2021年3月に共用を開始したスーパーコンピュータ「富岳」は、新型コロナウイルス感染症が与える社会活動への影響の分析や大規模震災発生時の社会影響の予測など、様々な社会課題の解決に貢献する研究開発を支えている。この「富岳」の貢献は、多様なソフトウエアを「富岳」向けに使いやすく整備し続けていることが挙げられている。
そこで理化学研究所(以下、理研)計算科学研究センターは、これまで取り組んできた「バーチャル富岳」プロジェクトの成果の一環として、富岳以外の環境で利用可能なソフトウエア群である「バーチャル富岳」の初版の提供を開始した。
「バーチャル富岳」は、クラウドサービスや「富岳」以外のコンピュータ上で、「富岳」向けに整備されたソフトウエア群が利用可能となるものだ。
これにより、スーパーコンピュータ向けのエコシステムが構築され、「富岳」で開発されたアプリケーションが「バーチャル富岳」上で簡便に使い続けることができる。利用者は、「富岳」や次世代フラッグシップシステム、国内外のスーパーコンピュータで、「バーチャル富岳」で開発したアプリケーションを持続的に利用できるようになる。
「バーチャル富岳」の初版提供は、アマゾン ウェブ サービス(以下、AWS)のクラウドサービスを対象に、「富岳」で整備されたソフトウエア群を提供する形で行われた。また、「富岳」利用者がAWSのクラウドサービス上で、これらソフトウエア群の試験・試行を行うことができる環境の提供も開始された。
具体的には、「富岳」の中央演算処理装置(CPU)である「A64FX」と互換性があり、AWSが提供するCPUである「Graviton」を対象として、「富岳」向けに整備されたソフトウエア群のうち利用頻度の高いものを抽出し、それらのバイナリを一体化して配布する。
新規のスーパーコンピュータやクラウドサービス上に「バーチャル富岳」を導入することで、プライベートな「富岳」を構築することができるようになった。また、今回のAWSのように商業サービスとして提供されるプライベートな「富岳」においては、成果公開の義務はなく、高い秘匿性が担保された環境が利用可能とのことだ。
例えば、「富岳」では研究開発段階のアプリケーション(シミュレーション)の研究・開発を行い、その後、それらの成果等を用いて実際の商品開発を秘匿性の高いAWS環境で行うといった使い分けを、アプリケーションの大規模な改修を行うことなくできるようになる。
また逆に、AWS上の小規模な環境で基本となるプログラムの開発や基本的な動作検証を行い、その上で「富岳」で超大規模な計算を行うことも可能だ。
さらに理研では、「バーチャル富岳」の試験環境として「AWS Graviton3E」を採用した「Amazon EC2 Hpc7gインスタンス」を中核としたクラウドリソースの提供も開始した。これにより、「バーチャル富岳」を試す利用者やソフトウエアの提供を検討している開発者が開発環境として使うことが可能となった。
理研は、「バーチャル富岳」を適用することで、将来運用されるさらに発展したシステムで用いられるソフトウエア群により、「バーチャル富岳」の最新化・最先端化を継続して図っていくことができるのだという。また、「富岳」の後継を目指す次世代フラッグシップシステムに向けても、「富岳」との連続性を担保することが可能となるのだとしている。
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