コアコンセプト・テクノロジーは、2021年9月22日にマザーズ上場をし、その記念企画として、INDUSTRIAL-X 代表取締役 八子知礼氏と、コアコンセプト・テクノロジー 代表取締役社長CEO 金子武史氏による、特別対談を行った。
本稿では、IT人材不足の現状や課題、そしてその解決策として、コアコンセプト・テクノロジーが提供するエンジニアと企業をマッチングする「Ohgi」についての対談内容を紹介する。
エンジニアの未来を扇形に開いていく
INDUSTRIAL-X 八子知礼氏(以下、八子): 「Ohgi」はIT人材企業に所属するエンジニアと、IT人材の募集をしている企業をマッチングするサービスとのことですが、「Ohgi」を作ろうと思った経緯について教えてください。
コアコンセプト・テクノロジー 金子武史氏(以下、金子): 私自身IT業界に約20年従事しているのですが、日本のITエンジニア不足を実感しています。
具体的な数字としても、日本のエンジニアは100万人強で、全人口に対しての比率は0.9%程度です。
それに対し、エンジニアが一番多いとされている北ヨーロッパでは、人口比で2%、北米では1.5%と、比率だけをみても日本の約2倍程度です。
さらに日本は人口が減少しているので、人材不足は深刻です。また、質に関しても世界と比較して劣っているのが実情です。
そこでエンジニアが付加価値をつけ、質と量、共にあげることで、結果的に様々な産業に対して支援できるインフラを構築したいという想いから、「Ohgi」のコンセプトが生まれました。
八子: まさにエンジニアを中心に扇形にキャリアや未来を開き、社会に貢献していくという構造なのですね。それでは具体的なサービスについて教えてください。
金子: 人材を探している企業は、現在「Ohgi」上で管理している5万3千人強の人材の中から、一ヶ月の単価、年齢、仕事の開始可能日、必要とするスキルなどの条件で絞り込みながら探すことができます。
ある程度の人数に絞り込まれたら、一人一人の経歴書を見ていきます。ここから実際に案件に合いそうな経験やスキルを持った人材を探し、マッチした人材がいれば、「Ohgi」内のチャットツールを使って、企業や弊社からエンジニア側に提案を行っていく、という流れです。
他にもやりとりをしているエンジニアの情報の一元管理や、案件も「Ohgi」上で見ることができます。
母集団を増やし、ネットワーク効果を上げる
「Ohgi」の中に情報が集約されていて、検索、エンジニア側とのやりとり、一元管理までできるので、スムーズに人材を探すことができそうですね。
一方、細かな絞り込みを行うと人材がかなり絞られてしまい、結果マッチングしないという可能性もありそうですが。
金子: まさしくそこが大きな課題となっています。現在5万強という人数がいても、必要なタイミングで必要な人材とマッチングできる確率は絞られてきます。
その一つの要因は、エンジニアがプロジェクトに一度従事すると、平均10ヶ月程度は従事します。つまり、10ヶ月後にならなければ、エンジニアはプロジェクトを探すタイミングが来ないということです。
人材が見つからなければDXが進まず、機会損失になってしまいます。
そこで弊社では、案件と人材の母集団を増やすことでネットワーク効果を上げ、最適なマッチングの精度を高めています。こうすることにより、人材が不足していく中でも、双方に良いマッチングを行うことができ、エンジニアの成長と顧客の満足度向上につながります。
八子: 具体的に案件と人材の母集団を増やすためには、どのようなことを行なっているのでしょうか。
金子: 弊社自体がDXを推進しているITベンダーで、毎年優秀な人材を採用し、エンジニアが魅力に感じる案件を多数受注しています。
案件と人材のサイクルは相関関係にあり、魅力的な仕事を取れる機能がないと良い人材も集まりませんが、既に自社で案件と人材の好循環が起きています。さらに今回マザーズ上場したことにより、その循環がさらに加速すると考えています。
こうした自社での実績があるからこそ、「Ohgi」というエンジニアデータベースの構想にも着手できています。
八子: コアコンセプト・テクノロジーの社員のデータも、「Ohgi」に組み込んでいるのでしょうか。
金子: はい。弊社では毎年新卒の方を20人程度採用しており、その方達が、どのようなキャリアモデルを歩むことで、どのような成長につながっているかのトラックレコードが蓄積されています。
こうしたトラックレコードにより、ある程度キャリアのモデル化・パターン化を行い、これを活用することで、エンジニアの経験価値を上げるようなマッチングを行おうと考えています。
八子: 経験値を上げるようなマッチングとは具体的にどういうことなのでしょうか。
金子: まず、初めのプロジェクトをマッチングする際には、絞り込みなどの条件検索機能で紹介の精度をあげてきました。
そして実際にプロジェクトで仕事をしていく中で、スキル、貢献度などの能力評価のフィードバックを発注元企業からいただきます。
評価をいただくことにより、人材と案件の関連性や傾向、どういった組み合わせが最適かといったデータが溜まっていきます。
このデータを機械学習などで「Ohgi」に組み込んでいくことで、将来的には、現在の最適なマッチングだけでなく、未来を想定しながら最適なマッチングができると考えています。
キャリアのデジタルツインを実現する
八子: 初めのマッチング精度をあげるデータだけでなく、仕事を進めていく中でのデータも蓄積されると、より「Ohgi」の精度はあがりそうですね。また、「未来を想定したマッチング」にも適応していく構想とは、具体的にはどういったことなのでしょうか。
金子: エンジニアは専門性が高く、企業としても同じ人に居続けてほしいという要望があるので、同じスキルを必要とする仕事を続けていく傾向があります。
そうすると、同じ業務の経験は積めるかもしれませんが、新しいスキル習得や経験を積むということが難しくなり、キャリアの幅は狭まってしまいます。
ですから、契約期間が終了する際、企業側から継続して契約したいという要望があった場合にも、同じ仕事ではなく、別のプロジェクトの提案をしてもらい、同じ企業に貢献するという選択肢を作りつつも、新たな経験ができる環境を整えています。
そして、こうしたデータも「Ohgi」に蓄積していくことで、将来的には自分の最適なキャリアプランを考えながら、現在やるべきプロジェクトに従事していく、という仕組みを構築していきたいと考えています。
「どういうキャリアを歩むとどのような人材に育つか」という部分は、現在ブラックボックスになっています。
そこを、ある程度未来が想起される形でプロジェクトが提示されると、エンジニア自身の目標設定が明確になり、自分の成長をデザインしていくことが可能になります。
現在すでに5万人のトラックレコードが溜り、経歴書がアップデートされ続けているので、3年ごとの比較をとることでシミュレーションを行うことができます。
将来立案されるプロジェクトを想定しながら、一歩先の人材が育っていくので、企業が新しいプロジェクトを始めたときには、既に必要な人材がいる、という状態になります。結果的に、企業にとっても成長が止まることなく、新たなプロジェクトを進め続けることができます。
八子: キャリアのデジタルツインですね。これまでは漠然とキャリアシートに書いて、実際に求めている仕事がもらえるかも分からないという状況から、自分でシミュレーションして先んじて経験を積めるのですね。
将来のスキルや案件まで考慮した上で紹介してくれるという発想は、今までにない斬新さを感じました。
働きやすい環境をつくるエンジニアへのバックアップ
八子: ただ、企業側から、事業の縮小や継続解除されるといった、想定していない事象も起こると思うのですが、その際のフォローはどのように行なっているのでしょうか。
金子: ここがまさにネットワーク効果が効くポイントです。当社では既に数百社から案件が常に来る状態ですので、あるプロジェクトで突然の予算縮小が起こったとしても、全体から見ると1、2%程度です。
現在のプロジェクトが継続されなかったとしても、同じような仕事を紹介するバックアッププランが常に用意されている状態で運営できます。
八子: そうしたバックアップがあると、エンジニアの方は安心して業務に取り組むことができますね。その他にもマッチングした後に、エンジニアに対して支援していることはあるのでしょうか。
金子: 弊社が人材調達をご支援した場合、プロジェクト参画後には、定期的な評価やフォローを行います。具体的には、足りていないスキルがどこかに基づいた改善策の支援などです。
成果を出せるか出せないかをエンジニア本人だけに委ねるのではなく、当社もバックアップしていきます。
このように、エンジニアが働きやすく成長できる環境を整えることで、以前この業界を離れてしまった経験者の方が戻ってきてくれたり、優秀な学生が喜んで入ってきてくれたりと、好循環が生まれると考えています。
そうすることで、エンジニア不足の構造的な課題解決や、優秀な人材が生まれることで、様々な産業への貢献などといった、社会貢献ができると思っています。
八子: こうしたバックアップや「Ohgi」を使ったシミュレーションが行えると、このネットワークから出る必要性がなくなりますね。
金子: そうできるように、常にブラッシュアップを行っています。弊社自体もプラットフォームですので、弊社のネットワーク内で回遊し続けていただける価値を提供し、母集団の向上につなげています。
「Ohgi」においても、プロジェクトに従事したエンジニアが活躍し、その次のプロジェクトも連続的に紹介され、貢献することで新たなスキルや経験が積める。そうすると得られる単価はいくらくらいあがるか、といったことも算出できます。
将来的には、エンジニアに対し、具体的なプロジェクト、得られるスキルや経験、年収の目安、仕事の水準レベルやその時のキャリアなどのロールモデルを、一人一人に提示できる形にしていけると思います。
n=1の最適解を導くためのネットワーク
八子: 最後に、エンジニアのネットワークの将来についてお聞かせください。
金子: エンジニアのネットワークは、今と未来で、「変わること」と「変わらないこと」があると思っています。
変わらないことは、どれだけネットワークが大きくなったとしても、その価値は集団のものではなく、ある「ひとり」の人にとってのものだということです。ネットワークは、「ひとり」のキャリアをどのように描いていくことが最適なのか、について活用される手段です。
集団が大きくなればなるほど、「ひとり」に対する人生の選択肢の精度が上がります。n=1の最適解は、今も重要な点ですが、これからも変わらず重要なことです。
これは企業側にとっても同じことが言えます。様々な会社が利用し、案件がたくさんあり、人材がたくさんいるということは、本質的には重要なことではありません。
企業にとって一番重要な価値は、今進めているプロジェクトを成功に導くことができる的確な人材が見つかる、ということです。
一方変わることとしては、ネットワークが大きくなることで、社会的な影響力が増します。最終的にはこのネットワークが日本の国力に寄与し、世界の経済発展を促すポテンシャルがあると思っています。
また、この仕組みを輸出産業にするべきだとも考えています。世界的に見てもエンジニアは不足しているので、 エンジニアを束ねた仮想ネットワークを作り、それを世界のDX支援に活用することで、新しい輸出産業の柱を作っていきます。
日本は、作っているビジネスやITの仕組みはレベルが高いので、ものづくりの国からITの国になっていく可能性を持っていると考えています。
八子: 一人のエンジニアや一社の企業のニーズに対し、膨大な規模のネットワークで実現していくのですね。
「Ohgi」というネットワークを使って、いかにこだわりをもって大きなビジネスを仕掛けていこうとしているかが分かりました。本日はありがとうございました。
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