デジタルで儲ける視点2「非効率を解消する」 ー小野塚征志氏に聞く、デジタル時代の新しい儲け方⑤

企業:

DXという言葉を聞かない日はないが、実際、DXをして儲けた企業があるのだろうか?という疑問を持つ人は多い。その疑問に応えるべく、特集「デジタル時代のあたらしい儲け方」では、ローランド・ベルガー パートナーの小野塚征志氏とIoTNEWS代表の小泉耕二が対談した。

特集「デジタル時代のあたらしい儲け方」は全八回で、今回は第五回目、DXで儲けるための4つの視点の二つ目の視点である、「非効率を解消する」がテーマだ。

小野塚氏は、慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修了。日系シンクタンク、システムインテグレーターを経て、現在、ローランド・ベルガーでパートナーを務める。2022年5月19日には「DXビジネスモデル 80事例に学ぶ利益を生み出す攻めの戦略」を上梓した。

ローランド・ベルガーは、戦略系のコンサルティング会社。企業の中期経営計画の策定、企業の買収、リストラなど、企業が経営戦略でな大きな意思決定を行う際のサポートを行っている。

IoTNEWS 小泉耕二(以下、小泉): 2つ目は「非効率を解消する」についてです。これはどういったものなのですか?

ローランド・ベルガー 小野塚征志氏(以下、小野塚): 「非効率」というと、今、人が行っている作業の効率を上げるために、RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)やロボットを導入することがあります。これは、もちろん、ある意味では非効率解消の1つになります。しかし、私がこの項目で言いたかったことは、「非効率を解消するビジネスを提供したら儲かる」ということです。

小泉: 利用者の非効率を解消するサービスを提供するということですね。

小野塚: それには、作業を置き換えるための機械やシステムを開発するという方法もあります。しかし、このDX(デジタルトランスフォーメーション)の時代には、「発想そのものが非効率というムダな作業をなくすこと」になると思います。そして、その方法はいくつかあります。

海外送金の課題を解決したWise

小野塚: その1つが、「Wise(ワイズ)」というイギリスで設立された、フィンテックのスタートアップの事例です。この会社は海外送金に着目し、「海外送金をしないのに送金できる」というサービスを提供しています。

小泉: どういうことですか?

小野塚: まず、海外送金がどのように行われているかを説明します。

例えば、私が日本にいて、アメリカにいる小泉さんに送金したい場合、私が日本のA銀行に行って、アメリカのB銀行にいくら振り込みたいと言います。ただ、日本のA銀行がグローバルな中継機能を持っていればよいのですが、大半の銀行は持っていません。

非効率を解消する ー小野塚征志氏に聞く、デジタル時代の新しい儲け方
中継機能を持っていない銀行同士での海外送金を表した図

そのため、A銀行は日本の中継機能を持っているC銀行に、一度お金をトランスファーします。そして、C銀行に入っているおカネは、アメリカの中継機能を持っているD銀行に行き、D銀行から、またさらにトランスファーされます。このように送金する間に何回も銀行が介在してしまう。つまり、A銀行からB銀行に直接送金することができていないのです。

小泉: 小さな銀行がメインバンクの人同士の海外送金の場合は、おカネがホップ、ステップしているということなのですね。

小野塚: そうです。銀行間でどんどんパスがされて、ようやく届けることができます。そして、海外送金では、もうひとつ問題があります。それは「送金してみないと手数料が分からない」ということです。

私が所属するローラン・ドベルガーはドイツの会社で、日本の大手銀行からドイツに送金したことがあります。そのときは手数料が分からないので、多めに積んでくださいと言われました。さらに、何日後に送金が完了するのかも分からなかったのです。

小泉: 信じられないですね。おカネは数字だから簡単に一番デジタル化しやすいもののはずです。

小野塚: でも、これが現実なのです。そこで、Wiseは、世界中に自分の会社の口座を持ち、世界中の様々な銀行に預金がある状態にしてサービスを提供しています。

非効率を解消する ー小野塚征志氏に聞く、デジタル時代の新しい儲け方
Wiseのサービス概要図

例えば、私が日本のA銀行のおカネを、100万円ドイツのB銀行に送りたいとしたら、WiseのA銀行内にある口座に100万円を移してくださいと言われます。WiseのA銀行内の口座に移すと、Wiseが持つB銀行の口座に国内から送金するのです。

そのため、海外に送金をせずに、瞬時におカネの移動ができます。時差があるので瞬時ではない場合もありますが、何日もかかることはありません。しかも国内分の手数料しかかからないので、一定の送金手数料で送金の時間もはっきりさせることができます。

「非効率の解消」というと、ロボットやシステムを開発して効率化する方法もありますが、このWiseの例のように、発想の転換でデジタルトランスフォーメーションすることができるのです。

小泉: Wiseでは「入金があった」というデータをクラウド上で捉えて、それをドイツの銀行に落として、銀行間での送金の手続きをしているわけですね。

小野塚: そうです。デジタルは活用していますが、デジタル技術自体が高度なわけではない。むしろ、発想の問題なのです。

ポイントは、「ビジネスモデルのトランスフォーメーション」になります。これは、儲け方、ビジネスモデルを少し変えることで、今まで「面倒くさい」と思っていた非効率をいかになくすかということになります。

小泉: ただ、Wiseのような取り組みでは初めにある程度資金が必要になると思います。もう少し身の丈に合った非効率を解消した事例があれば教えてもらえますか?

生花のビジネスモデル直販で変えたCAVIN

小野塚: では、花の流通を直販にした、日本の「CAVIN(キャビン)」という会社の例を紹介します。

最初に、今までの花の流通について説明しましょう。まず、花を作っている農家の多くは、卸の市場に花を持っていきます。そして、卸の市場で仲卸が買って在庫を持ち、その在庫の中から花屋が卸に注文を行い、花屋が受け取りに行って仕入れるという作業をしています。

非効率を解消する ー小野塚征志氏に聞く、デジタル時代の新しい儲け方
従来の生花流通を表した図

このように、市場があり、卸があって、ようやく花屋に花がたどり着きます。花屋からすると、注文すれば自分の店の比較的近くにある仲卸に取りに行くことで、すぐ手に入るというメリットがあります。

しかし、農家で収穫した花を市場まで持っていき、競りにかけて、仲卸で保管をして、注文があったら取りに行くというプロセスを経るため、花屋に並ぶまでにとても時間がかかっているのです。

そのため、日本の花の市場では、毎年で約1000億円分の花が捨てられています。流通している途中で花が枯れてしまったりして、花屋の店先で販売される前に捨てられているわけです。

非効率を解消する ー小野塚征志氏に聞く、デジタル時代の新しい儲け方
ローランド・ベルガー 小野塚征志氏

そこで、CAVINでは、花屋が農家からダイレクトに買い付けができるようなアプリを開発しました。もちろんダイレクトに送れば、輸送効率は落ちます。これまでは、まとめて市場に送り、まとめて仲卸に送っているから、トラックに満載で運ぶことができていました。しかし、1000億円分の廃棄ロスが発生していたのです。

一方、CAVINのサービスを活用すれば、花屋から注文があった際に即座に直接出荷するので、物流費はかかりますが、新鮮な花を届けることができます。だから、廃棄ロスはほぼなくなります。

そして、CAVINが、増えた物流費以上の利益を農家や花屋にもたらすことができれば、新たなビジネスが生まれます。これがまさに、日本の国内で始まっている、間を中抜きすることで非効率を解消しようという事例です。

小泉: 従来の花の流れでいくと、初めに花を一気に仕入れて、市場で競りをしていたわけですね。つまり競りをする市場が、CAVINのサービスに取って代わられたということでしょうか?

小野塚: ある意味そうです。ただ、CAVINでは競りは行いません。分かりやすく言うと、「マーケットプレイス」を提供しているのです。

非効率を解消する ー小野塚征志氏に聞く、デジタル時代の新しい儲け方
CAVINのサービス概要図

説明すると、農家の人たちは、今出荷できる花をCAVINに登録します。花屋はCAVINを見て購入したい花を注文します。すると、配送業者が農家に取りに行き、花屋に配送してくれます。この仲介のプラットフォームを作っているのがCAVINというわけです。

小泉: なるほど。農家はCAVINへの手数料と配送料を払って送るだけなのですね。

小野塚: CAVINのサービスを使えば輸送効率は下がりますが、花を捨てなくて済みます。花屋も花の鮮度が上がるため、店に置ける時間がすごく延びるわけです。

一般に花屋では、古くなってしまった花を安く売ったりしますが、そうしたことを行わなくて済む可能性が高くなります。花屋にとっては、結果的にどちらの方法が儲かるか、ということなのです。

小泉: 確かに「野菜や植物は鮮度が大事」というわりには、その間に入っている人たちが1回は在庫をしたり、競りを行ったりしているので、流通の途中でどんどん鮮度が落ちている。結果的に消費者の手元に届く頃には、鮮度は悪くなっています。

小野塚: そうです。だから、今までであれば「大量に運んだ方が安いし効率的だ」といわれていた発想を、「ダイレクトに送った方がむしろ持ちがいいから、結果として得するのではないか」という、発想の転換を行ったのです。

廃棄ロスは出るかもしれないけれど「大量に運んだ方が安い」という発想から、「もしかしたら手間はかかるし運賃は高くつくけど、直接運んだ方が利益増になるのではないか」という考えなのです。

これはWiseの例と一緒です。ちょっとした発想の転換を行って、それをデジタルでサポートしているだけなのです。デジタル技術自体は高度なものが必ずしも必要なわけではありません。ビジネスモデルをどう変えるかが重要なのです。

小泉: これは、デジタルがない時代から、商習慣的にやってきたのだと思います。

長距離の移動を高速でできない時代は、九州で作った花を東京に届けるなんてとんでもない話だったかもしれません。しかし、今は交通網が発達し、高速な移動手段もあるように、世の中はどんどん高度化して、社会の状況は変わってきました。

そうなると、今までみたいに誰かが1回集めてもう1度配り直すといった、バケツリレーをする必要がなくなります。これをデジタル技術で上手く中抜きして、非効率な部分をなくしていく。

つまり、トータルで見たときにどうやるのが一番効率的なのか、一番価値が高いのかに着目することが重要なわけですよね。このDXの事例は、「サステナビリティ」というキーワードにも関連していると感じます。

非効率を解消する ー小野塚征志氏に聞く、デジタル時代の新しい儲け方
IoTNEWS代表 小泉耕二

小野塚: その通りです。花を廃棄しているという問題は、効率は落ちるかもしれません。しかし、花を捨てない方がエコかもしれないのです。

小泉: 花は生き物ですから、なるべく最後まできちんと楽しみたいですよね。非効率をなくすDX、これは、非効率が起きていると感じている業界の人たちにはグッとくるかもしれないですね。

小野塚: そうした人たちは、ムダだと思っていても、そのことにだんだん慣れてきて、それが普通になっていたりもします。

小泉: 確かに業界慣習は簡単に変えられない感じがします。勝手なことをすると、怒られるみたいな感じがある(笑)。そうしたしきたりで、手も足も出ない人たちはすごく多いと思います。

しかし、案外そういうところは、外から入ってきた人が、今までの人間関係を考えないでガラガラポンとしちゃうと、一気に変わるケースが多いですよね。

小野塚: だから、非効率を解消するビジネスの事例は、ベンチャーか異業種参入が圧倒的に多いです。今まで業界に長くいる人たちは、非効率がどうしても普通になってしまうわけです。

他業界の事例を参考にすることも重要

小野塚: 今回の本では取り上げてはいないですが、HISが運営する変なホテルはそうした事例の1つです。ずっとホテル業をやっていた人からすれば、フロントは顧客と最初に接する顔という意識があります。

しかし、変なホテルではフロントにロボットを置き、自動精算機にしました。しかし、使う側からすれば、フロントマンと話すことはほぼ事務的な話なので別にロボットでもそこまで支障はなかった。こうした発想の転換は異業種の方が浮かびやすいのです。

ですから、今回の本を読む際、最初は自分の業界や関連する企業の事例を参考にするのもよいですが、ほかの業界の事例も見て、これは自分の業界でもやれる発想なのではと、発見をしていただけるのも面白いのではないかなと思います。

小泉: なるほど。それならば、業界に長くいる人たちにとっては、異業種だけど面白い発想の人を探してきて、共にタッグを組んで考えていくという発想もよいかもしれないですね。(第6回に続く)

この対談の動画はこちら

以下動画の目次 7.視点2: 非効率を解消して儲ける(33:32〜)より

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