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NECと東京工業大学、偏波MIMO対応ミリ波フェーズドアレイ無線機を開発

昨今の急激な社会情勢などの変化により、人々が物理的に隔離された状況下でも社会・経済活動を円滑に進めていくことが、人々の健康や持続的な社会を維持するために極めて重要となっている。その基礎の一つとなる技術が無線通信であり、特に動画配信やテレワーク、リモート授業などの拡大によって高まる通信需要を満たすものとして、5Gが脚光を浴びている。

現在、日本を含めて先駆的な取り組みを行っているいくつかの国では初期の5Gシステムの運用が開始されつつあるが、社会的変化によりさらなる通信高速化の需要が高い。

5Gでは、事業者ごとに周波数帯が割り振られており、そのうちミリ波帯(※1)の一部である28GHz帯では、400MHz帯域幅を上限として割り当てが行われている。この400MHzの帯域幅を用いて64QAM変調による通信を行うと2.1Gbpsの通信速度を実現できるが、5Gの高度化のためにはさらなる通信速度の向上が必要である。

さらなる高速化のための方法の一つとして、単一のアンテナから二つの独立した偏波(※2)信号を送受信する偏波MIMOがある。従来のマイクロ波帯での通信と異なり、ミリ波帯では送受のアンテナ間に遮蔽物のない見通し通信が行われる。このため、マイクロ波帯で通信速度向上のために用いられるMIMO技術は、ミリ波帯では必ずしも利用することができない。そのため、偏波を用いることで見通し間でもMIMOを可能とする偏波MIMO技術(※3)が注目を浴びている。

偏波MIMOでは、一つのアンテナにおいて水平と垂直の直交する二つの偏波信号を発生させる。しかしながら、単一のアンテナから異なる二つの信号を放射するため両者の分離が難しく、また集積回路チップ内やプリント基板上の配線でも信号が混信する。特に周波数帯域幅が広くなるほど混信を防ぐのが困難となる。

NECと東京工業大学、偏波MIMO対応ミリ波フェーズドアレイ無線機を開発
偏波信号間の漏洩補正および任意角偏波回転を実現
このような理由から、従来の回路方式では信号品質が劣化するため、64QAM(※4)変調での偏波MIMO通信が限界であった。また、別々のアンテナを用いればミリ波帯でもMIMOを利用することができるが、省面積化の観点から、単一のアンテナでの偏波MIMOを実現できる技術の確立が望まれていた。

国立大学法人東京工業大学 工学院 電気電子系の岡田健一教授と日本電気株式会社は共同で、5Gの高度化に向けた偏波MIMOに対応するミリ波帯フェーズドアレイ(※5)無線機を開発した。同じ周波数帯域幅で比較すると、従来に比べ、通信速度を二倍にすることが可能である。

同研究では、従来の回路方式で問題となっていた偏波信号間の混信を無線機回路内で打ち消すことにより、信号品質を改善し通信速度を向上させる新たな回路方式の開発に成功した。具体的には、信号漏洩を検出する回路と、高精度補償を可能とするアクティブキャンセル回路を無線機内に内蔵することにより、偏波補償回路を実現した。

また、5Gでは広帯域信号を扱う故にデジタル信号処理で偏波漏洩を一括して補償することが難しいため、高周波回路部でのアクティブキャンセルを行うことで補償を実現した。さらに、同技術を用いることで、偏波を任意角に回転させることも可能となった。

この新しい回路方式を用いたフェーズドアレイ無線機を、最小配線半ピッチ65ナノメートルのシリコンCMOSプロセスで製作した。この無線機では、16平方ミリメートルの小面積に水平偏波用に4系統分、垂直偏波用に4系統分のトランシーバを搭載した。集積回路チップはWLCSP(Wafer Level Chip Size Package)技術によりパッケージングした。

プリント基板の表面にはアレイアンテナを設け、裏面に集積回路チップを実装した。個々のアンテナ素子にはそれぞれ水平・垂直の2偏波分の信号線が接続されている。プリント基板全体では、合計64個のアンテナ素子と、16個の集積回路チップを実装した。

NECと東京工業大学、偏波MIMO対応ミリ波フェーズドアレイ無線機を開発
偏波信号間の漏洩補正および任意角偏波回転を実現
製作したフェーズドアレイ無線機について、電波暗室内で2台のモジュールを対向させ、今回開発した偏波補償回路を動作させてデータ伝送試験を実施した。その結果、偏波補償回路の動作により、偏波間信号漏洩を-15dBから-41dBに改善できることが判明した。トランシーバ1系統あたりの飽和出力電力(※6)は16.1dBmで、0度方向での等価等方輻射電力(EIRP)(※7)の最大値は52dBmであった。

従来技術では、偏波間の信号漏洩のため28GHz帯に割り当てられている400MHz帯域幅を用いて256QAM(※4)の偏波MIMO通信を行うことができなかったが、今回開発した回路で補償することで、変調精度(EVM)(※8)を7.6%から3.2%へ改善し、256QAMによる偏波MIMOでの通信に成功した。今回開発した回路は、5G向けの各種無線通信機器に搭載可能かつ高い周波数利用効率と装置の小型化を両立することから、ミリ波帯の5Gの普及や高度化の加速が期待される。

同研究成果により、ミリ波帯フェーズドアレイ無線機の小型化とさらなる高速化が可能となった。開発した無線機は、5G用基地局向けの仕様にあわせて製作されており、早期の実用化が可能であると考えられる。

※1 ミリ波:波長が1~10mm、周波数が30~300GHzの電波。
※2 偏波:光が空間を伝わるときに波が振動する方向のことを偏光といい、カメラの偏光フィルタなどを用いることで特定の振動方向の光を取り出すことができる。同様に電波が空間を伝わるときに波が振動する方向のことを偏波といい、振動方向が一定で、電界が地面に対して垂直な偏波を垂直偏波、電界が水平な偏波を水平偏波と呼ぶ。
※3 偏波MIMO:multiple input multiple outputの略。複数の送受信アンテナを使用することで、複数の無線通信経路を確立し、利用する技術であり、帯域あたりの伝送速度の向上が可能である。適切なアンテナを用いることで、特定の偏波の電波を取り出すことが可能であり、水平偏波と垂直偏波の二つの偏波を用いて複数の通信経路を作り出すMIMO技術を、特に偏波MIMOという。
※4 256QAM、64QAM:デジタルデータと電波や電気信号の間で相互に変換を行うためのデジタル変調方式の一つ。AMラジオ等で用いられるAM(Amplitude Modulation)変調は搬送波の振幅を利用した変調方式であるが、QAM(Quadrature Amplitude Modulatio)は搬送波の位相と振幅の両方を利用した変調方式である。データを示す位相と振幅の組み合わせの数が256であるものを256QAMと呼び、64であるものを64QAMと呼ぶ。例えば256QAMでは、位相が直交する二つの波を合成して搬送波とし、それぞれに16段階の振幅を与えることで、合計での256値(16×16)のシンボルを利用して一度に8ビットの情報を伝送することができる。
※5 フェーズドアレイ:複数のアンテナへ位相差をつけた信号を給電する技術。放射方向を電気的に制御するビームフォーミング(電波を細く絞って、特定の方向に向けて集中的に発射する技術)の実現に利用される。
※6 飽和出力電力:増幅器が出力できる最大電力。
※7 等価等方輻射電力(EIRP):Equivalent Isotropic Radiated Powerの略。指向性のあるアンテナを用いると、放射方向によっては無指向(等方性)のアンテナを用いるよりも強い電力密度を発生させることができる。この場合に、指向性のあるアンテナで生じる電力密度を、等方性アンテナにより得るために必要となる送信電力を等価等方輻射電力という。
※8 変調精度(EVM):Error Vector Magnitudeの略。無線通信に用いられるデジタル変調の品質を示す尺度の一つ。理想的な信号と、測定された雑音や歪などの劣化を含む信号との間の、差分のベクトルの大きさから計算される。値が小さいほど品質の高い理想的な信号に近いことを示す。

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