近年、レーザの照射により、離れた物体までの距離情報を3D画像として得る技術である「LiDAR」は、自動運転としての用途に加え、カメラと併用して「空間のデジタルツイン」を構築し、モビリティの自動化に加え、製造や物流ラインの全体最適化など、あらゆる産業の効率化につなげる取り組みが進められている。
しかし、カメラとLiDARの取得データの活用において、両データの空間的・時間的なずれによる認識精度の劣化が課題となっている。
こうした中、株式会社東芝は、自動運転や社会インフラ監視などに活用される距離計測技術「LiDAR」において、車両や人といった物体を99.9%で追跡する技術を開発した。
東芝は、この技術を開発するにあたり、LiDARのみで得られる2次元データと3次元データを融合する「2D・3DフュージョンAI」を開発した。
「2D・3DフュージョンAI」は、カメラを用いずLiDARの取得データのみで、物体の高精度な認識・追跡を実現する。
通常、物体の認識・追跡を実現するには、カメラとLiDARによるデータを用いて学習したAIモデルが使用されているが、AIモデルを適用するために、カメラとLiDARの画角とフレームレートを合わせ込み、空間的にも時間的にも精密に同期させる必要がある。
カメラとLiDARは、物理的に設置場所にずれが生じるため、ずれを補正するのが一般的だ。しかし、補正誤差が生じたり、そもそも、振動など何等かの要因で画角やフレームレートが相対的にずれたりすることがあり、認識精度が大きく劣化してしまうことが課題となっている。
そこで、LiDARのみで2次元データ(輝度)と3次元データを取得できることに着目し、LiDARで得た2次元データと3次元データを融合(フュージョン)してAIを適用・学習することで物体を認識・追跡できる「2D・3DフュージョンAI」を開発。2次元データと3次元データは、LiDARの同一の画素から同一のタイミングで読み込まれたデータのため、合わせ込みが不要で、認識精度が劣化する懸念がない。
このAI技術により、カメラを用いず、照明のない夜間でも車両や人といった物体を98.9%で認識し、LiDARから50m~115mの距離を走る任意の車と、80m~110mの距離を歩く任意の歩行者に対して実証した結果、99.9%で追跡することに成功した(トップ画参照)。
これにより、「空間のデジタルツイン」の構築において、従来必要だった大量のカメラ設置が不要になることも見込まれる。
さらに、「雨・霧除去アルゴリズム」を開発し、猛烈な雨・濃霧環境下での検知距離を2倍以上改善し、80mm/hの猛烈な雨環境で、40mの距離計測ができることが確認された。
「雨・霧除去アルゴリズム」は、LiDARの計測精度を劣化させる雨や霧による影響を緩和するものだ。LiDARは赤外レーザを用いるが、赤外光は水分に当たると吸収・散乱される性質があり、雨・霧・雪といった視界不良な屋外環境では計測精度が低下し、検知可能距離が短くなってしまう課題があった。
LiDARメーカ各社は、雨粒を含む物体からの複数の反射光の中から、計測対象物からの反射光のみを選択するマルチエコー機能を搭載しているが、雨や霧に埋もれてしまった計測対象物からの脆弱な反射光を抽出できず、計測精度の向上に向け、さらなる研究開発が求められていた。
そこで、アナログデータをデジタルデータに変換するADコンバータによって、反射光強度のデジタル値を基に、水などの散乱粒子による反射光の特徴量から雨・霧なのか、計測対象なのかを判別。雨・霧と判断したら、その波形ごと取り除くことで、雨・霧に埋もれてしまった脆弱な反射光を含めて、計測対象物からの反射光を抽出するアルゴリズムを開発した。
このアルゴリズムを適用したLiDARを用いて、実環境を模擬した実験設備で検知可能距離を計測したところ、80mm/hの猛烈な雨環境においては、20mから40m、視程40mの霧環境においては17mから35mと、従来の2倍以上に向上することが確認された。
また、「計測範囲可変技術」により、従来技術に比べ計測距離を350mまで伸長しつつ、約6倍の画角で120mの計測距離を実現した。
「計測範囲可変技術」は、設置場所に応じて、LiDARの距離と画角によって決まる計測範囲を変更することを可能にする。
東芝は昨年、71立方センチメートルまで小型化した投光器を2台用いることで、目に障害を与えないレーザー光強度「アイセーフ」の基準を満たしつつ、計測距離を1.5倍にし、広角性能の向上を実現するLiDAR技術を発表したが、今回、この投光器の台数と受光レンズの構成を変更することで、計測距離のさらなる伸長および、6倍の広画角化に成功した。
また、画角60度(水平H)×34度(垂直V)における120mの計測距離と、画角24度(水平H)×12度(垂直V)における350mを達成した。
この技術により、長距離計測が求められる道路や線路などのインフラ監視に加えて、広角性能が求められる工場や倉庫内のAGV自動運転など、空間のデジタルツインでの適用を拡大することができる。
今後は、耐環境性能のさらなる研究開発を進め、ソリッドステート式LiDARの2025年度の実用化を目指すとしている。
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