日本電信電話株式会社(以下、NTT)は、光ファイバ伝送路の状態を測定器なしでエンドツーエンドに可視化する技術を開発し、商用環境を模擬した北米フィールド網での実証に成功したと発表した。
今回の研究での成果の一つは、光ネットワークの端点に設置されている光トランシーバに到達する光信号のみから、光ファイバ伝送路のエンドツーエンドの光信号パワーを、専用測定器を用いずにわずか数分で可視化する「Digital Longitudinal Monitoring」(以下、DLM)技術を開発したことだ。
DLM技術は、光トランシーバに到達する受信信号波形に高度なデジタル信号処理を施すことで、光ファイバ伝送路の長手方向に分布する光パワーを可視化している。
一般に、システムの入出力波形から、システム内部の分布パラメータを求める逆問題は非適切問題と呼ばれ、通常解くことは極めて困難とされているが、NTTは、光信号が光ファイバ中を伝搬する様子が非線形シュレディンガー方程式に従うことに着目し、光パワーを可視化する問題を逆問題として数学的に定式化することで、解の導出に成功した。
これにより、高速高精度に光パワーを可視化することが可能となった。
なお、この技術は、国際会議「OFC2024」のポストデッドライン論文として発表されたほか、同会議の展示会におけるデモ環境「OFCnet」を用いて動態展示されたとのことだ。
また、光信号パワーの可視化を距離方向だけでなく、時間、周波数、偏波方向にまで拡張した4次元光パワー可視化技術も開発し、これを同フィールド環境下で実証した。この次元拡張技術により、光ファイバ伝送路中の複数の異常を位置特定することが可能になった。
さらに、デューク大学、NEC Laboratories America, Inc.との共同実験のもと、商用環境を模擬した北米フィールド網での実証に成功した。
具体的には、NTTが、米国ノースカロライナ州ダーラムに実際に敷設されている光ファイバと商用光トランシーバを利用し、DLM技術のフィールド環境での実証実験を行った。
加えて今回の実証実験は、フィールド敷設光ファイバを用いたほか、800Gbpsの商用光トランシーバで高密度WDM伝送を行う、商用光ネットワークを模擬した条件で成功しており、NTTは同技術のフィージビリティを示すものだとしている。
これらの成果は、光ネットワークの構築に必要な光ファイバ伝送路状態の測定が、DLM技術を用いることで光トランシーバのみで実施可能になることを示しており、専用測定器を用いずに拠点間のすべての光ファイバや光増幅器を一括測定可能になるため、光接続の設計や異常の特定にかかる時間を短縮することができる。
NTTは、「同技術により、IOWN APNをはじめとした光ネットワークにおいて、専用測定器を用いることなく、数分で簡易に光ファイバ伝送路の状態を把握することが可能になり、迅速な光接続の確立/保守の実現が期待される。」としている。
今後NTTは、IOWN APNのさらなる発展に向けて、独自の光ネットワーク可視化技術を深化させ、デジタルツインによる光ネットワークの自動運用の実現に向けた研究開発を進めていく計画だ。
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