地震や火山活動に伴う地殻変動や、対流圏における水蒸気量などを高い時間・空間分解能(※1)で把握することは、現象の理解のみならず、それらの現象に関連する自然災害の発生予測を実現する上で非常に重要である。日本の研究機関では、国土地理院が運用する全国約1,300カ所のGNSS(※2)観測網(電子基準点)のデータを活用し、地殻変動場(※3)が調査されている。
ソフトバンク株式会社は、GNSSの信号を利用したRTK測位(※4)を活用したサービス「ichimill」を2019年11月から提供しており、GNSSの信号を受信する固定局として全国3,300カ所以上に独自基準点を設置して、運用を行っている。
東北大学大学院理学研究科は、2021年6月からソフトバンクの独自基準点におけるGNSS観測データの提供を受け、地殻変動場の把握のための精度検証を実施してきた。
その結果、ソフトバンクの独自基準点から得られるデータは、これまでより高い精度で地殻変動を把握することが可能であり、国土地理院の電子基準点を補完する重要なインフラとして、防災・減災に貢献し得ることが分かった。また、ソフトバンクの独自基準点は、地震や火山活動に伴う地殻変動だけでなく、対流圏における水蒸気量や電離圏の動態把握にも重要な役割を果たすことが期待されている。
東北大学大学院理学研究科は、ソフトバンクとその子会社であるALES株式会社協力の下、2社および国内の12研究機関18部局が参画する「ソフトバンク独自基準点データの宇宙地球科学用途利活用コンソーシアム」を2022年8月に設立した。
同コンソーシアムでは、ソフトバンクの独自基準点のデータを用いて、これまでにない高い時間・空間分解能で地殻変動や水蒸気量、電離圏などの動態を明らかにすることで、地球科学の分野における同社の独自基準点の活用方法を検証する。また、さまざまな分野の地球科学の研究者が連携することで、新しい地球科学の創成を目指す。具体的に想定している研究内容は以下の通り。
- 自身
- 火山
- 気象
- 電離圏
- SAR(※5)データの補正
地震に伴う地殻変動の正確な把握とそれに基づくメカニズムの解明、地震の長期予測
噴火現象に伴う地殻変動の正確な把握とそれに基づくマグマ源などの解明、噴煙現象の高精度な把握
対流圏遅延量の推定に基づく積乱雲や線状降水帯による豪雨の発生メカニズムの推定、積雪状況の把握
電離圏の乱れと自然現象(地震、噴火、津波など)の関連性の把握
地殻変動の高精度把握のためのSARデータ解析における、対流圏起源ノイズなどの効率的な除去手法の確立
同コンソーシアムの活動を通して、地球科学に関する分野で研究が進展することで、さまざまな現象の理解が進むとともに、自然災害の高精度な予測など、防災・減災に貢献することが期待できる。また、ソフトバンクとALESは、GNSS観測データや測位技術の提供を行う他、同コンソーシアムでの研究成果に基づいて、独自基準点から得られるデータの民間での活用などの事業化の検討や、産学官連携による防災・減災での利用の提言などを行う予定としている。
※1 空間分解能:現象を観測できる時間・空間方向の能力のこと。
※2 GNSS(Global Navigation Satellite System):米国のGPSなど、上空を周回する人工衛星から送信される電波を利用して、受信点の位置を正確に把握する衛星測位システムの総称。日本政府は国産のQZSS(準天頂衛星)「みちびき」の利用を促進している。地面に固定された受信点であれば、時間間隔をおいて計測することで、その間に生じた地殻変動を3次元的に把握することができる。
※3 地殻変動場:ある地点や領域の地殻(地面)がどの方向にどの程度動いているかを示したもの。GNSSを用いることで、日ごとやそれよりも短い時間間隔で変動を調べることができる。
※4 RTK測位(Real Time Kinematic):固定局と移動局の二つの受信機を利用し、リアルタイムに2点間で情報をやりとりすることで、高精度な測位を可能にする手法のこと。
※5 SAR(Synthetic Aperture Radar:合成開口レーダー):人工衛星などの飛翔体に搭載し、それらが移動することで仮想的に大きな開口面を持つアンテナを構成するレーダーのこと。SARで複数回測定して電波伝搬時間の差を見ることで、地殻変動場を高い空間分解能で推定できるが、大気中の水蒸気が空間的に不均質なために、それらを高い精度で補正する技術が必要とされている。
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