IoTデバイスを開発する時には、そのデバイスの「詳細かつ正しい電流」を測るための測定器が必要だ。しかし、このことをあまりよく理解しないまま、デバイスを開発している企業も多いという。
特に、橋梁点検用のセンサーや、農業IoTで活用されるような土壌センサーなどの十数年という単位で利用することが前提のデバイスや、医療に関連する非常にセンシティブなデバイスなどは小さな信号も見逃すわけにはいかず、それなりのテストをクリアしたうえで市場に出すべきである。具体的には、電池を長く持たせるために待機時の非常に小さな電流を測ったり、バッテリーの老化に合わせて測定したりするテストが必要だ。
今回取材したキーサイト・テクノロジーは特に高周波を測定する技術が得意で、上記に並べたようなIoTデバイスの設計時に必要な電子計測の製品ラインナップを広げてきた。
キーサイト・テクノロジーについて知らない人のために補足すると、パソコンメーカーやサーバメーカーとして馴染みが深いヒューレット・パッカード(以下、HP)社がその前身だ。もともと計測器メーカーとして誕生したHPだが、その後計測器部門・電子部品事業部門等がアジレント・テクノロジーとなり、さらに2014年にキーサイト・テクノロジーとして分社した。
現在、デジタル機器の高速化が加速しており、キーサイト・テクノロジーの高周波を測定する技術が様々な意味で生かされる局面となってきているという。
今回、キーサイト・テクノロジー合同会社 アジアパシフィック統括 マーケティング部門 ビジネスデベロップメントマネージャー 佐藤孝宏氏と高野修平氏に、小さな待機電力も超高速電流も正確に測る技術について話を伺った。
![小さな待機電力も、超高速電流も正確に測る技術 -キーサイト・テクノロジー インタビュー①[PR]](https://iotnews.jp/wp-content/uploads/2017/02/20170126-132A9781.jpg)
![小さな待機電力も、超高速電流も正確に測る技術 -キーサイト・テクノロジー インタビュー①[PR]](https://iotnews.jp/wp-content/uploads/2017/02/20170126-132A9699.jpg)
Fitbitからクルマまで -小さな待機電力も、超高速電流も測ることができるキーサイトの測定技術ー
-キーサイトの計測技術はどういった分野で利用されているのでしょうか。
高野: 例えば身近なところだと、スマートフォンです。スマートフォンの中には様々な部品が詰まっていて、その部品を測るところ、実際に動いているいたるところの回路を測るのに使われています。
測るといっても、単に電圧電流を測るだけではなく、USBやワイヤレスなどの様々な信号も測ります。Wi-Fiの信号なども全て電気の解析なので、そういう分野でも使われています。
-計測するうえで難しいのはどういうところでしょうか。
高野: 例えばFitbitのようなデバイスは、非常に小さな電流ですが、ずっと無線の信号を飛ばしているわけではなく、ほとんど眠っています。眠っている時はナノアンペア程度のかなり小さな電流が流れています。
一方で、そのような小さな電流は、周りの環境によっても電流値が左右されるので、「正確に測る」ということが非常に難しいのです。さらに、Fitbitなどでは、それほど速い信号は使っていませんが、例えばPCの場合、数Gbps(ギガビーピーエス)単位の非常に高速な信号が流れています。
1Gbpsは、1秒あたりに1ギガビット流れるわけですが、その速い動きを追いかけて正しく測るというのは非常に難しいのです。
Fitbitの微小電流を正確に測定、アイドル状態の超微小電流を測ることができるDC電源アナライザ N6705B
高野:これは、実際にFitbitの微小電流を「DC電源アナライザ N6705B(以下、DC電源アナライザ)」で計測してみたデモンストレーションです。
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DC電源アナライザをデバイスにつないで測れば、電流波形・電圧波形を簡単に見ることができます。
このデモでは「DC電源アナライザ」を利用し、Fitbitに3.8Vの電圧を供給しています。この「DC電源アナライザ」は、電圧を供給するだけではなく、どれぐらい電流が流れているかもモニターすることもできます。通常の電源は電圧や電流の設定しかありませんが、キーサイトのDC電源アナライザは少し特殊で、オシロスコープのような、実際の電圧や電流の波形を表示できます。
▼デモンストレーション動画はこちら
小さな信号波形は、Fitbitがアイドル状態であることを示しています(下写真)。
そしてFitbitをアクティブにするボタン押すと、一気に波形が変わります(下写真)。Fitbitに時間を表示するためのICプログラムが動作し、より大きな電流を消費しているのがわかります。
Fitbitで心拍数を見ると、しばらくはFitbit上に心拍が表示されるのと同じように、「DC電源アナライザ」でもしばらくは電流が動いている様子が見えます。
多くの企業では「DC電源アナライザ」のような精密な測定器は使っておらず、スリープ状態の時は「マルチメータ」でおおよそ0V、0Aだという事を数値で確認しています。「DC電源アナライザ」のように波形で確認していないことが多いのです。
さらに実際に動いている波形は、「オシロスコープ」で見ることが多いのですが、その測り方だと、少し問題があります。オシロスコープで同じような波形を見ようとすると、縦軸の分解能が基本的に8ビット(2の8乗、つまり256段階)しかなく、0Aに近いところでは波形が安定しません。
ピーク電流が300mAだった場合、一番下をどれぐらいまで分解能が見られるかというと、256段階しかないので最小分解能は2mAになります。マイクロアンペアの電流を見たいときに、2mAの分解能で見ようとしても、当然見ることはできません。
一方、「DC電源アナライザ」では、縦軸の分解能が30ビットあるため、2の8乗が、2の30乗になり、非常に細かく見ることができます。つまり、ナノアンペアのレベルまで綺麗に見ることができるのです。
さらに特徴的なのは、「DC電源アナライザ」は電池の代わりにも使えます。一般的な電源は一定の電圧・電流を供給し続けますが、電池はだんだん劣化し、内部抵抗が変化します。また、バッテリーエミュレーションモードを搭載しており、内部抵抗を変化させ、わざと劣化させた状態を確認することもできます。
-興味深いですね。ところで、こういった測定器は産業界ではどういう使われ方をされていますか。
高野: 産業界では、モーターなどを動かす際、交流の電流を流すインバーターを使うのですが、そのインバーターを正しく動作させるための電流電圧の出力を測ることがあります。
車の業界でも、モーターやインバーターなどハイブリットで使われるというところにも使われています。
昔はアクセルを踏んで、それがワイヤーに伝って、エンジンのところからのガソリンの量を調節するという機構だったのですが、最近ではこれも電気になっています。ですので、その部分にきちんと電気が通っているか確認することが必要です。
-「アクセルを踏んでいる」「ブレーキを踏んでいる」という情報をちゃんと認識してくれないと怖いですね。
高野: 最近の車は、衝突防止のレーダーが様々な車に付いています。カメラだけで認識しているものもあるのですが、カメラだけだと怖いのでレーダーも使います。レーダーにはミリ波が使われますが、例えばミリ波の信号を正しく送受できているか?というテストを実施します。
-高性能なだけに開発で使うケースの方が圧倒的に多いということですね。御社の測定器を使っているのはどういった企業でしょうか。
高野: 世の中で電気を使っていそうなお客さまに、ほとんど使っていただいています。
-なるほど。今後は、IoTデバイスを作っている企業にも広がっていきそうですね。
▼キーサイト社内に自社製品を持ち込み、様々な測定器でテストをすることが可能
Center of Excellence(CoE)ルームを活用し、最新の測定ソリューションを試したり、各種コンプライアンス試験の事前確認を行うことができます。詳しくはこちら。
ダウンロード可能:アプリケーションノート集 -IoTデバイスに向けられる期待と技術チャレンジ
バッテリー寿命の予測を確実にすること、ノイズによる誤動作を防止することは、エンジニアにとっては大きなチャレンジです。IoTデバイスの電流変動パターンを把握して、ユーザーが期待するバッテリーの長寿命を実現する – そんな消費電力の解析手法についてキーサイトのIoTテストソリューションをご紹介します。詳しくはこちら。
関連展示会:二次電池展/バッテリージャパン
記事の中で紹介した「Fitbitの測定デモンストレーション」を二次電池展で行います。是非キーサイトのブースへお越しください。
・会期:2017年3月1日(水)、2日(木)、3日(金)
・会場:東京ビックサイト
・詳しくはこちら
(次回に続く)
【関連リンク】
・キーサイト・テクノロジ―
・N6705B DC電源アナライザ
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