日本電気株式会社(以下、NEC)は、新たなイノベーションを生むための共創空間「NEC Future Creation Hub」を設立している。
NEC Future Creation Hubでは、テクノロジーとビジネスの融合を体験し、対話をすることにより共に未来を描く空間を提供しているとのことだが、どのような体験が得られるのか。
実際にNEC Future Creation Hubにて、日本電気株式会社 スマートインダストリー 統括部事業主幹 関行秀氏と、経営企画 コーポレイトブランディング部 FCHデザイングループ 齋藤佑介氏にお話を伺いながら、取材した内容を紹介する。(聞き手:IoTNEWS小泉耕二)
NECの歴史を紹介する「Innovation Gallery」
「Innovation Gallery」では、プロジェクターで壁面に映し出された映像や説明書き、展示資料により、NECの技術や歴史が紹介されている。
はじめに目を引くのが、中央に設置されたデジタル地球儀の展示資料だ。
このデジタル地球儀には、NECが設営した海底ケーブルがマッピングされていたり、地球温暖化の状態を時系列で表したりといったコンテンツが搭載されている。
地球温暖化のコンテンツでは、地球に関するビックデータを活用し、将来の状態もシミュレーションして可視化している。
その他にも、NECの通信技術の歴史や海底ケーブルの中継機の実物、はやぶさ2で活用されている画像解析の技術を紹介する展示物など、NECの歴史や技術を体感することができた。
NECの顔認証技術を活用した取り組み
次に、NECの顔認証技術を活用したサービスや展示物を紹介する。
会議室
まずは、NEC Future Creation Hub内の会議室だ。各会議室には顔認証の端末が設置されており、事前に顔と紐つけられた会議室の端末に顔を認証させると、入室することができる。
「南紀白浜IoTおもてなしサービス実証」
また、「南紀白浜IoTおもてなしサービス実証」の取り組み内容が映像にて紹介されているのだが、ここでもNECの顔認証技術が活用されている。
「南紀白浜IoTおもてなしサービス実証」とは、事前に顔画像やクレジットカードを登録しておくことで、空港や観光施設といった南紀白浜の様々な場所で、顔認証を活用したサービスや決済が行えるという取り組みだ。
実証に参画している飲食店では会計が顔認証で行えたり、テーマパークでは顔認証で入場することができたり、ホテルでは顔認証での部屋の入退室がおこなえたりと、スムーズな旅行を体験することができる。
空港
さらに、既に成田空港や羽田空港などで導入されている顔認証技術を、VRで体験することができる展示が行われていた。
VRのヘッドセットをつけると、まず顔とパスポートを紐づける映像が映し出される。
一度顔とパスポート登録を行うと、その後の手荷物預かりや保安検査場、登場ゲートも顔認証で行うことができる。
空港で顔認証を活用することにより、手続きの簡便化を図るだけでなく、非接触で行える点において、感染症対策も担っているのだという。
パーソナルデータの活用
次に、パーソナルデータの活用について、映像を交えた紹介がなされた。
パーソナルデータには、パスポートや免許証といった公的情報や、健康診断結果などの健康情報、購買情報や移動情報などがあり、現在では別々に管理が行われているという。
こうしたパーソナルデータが連結されると、ユーザは手続きの効率化やパーソナライズされたサービスを受けられるというメリットがある。事業者側としても、様々なデータを基にユーザの傾向を分析し、新しいサービスの創出を行うことができる。
しかし、パーソナルデータを活用するには、セキュリティの問題や個人情報保護法などの課題がある。
こうした課題を解決するため、NECは、どの個人情報をどの企業に提供するのかといった決定権を、ユーザ自身が管理してコントロールできる仕組みを提案している。
また、個人認証をキーとして、様々なデータを紐つけることができるため、今生み出されたデータが誰のものか分かった状態でサービス間分析を行い、リアルタイムにユーザに向けたサービスを提案することができるというものだ。
生体認証にはNECの技術が使われることを想定し、複数サーバの分散や、データを暗号化したまま計算処理が行えるNEC独自の秘密計算技術が開発されている。
サーバ自身も守られているが、万が一1部のデータが漏洩したとしても、分散されているため元の形に復元されることはない。
実際に処理を行う際にも、分散した状態で処理を行うことができる。
パスワードのように簡単に変更できない生体情報であるからこそ、技術による徹底的な管理を行うことで、ユーザにデータを提供してもらい、パーソナライズしたサービスの提供が行える基盤づくりを目指しているのだという。
また、今後パーソナルデータの利活用が広がっていくためには、提供したデータが、どこでどのような目的で、どのように活用されているのかを明示し、いつでも提供の取りやめが行えるような環境づくりが重要だとした。
森ビルとのパーソナルデータ利活用の取り組み
こうしたパーソナルデータの利活用は、既に森ビルが提供している様々なサービスをつなぐ共通IDである「HILLS ID」での取り組みで実施されている。
「HILLS ID」とは、森ビルが所有しているオフィス、商業施設、住宅などの、今まで別々に管理されていたIDを、「HILLS ID」としてデータ連携をし、既存のサービスはそのままに、データとIDを紐づけることでシームレスに利用することができるというものだ。
施設利用者、勤務者、居住者の会員ステータスや、施設の利用履歴といったものを統合的に集約することができるため、エリア一帯となったサービスの提供が可能となる。
今後は、森ビルが管理している全エリアにヒルズIDの適用範囲を広げて、都市全体での価値提供を行うのだという。
感染症対策からビジネスまで、幅広く活用される「映像分析技術」
映像分析技術の紹介では、実際にNEC Future Creation Hubに設置されたカメラにより、人の動きの方向性や密度を表すデモンストレーションが行われた。
しかし、このままでは人物が特定され、個人情報となってしまうため、密度のみを可視化したり、アバターを活用したりして可視化する技術も紹介された。
また、感染症対策向けに、備え付けのカメラでマスクの着用の有無や奥行きを測る技術が開発されたという。
この技術により、人と人の距離が適切に保たれているか、マスクを着用しているかどうかを確認し、声がけを行うなど、感染症の水際対策などに活用されている。
産・学・官・民を連携するスマートシティの取り組み
次に、スマートシティへの取り組みが紹介された。
都市課題の解決には、産・学・官・民それぞれが保有しているデータを連携させ、活用していくことが重要だという。
これを実現するために必要となるのが、データ活用プラットフォームだ。
そこでNECは、FIWAREという欧州委員会が官民連携プログラムで開発・実証したIoTプラットフォームを独自に検証し、よりセキュリティを高めた「スマートシティ向けデータ利活用向け基盤サービス」を提供している。
現在では災害や観光などで活用されているが、今後は地域住民の生活のサポートや公共サービスの開発に向けた活用を行っていく方針だ。
共同配送のマッチングサービス
次に、共同配送のデモンストレーションが紹介された。
物流現場では、ドライバー不足やトラック一台あたりの積載量が低下しているなどの課題があり、その課題解決のひとつとして、NECは共同配送のマッチングサービスに取り組んでいる。
デモンストレーションでは、山梨県に工場を持っており、東京への出荷便の費用高騰に悩んでいる企業が、共同配送を行うことでどれだけコストや時間などが改善されるかをシミュレーションすることができる。
まず輸送の発着場所を選択し、輸送条件を指定する。
そうするとAIがマッチングを行い、同じ条件を指定している企業が3社現れた。
一番改善が見込める企業を共同配送相手先として選択すると、車両台数、走行距離、走行時間、排出雨CO2の全てが改善されるというシミュレーション結果となった。
そして半年間共同配送をすると、どれだけ改善できるのかの数値も見ることができる。
左側赤い箇所が改善前、青い箇所が共同配送を行った後の物流コストのデータが表示されている。右側は運行パフォーマンスを表しており、物流コスト、運行パフォーマンス共に改善されていることが分かる。
また、NECが提供しているロジスティクスプラットフォーム上では、様々なデータを一元管理することができるため、管理者は遠隔地にいても、現在どのような状況なのかをディスプレイで確認することができる。
例えば、現在トラックがどこを走っているかといったことや、車載カメラの映像の確認、倉庫での検品結果の確認などをすることができる。
現在は、この共同配送マッチングサービスを活用して、実証実験に取り組む企業を募集し、実際に実施されている段階だ。
また、今回のデモンストレーションでの輸送条件は、デモ版の簡易的なものであったが、実証実験を通じて、より複雑な条件での検証が行われており、そうした実証実験の結果を踏まえてビジネスに展開していく予定だという。
共創により製造業を支援する「NEC DX Factory」
製造業を支える技術を紹介する「NEC DX Factory」では、ロボットアームやAGVを活用したデモンストレーションが展示されていた。
部品の投入から検査までを行うエリアでは、「部品投入」「加工・搭載」「組み立て」「検査」といった生産ラインが再現されていた。
部品投入の工程では、部品情報をIoT基板で見える化することで、部品管理の強化といったトレーサビリティを可能にしている。
デモンストレーションでは、ロボットアームがケースに基板を置くという作業を行い、その後、基板の側面を撮影している。
ケース側面の微細な凹凸は、同じ金型から作られていても異なるという特徴があるため、撮影した画像をNECの「物体指紋認証技術」を活用して識別することで、部品のトレーサビリティを行っている。
加工・搭載工程では、NECのAI技術が活用されている。ケースに基板を置く際に、多少のズレが生じるのだが、そのズレが最終的な完成品にどのような影響をもたらすかをAIが分析しているのだ。
このAIには、NEC独自の「異種混合学習技術」が活用されており、導き出された数式が何故そうした数式になったのか、人が見て根拠が分かる仕様なのだという。
万が一不良品と判定された場合は、管理者は見える化画面により一目で分かるようになっている。
組立工程では、映像分析技術を活用して、作業者の支援・改善を行う。天井に設置されたカメラで、組み立て作業をリアルタイムに撮影・録画し、各工程でかかった時間が記録される。
また、事前に作業の様子をAIにて学習しているため、抜け漏れがある場合はアラートが挙がるようになっている。
最後は外観目視検査だ。通常の目視検査では、不良品を多く学習させる必要があったため、時間や手間がかかっていたという。
そこでNECでは「RAPID機械学習」という技術を活用し、良品のみの学習で目視検査を行うことができるようにしている。
デモンストレーションではロボットアームが部品の裏側を撮像し、傷の有無を瞬時に判定している。
万が一傷がある場合は赤く表示され、管理者に知らせる仕様になっている。
なおNEC DX Factoryは、多くのパートナー企業と共創し、各企業の製品や技術を活用しながら実現させている。
将来的には、各工場間でデータ連携することで、生産能力・稼働率・品質・出来高などの様々なデータを基に、グローバルサプライチェーンの最適化の実現を目指していくのだという。
ローカル5Gを活用したAGVのデモ
またNEC DX Factoryには、メーカの異なる2台のAGVが用意されており、その1台が障害物を避けてロボットアームまで部品を運び、ロボットアームがもう1台のAGVに載せ替えて搬送するというデモンストレーションが行われた。
通常メーカが異なるAGVの場合、それぞれ異なる管理システムを導入する必要があった。しかし、NECが提供する「NEC マルチロボットコントローラ」を活用することにより、メーカの異なるロボットであっても一元管理することが可能なのだという。
ネットワークは、ショールームの壁面にローカル5Gの基地局が設置されており、ローカル5GでリアルタイムにAGVを制御している。
このデモンストレーションではAGV2台の制御であったが、実際倉庫などに導入する場合は数十台となる。そうなれば、Wi-Fiなどでは干渉してしまい遅延が起こってしまうため、遅延の起こらないローカル5Gを導入しているのだという。
体験することで新たなネクストアクションが生まれる
その他にも、カーボンニュートラルへ向けた取り組みや、NEC Future Creation Hubの大きなコンセプトである「共創」を映像化したムービーなど、様々なコンテンツが展示されていた。
このようにNEC Future Creation Hubでは、これまでの歴史や培ってきた技術、既に実装されているサービスや将来への展望までが、様々な手法で表現されており、共創の価値やテクノロジーを「体験」として感じることのできる空間が構築されていた。
関氏に、NEC Future Creation Hubの価値を伺うと、「NECの技術やソリューションを、机上で語るだけでなく、体感してもらうことに意味があります。
テクノロジーの進化や実現できる世界観を体感することで、健全な危機感を持ってもらうことにより、共創することの必要性を実感してもらっています。」と述べた。
齋藤氏は、「NEC Future Creation Hubでは、お客様との対話を通じてネクストアクションを生み出していくというコンセプトがあります。
将来へ向けたメッセージを打ち出すことで、お客様に共感をしていただきながら、未来へ向けた新しい取り組みや商談が、NEC Future Creation Hubを通じて生まれていけば嬉しいです。」と、今後の展望について語った。
機会があれば、是非実際に足を運んでみて欲しい。
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