ワークスモバイルジャパン株式会社は、ビジネスチャット「LINE WORKS」の提供を行っている。
「LINE WORKS」は、コミュニケーションアプリ「LINE」のようなチャットやスタンプといった機能に加え、掲示板、カレンダー、アドレス帳、アンケートなど、仕事の現場で活用できるグループウェア機能を揃えたビジネスチャットだ。
「LINE WORKS」は、「LINE」に類似した操作性を保ちながら、ワークスモバイルジャパンが独自に開発・提供を行っており、PCやタブレットはもちろん、スマートフォンだけでほとんどの機能を使うことができる。そのため、オフィスワーク以外にも、拠点や店舗など、PCを使う時間の少ない「現場」での活用が進んでおり、企業規模・業界・業種を問わず導入社数は35万社を突破し、利用しているユーザー数は400万人を超えている。(2022年1月時点)
現場を多く抱える中小企業がデジタル化やDXを実現するためには、「LINE WORKS」のようなSaaSをうまく使いこなすことも重要だ。
そこでワークスモバイルジャパンは、2022年6月8日「中小企業のデジタル化-損した企業、得した企業-」と題し、企業におけるデジタル化の歴史や、デジタル化が進まない背景、中小企業がデジタル化する上で必要な視点や発想などについてのセミナーを開催した。
このセミナーでは、日本の中小企業でデジタル化が進まない背景について話された後、中小企業のデジタル化に関する課題や疑問について、経営者や担当者から寄せられた質問に対し、ワークスモバイルジャパン株式会社マーケティング本部長 増田隆一氏をモデレータに、IoTNEWS代表小泉耕二が答えていった。
本稿では、まずは前提として、日本の中小企業でデジタル化が進まない背景について話された内容と、それに対する「LINE WORKS」の活用方法を紹介した後、各質疑応答の内容を紹介する。
日本の中小企業でデジタル化が進まない背景
企業におけるデジタル化の歴史は、Windows 95が発売された1995年頃に始まり、今まで紙で行っていた作業を会計ソフトで行うといった、OA環境のデジタル化が進んだ。
その後、データを社内のネットワークサーバに置くのではなく、クラウド上で管理したり、業務における作業をデジタルで補ったり、取引先の関係をデジタルで繋いだりといったデジタル化へと発展している。
しかし、スマートフォンの登場により変化した日常生活におけるデジタル化と、企業におけるデジタル化には乖離がある。
その1つの理由は、デジタル化へ向けた取り組みが、サプライチェーン全体で足並みが揃っていないからだ。
例えば電話やファックスで受発注を行っている事業者が、受発注を何かのツールに置き換えようとすると、自社の体制のみでなく、取引先全てがそのツールに移行する必要がある。
そうした共通ツールの選定から実行、導入コストの負担をどうするのかといった作業を、企業間を跨いで実行する必要があるのだ。
また、昨今のパンデミックにより在宅勤務へ切り替えた企業も多い。しかし、在宅勤務を行うためのパソコンや通信といった環境を整える資金がある大手企業はスムーズに進む一方、投資に資金を回せない企業は、進んでいる企業との差が発生してしまう。
身近な例では、他社間で行われているオンライン会議の際、通信環境の整備を行えていない企業は遅延が起こってしまうといったことだ。
このように、企業におけるデジタル化は、社会環境の変化に伴って「緩やかに」進化したため、共通のルールや必要とされるデジタルの明確な定義が、はっきりと決まっていない状態なのだ。
そこで、打出の小槌的発想で、「デジタル化は若手に任せたらどうか?」という考えに至る企業も多い。
たとえ、日常生活で活用するツールを使いこなす「デジタルネイティブ」と呼ばれる世代が企業に入ってきたとしても、彼らはまだ取引先との関係や業界の事情を把握していないため、結局どのツールをどうやって活用すればいいのか分からない。
つまり、本質的に必要なのは、社会全体でデジタル化を進めて効率化していくことであり、ここにメスが入らないことが問題なのである。
一方、これまで紙での保存が認められていた国税関係の書類を、電子データでの保存の義務化が行われるなど、世の中のデジタル化の流れは加速し、企業は対応を迫られている。
短期間で社会全体が足並みを揃えるのは難しいため、まずは個社でデジタル化やDXを行わざるを得ないわけだが、中小企業の場合、経営層が掛け声だけ行い、実際には進まないといった実情がある。
適切な人材を配置し、現場に受け入れられるツールを導入する
ここでの問題のひとつは、DXを推進する人材の決め方だ。
よくある例では、デジタルに詳しい人材や、現場で推進力のある人材が経営層に見込まれ、DX推進を行う人材に抜擢される。その人材は、自分の部署のデジタル化は想像がついたとしても、会社全体のデジタル化は想像がつかない。なぜなら、全ての部署の業務や課題を把握するのは難しいからだ。
そこで、各部署から適任だと思われる人材を選抜してもらい、DX専任チームとして話し合いを行うというのが一般的だ。しかし、お互いがお互いの部署の業務内容をきちんと把握していないため、結局話がまとまらないのだ。
そのため、DXを推進する人材は、ある程度社内で権限のある役員クラスの人材が就任する必要があるが、役員クラスの人材はデジタル知識がないケースも多い。
また、上層部やDX人材がデジタル化を推進し、ツールの導入を決めたとしても、そもそもデジタルに慣れていない社員は、従来の慣れたやり方を変えることへの不安から、ツールの導入に抵抗感を持つケースも少なくない。
そこで「LINE WORKS」は、多くのユーザが利用するコミュニケーションアプリ「LINE」に類似した操作性を保持し、抵抗感なく使い始めることができる仕様にしている。
加えて、情報をストックできる「ノート」「掲示板」、意見収集が効率化する「アンケート」、予定を社員同士で共有できる「カレンダー」、ToDoを共有できる「タスク」など、ビジネスを効率化する上での多様な機能が備わっている。
さらに、「LINE WORKS」には、「LINE」と同じく既読機能が備わっているため、グループトークでチャットを送った際、自分の送ったチャットを誰が見て・誰が見ていないのかが、一目瞭然となる。
これにより、情報が届いているかどうか把握することができ、メールを送ったあとに確認の電話をするようなことが、不要となるのだ。
このように、適した人材を配置し、現場に受け入れられるツールの導入を推進していくことが重要だ。
「LINE WORKS」は無料でもほとんどの基本機能を使うことができるため、まずは、チャットに置き換えられる業務連絡からデジタルを取り入れ、徐々にその利用の範囲を広げ、DX推進の下地を作ることをLINE WORKSは提案している。
次に、デジタル化やDXを推進する、もしくはこれから推進したいと考えている経営者や担当者が抱いている疑問や質問に対し、小泉が答えた内容について紹介する。
中小企業におけるローカル5Gのメリット
Q:5G、ローカル5Gの中小企業のメリットは何か。
5Gの大きな特徴は、「高速大容量」「低遅延」「多数同時接続」だ。
その5Gが現時点で活用されているユースケースの多くは、ゲームやスポーツ観戦といったエンターテイメント領域である。
ゲームの場合、クラウドを介してオンライン上で複数人とプレイする、リアルタイム性が必要とされるオンラインゲームにおいて、5Gの特徴が活かされている。
また、スポーツ観戦では、特定の選手のみを見たいなどといった要望に応えるため、様々な角度の映像をリアルタイムに配信する「多視点映像配信」に5Gが活用されている。
そうした中、5G・ローカル5Gが最も本命視されているのが、車の状態をリアルタイムに補足する必要がある自動運転への活用だ。
しかし、現状の5Gでは、5G通信が弱かったり混んでいたりした場合、4Gに切り替わる仕様となっている。この切り替えがうまくいかないといったことや、4Gの性能では遅延が発生してしまうといった観点から、実用化はまだ先だと考えられている。
一方、産業界では、工場などで資材を運ぶAGV(無人搬送車)やロボットを制御するために5Gが活用されているケースがある。
ひとつの工場に複数台のAGVやロボットが動き、人も協働している場合、互いが効率的に働いたり、ぶつかったりしないために制御する必要がある。
こうした低速かつある一定の敷地内で動くものを制御するために、現在5Gは活用されている。
5Gを活用するには、自社に必要な効率化や付加価値をつける施策は何か、その実現のために現状の5Gの特性が必要かどうかを見極める必要がある。決して5Gを活用することが目的になってはならないのだ。
自社の方向性を見極める鍵は、顧客のメリット
Q:地方の印刷業者におけるデジタル化やDXをどのように行うか。
印刷業者に限らずではあるが、どの方向性にデジタル活用するべきかが分からない場合、まずはデジタル活用により、自社の顧客がどのようなメリットを得られるのか、その変化は何かを知る必要がある。
例えばチラシの代わりにディスプレイを導入し、宣伝を行いたい顧客が想定された場合、ディスプレイの設置や映像素材をどのように確保するかを考える必要がある。
つまり、顧客が変わりたいであろう方向性が見えれば、自ずと自社がどう変わるべきかが見えてくるのだ。そして自社の方向性が見えてくれば、そのために必要なトレンドや事例を探してくることができる。
よくある犯しがちな過ちは、世の中の大きなトレンドに流されてしまうケースだ。
世の中の流れに従うという発想ではなく、自社に必要なものは何かを見極めて施策を打っていく必要なのだ。
その手掛かりになるのが、自社の顧客が得られるメリットや、向かうべき方向性なのだ。
利益が出る課題解決を選定し、デジタルの使いどころを考える
Q:地方の土木企業におけるデジタル化やDXをどのように推進するか。
前提として、土木建築業界の現場は、慢性的な人手不足であるという現状がある。つまり土木建築事業者は、仕事はあるのに受け切れていないのだ。
そうした課題を解決するためにデジタルを活用した事例として、人材を探している土木建築事業者と、仕事を探している人材をマッチングするサービスを提供している企業がある。
この企業では、土木建築事業者が仕事を告知できるホームページを作り、そこでマッチングを行っているのだ。
また、ある地域の土木建築事業者同士が、資材を貸し借りするために情報をホームページにアップし、マッチングするサービスも提供している。
他にも、盛り土を行っているトラックの積載量や配送ルートを最適化するために、デジタルツールを活用している企業もある。
こうした事例は、人の作業自体をデジタル化しているわけではないが、その周辺にデジタルを活用することによって、結果的に作業そのものにも影響を与えている。
例えば、盛り土を行っているトラックの運行状態がある程度読めることによって、その周辺で作業を行っている現場は、これまで多めに見積もっていた人材や工程日数を、適切な人数や日数にすることができるのだ。
現場の課題は何か、そしてそれを解決することで現状よりも儲かることができるのか、そうした観点でデジタルの使い所を考える必要がある。
零細企業にもチャンスがあるデジタル時代
Q:零細企業におけるデジタル化やDXをどのように行うか。
デジタル時代において、歴史がある大手企業は、変化に対して柔軟にスピーディな対応をとることが難しい。そのため、デジタル時代における零細企業は、ある意味チャンスの時代と捉えることができる。
例えば歴史あるコンシューマー向けのインターネット通販を行っている大手事業者の場合、スマートフォンがなかった時代においては、パソコンを前提にサービスを構築していた。
つまり当時は、パソコンの画面に最適化したサービス設計をしていたのだ。
その後、ガラケーと呼ばれる携帯電話が普及し、スマートフォンが浸透した。こうしたデバイスの進化は、ここ十数年ほどの間で起こっている。
もともとパソコンを前提としたシステムを構築していた事業者は、既存システムをスマートフォンの画面にも対応する必要があり、スマートフォン時代にゼロからサービスを構築するよりも手間がかかる。
一方、零細企業なのであれば、社員数は少なく、会社独自のローカルルールもないことが想定される。そのため、標準的なルールの元構築されている様々なSaaSのサービスをうまく活用することで、比較的簡単にマイナーチェンジを行うことができるのだ。
しかし、SaaSを知らない、または上手く使いこなせていないために、「業務連絡」や「情報共有」といった基本的な業務においても、いまだに電話やファックス、ホワイトボードで行っている企業も多い。
電話による口頭のやりとりやファックスでの情報伝達は、意外とコミュニケーションコストがかかっているものである。電話は相手の状況が見えず、強制的に相手の手を止めてしまうデメリットに加え、すれ違いが起こり伝達までに時間がかかることもある。さらに口頭での伝達は、聞き間違いや言った言わないといったトラブルにもなりがちだ。
また、ファックスやホワイトボードの場合は、情報を確認するまでに時間がかかり、伝達できる情報量にも限りがある。
そこで、無料版でもほとんどの基本機能を使うことができる「LINE WORKS」をまず取り入れることで、時間がかかり非効率だった伝達手段を簡単にデジタルに置き換えることが可能となる。
このように、まずは自社で活用できそうなSaaSサービスを知り、うまく組み合わせて活用するだけでも、差は大きく開いてくる。
業界の変化を捉え、適切なサービスを活用する
Q:観光業や宿泊業におけるデジタル化やDXをどのように行うか。
従来、観光業や宿泊業におけるメインの集客は、大手旅行代理店が担っており、団体客を斡旋していた。空き状況の管理などは、アナログか、スタンドアローン(他の機器やシステムに接続されていない状態)で動くアプリケーションなどで管理していた事業者がほとんどであった。
そうした中、オンライン旅行会社の予約サービスが普及したことにより、利用者は自分で検索をして予約をする時代になった。
そうなると、観光や宿泊事業者は、いくつものオンライン旅行会社のシステムを管理し、その情報を整理する作業が発生したため、オンライン旅行会社の予約サービスと自社で持っているシステムを連携するサービスを展開する企業が現れた。
しかしこれでは、オンライン旅行会社に手数料を支払う必要があるといったことや、オンライン旅行会社の予約サイトで入力された顧客情報を事業者は保有できないといったデメリットもある。
そこで自社HPから予約を行ってほしいわけだが、まず自社のHPを持っていない事業者も多い。
昨今ではHPを簡単に作れるサービスが豊富なため、ここはクリアできたとしても、HPに組み込む予約システムを構築する必要がある。しかし、自社で一からシステムを構築するのは、予算や時間がかかり、大手事業者でなければ実現は難しい。
そこで、公式サイト向けの予約エンジンを、SaaS型で提供している企業がある。
その企業は他にも、複数の検索エンジンから抽出した検索結果を統合して表示するメタサーチサイトにおいて、オンライン旅行会社と価格比較される際、自社サイトの価格を自動的にベストレートにする機能も提供している。
オンライン旅行会社と比較して一番安い価格設定をしたとしても、オンライン旅行会社へ支払う手数料を差し引くと、自社サイトから予約してもらうほうが利益率は高くなる。また、メールアドレスやSNSアカウントといった顧客情報を自社で保有することができれば、リピート利用につながる販促アクションを行うことができる。
このように、観光業や宿泊業においても、SaaSサービスをうまく活用することが成功への秘訣だ。
また、清掃ロボットや荷物を運ぶAGV、AIの活用など、観光業や宿泊業に活用できるサービスは様々あるため、自社の規模や必要なサービスを見極め、費用対効果を考えても利益が出る施策を打つことが重要である。
自社に必要な知識を見極め、階層別にアプローチしていく
Q:業務効率化へ向けたDX導入を検討しているため、成功・失敗例を聞きたい。特にDXへの社員の理解をどう得るかが知りたい。
まず、1番はじめに必要となるのが全社員のレベル感を揃えることだが、そのためには、現状の社員のレベルと、会社にとって必要最低限のデジタル知識は何なのかを定義する必要がある。
「全社員のレベルを揃える」というざっくりとした基準で標準的なデジタルリテラシーを学んでもらっても、自分ごととして捉えられる人材は少ないだろう。
また、デジタル知識意外にも知る必要がある知識がある可能性もある。
例えばコンビニエンスストアのレジ改革を行う場合、それに伴うデジタル知識も必要だが、「従来のレジ打ち」を知る必要がある。
当たり前のことのようだが、レジ改革の担当者は、レジ打ちをしたことのないケースが多いのだという。
逆に、レジを売っている現場の人材がデジタル改革を行おうと思っても、適切なデジタル技術やツールを選定できずに、結局デジタルに詳しい人の言いなりになってしまう。
そこで、行うべき目標を立て、現状を知り、デジタル以外の知識も含めて必要な知識を洗い出す必要があるのだ。この洗い出しができれば、全社員のレベルを揃えるといった第一歩を踏み出すことができる。
次に出てくる課題は、組織をどう構成していくかだ。
従来は、「DX推進部」といった部署をつくり、全社的にDXを推進しようとするケースが多かった。しかし、縦割り組織が前提で最適化されている企業では、ひとつの部署が推進するのは難しかった。
そこで、それぞれの部署内で課題を見つけ、デジタル的に解決できる人材を各部署で育成しようという流れが生まれている。そうした人材には、全社員が学ぶ内容に加え、さらに踏み込んだデジタルトレンドや事例共有などの教育を適切に行う。
さらに経営層に関しても、意思決定をするためのデジタルトレンドや知識が必要だ。
このように、経営層、各事業部のエース、現場といった、3階層程度に対して、それぞれ必要な知識を学んでいくことが、結果的には成功への近道となる。
他社の成功例や失敗例を軸に方針を決めるのではなく、自社に必要なもの、要らないものを仕分け、見極めた企業だけが、DXのスタートラインに立てるのだ。
今回のLINE WORKSのセミナーを通して、様々な中小企業におけるデジタル化の課題について質問を受け付けたが、日々のビジネスの中で発生する課題を壁打ち的に議論する場として有効であった。
無料でも十分に使える「LINE WORKS」
LINE WORKSには、無料版、有料版(スタンダード・アドバンスト)があり、無料でもほとんどの基本機能を使うことができ、さらに、コンシューマー向けのLINEや外部のLINE WORKSと直接チャットができるとこから顧客や取引先など社外とのやりとりにも活用できる。
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現在、デジタルをビジネスに取り込むことで生まれる価値について研究中。IoTに関する様々な情報を取材し、皆様にお届けいたします。