ラボでは、工場で外観検査を行うために必要な機器(カメラ、レンズ、照明など)や画像処理プログラムの選定および設置、構想設計までを、メーカー横断で一貫して提案する。日本サポートシステム株式会社 代表取締役で、Team Cross FAの代表である天野眞也氏(トップ写真・左)は、開所式の冒頭で次のように述べた。
「日本は従来モノ売りで世界を席巻してきたが、これからは技術を世界に発信していくコト売りへ変化していくことで、新たな外貨獲得産業をつくれるはずだ。その核になるのが『画像処理』だと考えている。スマートファクトリーにおいてロボットが注目されがちだが、それはあくまで腕のことであり、眼がないと動かない。その眼にあたるのが、AIなどを用いた画像処理の技術だ」。
また、「協賛メーカーの皆さまにお礼を言いたい。複数のメーカーの製品を一つのラボに置けるということは、これも一つの進化だ――技術だけではなく、ビジネスモデルの進化だ。21世紀は自動化の世紀になるだろう。新しく開発した自動車の検証はサーキットコースで行う。画処ラボは、画像処理のサーキットとして、日本の製造業を外貨獲得産業へ推し進める起点にしていきたい」と天野氏は述べた。
画処ラボの所長をつとめるのは、日本サポートシステムの加藤俊介氏(トップ写真・右、上の写真・左)だ。約20年以上にわたりエンジニアとしてFA分野の画像処理に携わってきたスペシャリストである。
加藤氏によると、画像処理の市場は拡大している。しかし、その反面、導入する企業の手間が問題になっているようだ。
まず、メーカー選定を行う。次にそのメーカーの装置で本当に狙った通りの検査が行えるのか、依頼をして検証する。検証結果に問題がなく、いざ導入が決まると、今度は自社ラインに最適な装置設計と構築を誰がどのように行うかを検討する。多品種少量生産の場合は、それぞれの製品に合わせた装置が必要なため、この状況はさらに複雑になる。また、かつて装置の導入に関わった担当者が退職したり、部署を異動したりすると、メンテナンスできる人がいないという事態も発生する。
こうした課題に対応すべく、画処ラボは生まれた。まず、カメラや照明の選定から装置設計までワンストップで提供できるため、顧客は一つの窓口ですむ。また、「遠隔サポートシステム」(特許出願中)も提供し、検査装置を導入した後のメンテナンスにも対応する。
具体的には、画像処理の導入を検討している顧客は、検査したい自社製品をまず画処ラボに持ち込めばいい。たとえば、良品と不良品を両方持っていき、機械の「眼」がそれをきちんと判定できるかどうかを確かめればよいのだ。
その際、画像処理の専門家が、画処ラボ内にあるカメラ(30台、5メーカー)や照明(50台、3メーカー)、画像処理プログラム(12種類のプログラムを利用可能、そのうち5つがディープラーニングを用いたタイプ)の中から、最適な組み合わせを提案。さらに、ラボ内には装置メーカーでもある日本サポートシステムのエンジニアも常駐しているため、実際に簡易的な装置を設計して検査を行うことができる。
簡単な検査であれば、当日に結果がわかるという。一方、ディープラーニング(深層学習)による画像処理を行う場合は、数日を要することもある。画像を判定するために、複数の画像を学習する工程が必要だからだ。
画像処理=AI(ディープラーニング)と考えている人も多いかもしれない。だが、実際には多くの場合が、「ルールベース」とよばれる比較的簡易的な画像処理プログラムで検査可能だ。10000件をこえる日本サポートシステムの検証実績のうちでも、その大半がルールベースだという。ディープラーニングのよさは、機械が自ら画像の特徴を抽出することで、人の「眼」の精度をこえる認識能力で物体を認識できることだが、その反面コストや時間もかかる。画処ラボでは、目的に最適な画像処理のプログラムを選定し、提案する。
画処ラボは、同じ時間に複数の企業が使用することはできない。情報管理を徹底するためだ。簡易的な検証であれば、平日の午前と午後の時間帯がそれぞれ利用できる。ただ、ディープラーニングによる画像処理プログラムを使う場合などは、1日を要する。
画処ラボでは具体的にどのようなことが検証できるのか。次にラボの展示内容について紹介していこう。
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技術・科学系ライター。修士(応用化学)。石油メーカー勤務を経て、2017年よりライターとして活動。科学雑誌などにも寄稿している。