量子ゲート式の量子コンピュータは、創薬や暗号、金融などの分野で、現行コンピュータよりも高速に問題を解けると期待されている。しかし、計算中にエラーが発生しやすいという課題があり、正確な計算を行うためには、大量の量子ビットを使ってエラーを防止する必要がある。
そのため、実用的な計算を現実的な時間内で行うためには、典型的には100万量子ビットが必要と言われており、その実現には相当な年月がかかるとされていた。
こうした中、大阪大学 量子情報・量子生命研究センター(以下、大阪大学)と富士通株式会社は、共同で開発を進めている高効率位相回転ゲート式量子計算アーキテクチャ(※)「STARアーキテクチャ」について、量子ビットの任意の位相角を回転させる位相回転操作時の位相角の精度を向上させる技術、および量子ビットの効率的な操作手順を自動生成する技術を開発した。
※高効率位相回転ゲート式量子計算アーキテクチャ:量子コンピュータの実現に不可欠な任意の角度の位相回転に必要な量子ビット数を大幅に低減することで、現行コンピュータの計算性能を超える量子コンピュータの実用化を早めると期待される量子計算アーキテクチャ
この技術は、「STARアーキテクチャ」での位相回転操作における位相角の精度が落ちないように、エラー耐性を強化した位相角の準備方法を再構築し、エラーを1,000分の1に抑制するものだ。
これにより、材料物性計算において、1,000倍の計算規模拡大に成功し、これまでこのアーキテクチャでは不可能だった複雑な計算、例えば、将来的には電力インフラの送電ロス削減などにもつながる可能性のある、高温超伝導体(※)開発のための理論モデルであるハバードモデルのエネルギー推定計算が可能になったのだという。
※高温超伝導体:液体窒素の沸点以上の温度で電気抵抗がゼロになる現象を示す物質
また、「STARアーキテクチャ」に基づいた、量子ビットの具体的な操作手順を自動生成するシステムである量子回路ジェネレータを構築した。
このシステムでは、量子計算の基本的な操作である論理ゲートから、実際に量子ビットを操作する物理ゲートまでを一気通貫に変換し、さらに量子ビットの操作手順を動的に変更することにより、計算時間を極限まで短くする高速化技術が搭載されている。
これらの新技術により、量子コンピュータの計算規模を拡大させ、誤り耐性量子計算(FTQC:量子エラーを訂正しながら誤りなく量子計算を実行すること)で現行コンピュータの計算速度を超えるのに典型的に必要と言われていた規模よりも1桁少ない6万量子ビットを用いて、現行コンピュータで約5年かかる物質のエネルギー推定計算を、約10時間で実行可能になることを示した。
そして、この6万量子ビットは、早ければ2030年頃に実現すると期待されている規模だ。
両者は、これらの成果について、「2030年頃に到来すると予期される、数万程度の量子ビットしか実装できておらず、誤り耐性量子計算が十分に実現できないと考えられている時代において、量子コンピュータが現行コンピュータよりも速く問題を解決できるという量子優位性の実現方法を示すものだ」としている。
将来的には、電力インフラの送電ロス削減などにもつながる可能性のある、高温超伝導体開発のためのハバードモデルのより大規模な解析が可能になるなど、材料開発や創薬などの様々な分野での活用を目指すとのことだ。
無料メルマガ会員に登録しませんか?
IoTに関する様々な情報を取材し、皆様にお届けいたします。