製造業のDXを現場から推進する、ローコード開発ツール「TULIP(チューリップ)」 ―T Project代表取締役 荒谷茂伸氏インタビュー

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デジタル技術を活用し、組織やビジネスプロセスを変革するDX。昨今、DX推進のカギを握る技術として注目を集めているのが、「ローコード開発ツール」だ。ローコード開発ツールとは、ソースコードをほとんど書かずにシステム開発ができるツール(プラットフォーム)のことだ。ローコード開発ツールを駆使することで、現場の課題を知っているメンバーたちが自らシステムを開発し、DXを推進していくことが可能となる。

しかし、製造業に特化したローコード開発ツールは、グローバルでもほとんど例がない。その先駆けとされるのが、アメリカのベンチャー企業TULIP社が提供する製造業特化型のローコード開発ツール、「TULIP(チューリップ)」だ。日本では2021年から、DMG森精機のグループ企業である株式会社T ProjectがTULIPを提供している。そこで今回、T Project代表取締役の荒谷茂伸氏に、TULIPのサービス内容や背景について話を伺った(聞き手:IoTNEWS代表 小泉耕二)。

MES領域における唯一のローコード開発ツール

IoTNEWS 小泉耕二(以下、小泉): 早速ですが、TULIPとはどのようなサービスなのでしょうか。

T Project 荒谷茂伸氏(以下、荒谷氏): ガートナーが発行している市場調査レポート「マジック・クアドラント」において、TULIPはMES(製造実行システム)のカテゴリーにおける唯一の「ローコード開発プラットフォーム」(以下、ローコード開発ツール)であり、2年連続でチャレンジャーとして名前が上がっています。

オフィス系の分野では、RPAをはじめとするローコード開発ツールが豊富に存在しますが、さまざまな生産設備や計測機器と接続が可能な、製造業に特化したローコード開発ツールというのは、実はほとんど例がないのです。

小泉: 確かに、従来のローコード開発ツールの多くは、収集したデータを加工することはできても、機械そのものからデータ収集をする仕組みはありませんね。

荒谷氏: TULIPのもう一つの特徴は、オープンソースのコードを使って開発しているということです。そのため、どんなメーカーの機械でも簡単に接続できますし、通信機能をもたない古い機械やセンサー、PLCなどと簡単に接続する仕組みもあります。

オープンソースのいいところは、特定のメーカーや技術に依存する必要がないということです。メーカーがもつ優れた技術を活用することも重要ですが、5年~10年後の未来を見すえて、それらの技術が生き残っているかを考えることも必要なのです。

ローコード/オープンソースは世界の製造業の主流になりつつある

小泉: 「ローコード」や「オープンソース」という言葉は、日本の製造業ではまだなじみがないという人も多いと思います。

荒谷氏: はい、そのため営業活動の際には理解していただくことが難しい場合もあります。たとえば、お客様のところに提案に行くと、競合分析をしたいので他社と同じ製品をもってきてほしいといわれることが多いのですが、TULIPにはそもそも競合となるような他社製品がないのです。

小泉: 日本の製造業では、システム開発をSIerに委託して、ゼロからつくりこむのが一般的です。それに対して、TULIPはシステムを現場の人たちで自ら開発するためのツールということですから、コンセプトがまったく違いますね。

荒谷氏: 従来のウォーターフォール式で開発すると、新しい課題に迅速に対応していくことができません。たとえば、ある課題を解決するために3年かけてシステムを開発しても、それが完成したときにはもうすでに別の課題が生まれています。

一方、アジャイル式で開発すれば、新たな課題にもすぐに対応できます。そのため、変化の激しい昨今では、製造業のみならずあらゆる業種で、アジャイル式の開発やローコード開発ツールが主流になりつつあります。日本のエンドユーザーにはあまり認知されていないのですが、実は世界ではそれがあたりまえになってきているのです。

製造業のDXを現場から推進する、ローコード開発ツール「TULIP(チューリップ)」 ―T Project代表取締役 荒谷茂伸氏インタビュー
T Project代表取締役 荒谷茂伸氏

小泉: DXで重要なのは、現場が変わることだと思います。そのためには、現場の人たちが自ら問題に気づいて、自分たちでシステムを変えられるようになることが必要ですよね。毎回、SIerなどに依頼してつくっているだけでは、現場は変わりません。

荒谷氏: 製造業に限らず、現場がいちばん課題を知っているし、未知なる課題も予測しやすいはずです。現在はIT業界ですら人材が足りていないという状況ですから、企業は何とか自社のリソースでDXを推進していかなければなりません。そのために必要な方法が、アジャイル式やローコード開発、オープンソースなのです。それを日本の企業に伝えていくことが、弊社の役割だと思っています。

小泉: 製造業の現場の人たちが自らローコード開発ツールを使いこなせるようになると、いわゆるOTとITの乖離というのも自然となくなっていきそうですね。

荒谷氏: はい、大きく変わっていくと思います。たとえば、昨今では世代を問わず、誰もがスマホを使っています。スマホはたえず機能がアップデートされるのがあたりまえです。製造業の現場でもそれが理想であり、そのレベルまでいけば、もはやローコードという言葉を使う必要もありません。「ローコード」という言葉をつかっている時点で、すでに自分たちでハードルを上げてしまっているのです。

また、企業にはそれぞれ独自のビジネスモデルがあり、それが正しいのだと信じています。そのため、従来のビジネスモデルに合わせる形でシステムを開発し、独自にカスタマイズしていきます。すると、そのシステムはどんどん汎用的でなくなり、やがてはメンテナンスすることも、環境の変化に対応することも困難になってしまいます。

製造業はこのカルチャーを変えていく必要があると思います。つまり、世界の製造業の8割が使っているような標準的なシステムやツールを使ったうえで、独自の技術を活かせるようなビジネスモデルに変革していくのです。これこそがDXだと思います。

そのためにはシステム開発を外部に任せるのではなく、現場が内側から変わっていく必要があります。その手段の一つがローコード開発ツールなのです。

最新の機能が2週に1回のペースでアップデートされる

小泉: TULIPの技術はどのように生まれたのでしょうか。

荒谷氏: TULIPはアメリカのTULIP社が開発しています。TULIP社の現CEOであり共同創業者のNatan Linderは、TULIP社を起業する前、3Dプリンターを開発する企業の創業者でした。その際に、製造業で遅れている部分を自分なりに痛感したといいます。そこで、今度はソフトウェアの力で製造業を根本から変えていきたいと考え、TULIP社を創業したのです。

彼は、製造業をとても愛している人です。昨年の9月に日本に来て、いくつかのお客様を一緒に訪問しましたが、子供のように喜んで工場の中を歩き回っている姿が印象的でした。また、工場内で紙の帳票などを見かけると、「ここを直さないといけない!」と熱く訴えかけてくるのです。日本の製造業をとてもリスペクトしており、その良さを活かすためにも、TULIPが有効に使えるはずだと語っています。

小泉: 最後に、今後の展望について教えてください。

荒谷氏: TULIPの技術そのものは、最新のテクノロジーをどんどん取り込んでいます。ウォーターフォール式の開発では、たとえば一度開発したシステムを5年などで償却して使わないといけませんが、これは5年前の技術を使い続けなければならないということです。TULIPを使えば、そういうことはありません。実際、TULIPの機能はスマホのアプリのように、2週間に1回のペースでアップデートされます。

一方で、日本の市場でTULIPを展開する弊社としては、パートナー企業を増やしていきたいと考えています。たとえば、少しチャレンジングではありますが、SIerのパートナーです。すでにお話してきましたように、弊社はTULIPを使うことでシステムを自社で開発しましょうといっているので、システムの受託開発を担っているSIerとは利害が一致しないように思えるかもしれません。

しかし、TULIPは外部のシステムや機器とも柔軟に連携できますから、お客様にTULIPを使っていただく一方で、SIerが自社のサービスを提供するということも可能なのです。たとえば、これは実際にあった事例ですが、SIerが提供しているある計測機器は、計測データそのものは取得できるのですが、誰がいつ計測したデータなのかを取得する方法がありませんでした。そこでTULIPを使うことで、それらのデータも柔軟に収集できるようになったのです。この点では、TULIPはさまざまなシステムや機器の間をつなぐ、「糊の役割」を果たせるはずだと考えています。

小泉: 貴重なお話をありがとうございました。

・TULIPのホワイトペーパーをダウンロードしたい方はこちら
・TULIPのアプリ作成方法を紹介する記事を後日公開します。
・TULIPの事例を紹介する記事を後日公開します。

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