DXを実行していくに当たっては、データを収集・蓄積・処理するITシステムが、環境変化、経営・事業の変化に対し、柔軟に、かつスピーディーに対応できることが必要である。 そしてこれに対応して、ビジネスを変えていくことが肝要である。
しかし、一般社団法人日本情報システム・ユーザー協会(JUAS)による 2017年度の調査によると、我が国の企業においては、ITシステムが、いわゆる「レガシーシステム」となり、DXの足かせになっている状態が多数みられるとの結果が出ている(レガシーシステムとは、技術面の老朽化、システムの肥大化・複雑化、ブラックボックス化等の問題があり、 その結果として経営・事業戦略上の足かせ、高コスト構造の原因となっているシステム、と定義している)。
JUASのアンケート調査によると、約8割の企業が「レガシーシステム」を抱えており、約7割が「レガシーシステム」が自社のデジタル化の足かせになっていると回答している。
その理由としては、「ドキュメントが整備されていないため調査に時間を要する」、「レガシーシステムとのデータ連携が困難」、「影響が多岐にわたるため試験に時間を要する」といったものが挙げられており、レガシーシステムを解決していくための課題そのものが提起されている。
すなわち、DXを進める上で、データを最大限活用すべく新たなデジタル技術を適用していくためには、既存のシステムをそれに適合するように見直していくことが不可欠である。
既存システムのブラックボックス化
レガシーシステム問題の本質は「自社システムの中身がブラックボックスになってしまったこと」にある。レガシー化とは「ユーザ企業において、自社システムの中身が不可視になり、自分の手で修正できない状況に陥ったこと」と言うことができる。
レガシー化は技術の側面のみならず、「マネジメント」の側面が大きな問題と考えるべきである。古い技術を使っているシステムだから必ずレガシー問題が発生するわけではない。 適切なメンテナンスを行うITシステムマネジメントを行っている場合は、ブラックボックス化はしにくい。
ただし、システム全体が一体化した古いアーキテクチャや開発技術はメンテナンスによって肥大化、複雑化する傾向にあり、時間の経過と共にレガシー問題を発生しやすいのは事実である(開発から時間が経っているためレガシー化の確率が上がる)。
メンテナンスを繰り返し、プログラムが複雑化した場合でも必ずレガシー問題が発生するわけでもない。しかしながら、開発から時間が経っている場合、レガシー問題の発生確率は上がる。逆に、最新のクラウド技術を適用していても、時間の経過と共にレガシー問題が発生し得る。
レガシーシステム問題はマネジメントの問題でもあるので、ブラックボックス化する原因を追究しておかなければ、たとえ一時期の投資でシステムをモダナイズしても、時間と共に再度レガシー問題が出現する可能性は高くなる。単純なリホストや、プログラムのコンバージョンだけでは、一時的にはコストは下がっても、本質的には「ブラックボックス化」 は解消されていないため、レガシー化は深刻になってしまう。
DXの必要性に対する認識は高まり、そのための組織を立ち上げる等の動きはあるものの、ビジネスをどのように変革していくか、そのためにどのようなデータをどのように活用するか、どのようなデジタル技術をどう活用すべきかについて、具体的な方向性を模索している企業が多いのが現状と思われる。
(出典:経済産業省 DXレポート ~ITシステム「2025年の崖」克服とDXの本格的な展開~)
INSIGHT
先行する欧米企業や急速に力をつけてきている中国や新興アジア諸国との競争において、日本企業の足かせとなってるのがデジタルトランスフォーメーション(DX)への取り組みだ。経済産業省のDXレポート「2025年の崖」で訴えているのは、DX対応の遅れがそのまま日本企業の競争力を削ぐ致命傷となりかねない危機的状況だ。
解決策は、レガシー化した基幹システムに対し、以下の3つの選択肢から一つを決断することだ。
- 第一案は、現行基幹システム(ERP)を早急に刷新してからDX対応を行うすることだが、最大の課題は不足する技術者の確保にある。
- 第二案は、現行基幹システムを塩漬けにしてDX対応を先行させた後に基幹システムの刷新を行うやり方だ。レガシー化した基幹システムと切り離してDX対応することで、競争力強化を最優先する発想だ。
- 第三案は、レガシー化した基幹システムを二階層ERP(※)へ再構成して、二層目の事業部門向け基幹システムとしてクラウドERPを採用し、これを足場としてDX対応を行う。一層目の親会社(グループ決算、グループ経営管理)を絞り込んで必要最小限の移行を行う。二層目のクラウドERPは、必要最小限の機能となるためこれまでのような使い易い基幹システムではなくなる。
※二階層ERP:本社のERPシステムとは別に、事業や拠点単位で別のERPシステムを構築し、連携を行うことで、ビジネスニーズに柔軟に対応する。
(IoTNEWS製造領域エバンジェリスト 鍋野)
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