従来の量子・古典ハイブリッドアルゴリズムを活用した量子回路計算においては、解きたい問題の規模に応じて量子回路計算の回数が増大してしまい、特に材料や創薬分野のシミュレーションのように多くの量子ビットを必要とする大規模な問題では、数百日の時間を要しており課題となっていた。
こうした中、富士通株式会社は、代表的なNISQ向けのアルゴリズムであるVQEを応用することで、量子アプリケーション開発のための量子シミュレータを開発し、量子回路計算そのものの高速化に取り組んできた。
しかしVQEは、問題の規模の増大に伴い量子回路計算の繰り返し回数が増加するため、計算の実行には非常に時間がかかり、特に多くの量子ビットを要求する大規模な問題では、量子シミュレータの場合、数百日程度要すると試算される。そのため、実用に向けた量子アルゴリズムの開発が難しかった。
そこで富士通は、量子シミュレータ上で、量子コンピュータの初期の使用方法として提案されている量子・古典ハイブリッドアルゴリズムを、従来のシミュレーション所要時間と比較して200倍高速に実行できる技術を開発した。
今回開発された技術では、パラメータを微小変更した量子回路それぞれが、互いに影響を及ぼすことなく実行できることに着目。量子シミュレータの計算ノードを複数のグループに分割し、RPCの技術を活用しネットワークを通して量子回路計算のジョブを投入することで、各グループが異なる量子回路を実行できる分散処理技術を開発した。
この技術を用い、パラメータの異なる複数の量子回路を同時に分散実行して最適化することを実現し、計算時間を1/70に短縮することが可能となった。
また、量子・古典ハイブリッドアルゴリズムにおける計算量は、解きたい問題における式の項数に比例し、その項数は一般的なVQEでは量子ビット数の4乗となるため、問題規模が大きくなると計算量が増大し、現実的な時間で結果を得ることが出来なくなる。
そこで富士通は、40量子ビットの量子シミュレータの内32量子ビットを活用した規模の大きい分子のシミュレーションを通して、規模が大きくなるほど項の総数に対する係数の小さい項の割合が多くなること、かつ係数の小さい項が計算の最終結果に与える影響も微小であることを発見した。
この特性を利用し、式の項数の削減と計算精度の劣化防止を両立させることを実現した。その結果、量子回路計算時間を約80%削減することができたのだという。
これら2つの技術を組み合わせることで、従来方式では200日かかると想定されていた量子シミュレータでの計算を、1日で実行することができるようになった。
これにより、大規模量子計算のシミュレーションを現実的な時間で完了できるようになり、量子・古典ハイブリッドアルゴリズムでより大きな分子を計算した場合の挙動をシミュレーションし、アルゴリズム開発につなげることが可能になった。
今後は、この技術をハイブリット量子コンピューティングプラットフォーム「Fujitsu Hybrid Quantum Computing Platform」に搭載し、金融や創薬等の分野での量子コンピュータの実用化検討を加速するとしている。
また、この技術を応用し、量子シミュレータだけでなく、量子コンピュータでの量子回路計算も加速できることを検証する予定だ。
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