株式会社日立製作所(以下、日立)は、データサイエンティストのトップ人材を集結し、より高度なプロジェクト対応や人材育成を担う「Lumada Data Science Lab.」の設立、多様なステークホルダーとのDX協創空間である「Lumada Innovation Hub Tokyo」の始動など、DXやそれに伴う人材育成を加速させている。
そこで本稿では、日立が進めているDXの全体像や、そのために必要な人材像、人材育成のための具体的なカリキュラム内容や今後の展望などについて、日立のデジタルシステム&サービス統括本部 Lumada CoE Lumadaイノベーション統括センタ センタ長 兼 Lumada Data Science Lab. 共同ラボ長 吉田順氏(トップ画)と、人財統括本部 デジタルシステム&サービス人事総務本部HRビジネスパートナー 荒川奈津子氏にお話を伺った。
なお、今回の取材は「Lumada Innovation Hub Tokyo」で行った。

プロダクト・IT・OTがワンチームとなってDXに取り組む
小泉: 御社の事業領域も幅広いですし、そこで行われているDXも各領域で異なってくるとは思うのですが、大きな「DX」の位置付けについて教えてください。
吉田: おっしゃる通り事業領域もそうですが、社内・社外でのDXを含めると多様な切り口があります。
そうした多様なDXの基盤として、日立では、デジタルを活用してお客様と協創していくための「Lumada」(ルマーダ)を提案しています。
元々弊社のIoTプラットフォームを指して「Lumada」と言っていましたが、現在ではデジタルソリューションの総称となっており、「Lumada」を軸にお客様と協創してDXを実現しています。
我々が大切にしているのは顧客協創ということで、お客様のビジョンやTo-Be像を共に考えるところから始まり、業務の課題分析やデータ利活用などを行い、効果を試しながら取り組んでいます。
一方社内のDXも進んでおり、社内の成功事例と「Lumada」の成功事例を相互適用させながら互いに還元し、良い循環を生み出しています。

また、ITセクターとしてAIやビックデータをはじめ、製造業や金融など幅広い領域においてITを行っている部門も多いので、社内外両軸で「Lumada」 を基盤にDXを進めています。
小泉: 御社は長い歴史があり、グループ会社や事業は多岐に渡ると思いますが、DXを推進する企業だという認知はスムーズに行えたのでしょうか。
吉田: 当初はなかなかDXを行いたい企業様から想起してもらえませんでした。
一方、現在のAIブームが来るはるか以前からデータ分析やAIを扱ってきたので、知見や人財、共に取り組みを進めてきた企業様との関係性などは、社内に蓄積されていました。
そうした昔からお付き合いをさせて頂いているお客様からDXに関しても依頼を受けるなど、地道な活動を通じて取り組みを推進してきました。今は、その活動が実って多数のお客様に認識してもらっており、Lumada事業の数値も大きく伸びてきています。
小泉: DXを実現するためには、デジタルの知識だけでなく、これまで培ってきた現場の課題理解や関係性も重要ですよね。
吉田: そうですね。日立はこれまでプロダクトを作る部門とIT部門、プロダクトの制御・運用を行うOT(Operational Technology)部門といった、現場とIT・OT部門がワンチームとなって取り組んできた経験や知見があるので、そこは強みだと感じています。
小泉: そうした現場のチームとテクノロジーのチームが共に進めるということは、多角的な視点でプロジェクトを進めることができそうですね。
現場のノウハウを持つ人材にデジタルを掛け合わせる
小泉: 一方、異なった専門領域の部門をワンチームにするのは、知識やコミュニケーションの部分でも大変だと思うのですが、どのような組織作りや人材育成を行っているのでしょうか。
吉田: まずは電力や鉄道など、現場で実際に設備製造、保守などに直接携わっているOT部門の方々に対して、デジタル知識を身に付けてもらっています。

例えば、データサイエンスの知識を学ぶために、データサイエンティストのチームに1年間実習に来ていただき、元の部署に戻るという取り組みを行っています。職場に戻った後、デジタル関連プロジェクトをリードして活躍しているメンバーが何人も出てきている状況です。
小泉: 人選はどのように行なっているのでしょうか。
吉田: それぞれのビジネスユニットで事業戦略に基づき人財強化の計画を立てているので、現場へのヒアリングを行いながら、将来デジタルを背負って立つような人材を、人財部門と一緒に選んでもらっています。
小泉: 1年間の実習となると、元の部署との折り合いをつけるのが難しいと感じるのですが、どのように調整されているのでしょうか。
吉田: このカリキュラムを受ける人財は例えば、データサイエンスの知識を得るための実習であれば、1年間に20名程度と、かなり厳選されています。会社の制度として構築しているので、全社的に理解を得ています。
小泉: 具体的なカリキュラムの内容について教えてください。
吉田: この実習には様々なビジネスユニットから世代を超えた人財が集まるので、最初の3ヶ月程度は交流も含めた基礎的な研修を行った後、統計解析やPythonを使った受講学習を行います。
その後は実際にお客様の案件を一部担当してもらいながらOJTを行います。
小泉: OJTでの配属先はどのように決めているのでしょうか。
吉田: まず初めに、本人の好きなことややりたいことなどのヒアリングを行います。そうした本人の意思と、実習から戻った際にどのような活躍を期待しているのか、職場の上長にヒアリングをし、適切な配属先を決めていきます。
苦手意識が先に立たないよう、また興味を持って取り組んでもらうため、アサインに関しては重要視して行っています。
小泉: データ分析をするにも、取り組むフィールドの内容が分からないと厳しいですよね。
吉田: そうですね。あとはコミュニケーションの得手不得手といったような、本人の特性も見極めて取り組み内容や配属先を決めています。
日立の強みでもありますが、事業領域が広いので配属先も様々なフィールドがあり、各フィールドでの対応も十分にできる体制になっているので、ニーズに合わせた育成を行うことができています。
全社員の各フェーズに合わせたカリキュラム構成や評価制度
小泉: かなりしっかりとしたカリキュラムを組まれていますが、1年間に20名と、御社の規模でいうと少なく感じるのですが、その他の人材に対して行っているデジタルに関する育成カリキュラムがあれば教えてください。
荒川: 大きくは「プロフェッショナル」「アドバンス」「ベーシック」「リテラシー」という4領域に分けてカリキュラムを構成しています。

吉田が説明した、選抜された20名に対する1年間の実習カリキュラムは、一番上のプロフェッショナル向けのプログラムです。
デジタル人財育成は、データサイエンティストだけではなく、デザイン思考を活用し顧客課題を引き出したり、将来ビジョンをデザインしたりする「デザインシンカー」や、サイバー攻撃の増加により重要性が増している「セキュリティスペシャリスト」などに向けたプログラムも整備されています。
このプロフェッショナルを修了した方がビジネスユニットに戻り、お客様とのLumada事業において、即戦力として活躍しているという話をよく聞きます。
2つ目のアドバンスは多様なプログラムがありますが、例えばアクションラーニング形式のカリキュラムで、各ビジネスユニットでの課題や具体的な案件のデータを持ち寄り、「Lumada Data Science Lab.」のデータサイエンティストがメンターとなって、3ヶ月程度の期間で共に解決していく、といったものがあります。
ベーシックとリテラシーはDXの基礎ということで、グループ会社である日立アカデミーと連携してカリキュラムを作成し、e-ランニングで実施をしています。
小泉: 実際の課題を持ち込めるアドバンスでは、データサイエンティストの方々との関係性構築という意味でも有益なカリキュラムですね。
荒川: アドバンスは難しい内容になっているものの、現業の仕事と直結しているので、とても人気があるカリキュラムです。

小泉: 一方ベーシックやリテラシーといった全社向けのカリキュラムは、必要性を感じない方もいるのではないでしょうか。受講率をあげるために工夫されている点などはありますか。
荒川: 弊社ではトップがメッセージを配信したり、直接従業員と対話するようなタウンホールが頻繁に開催されています。その中でトップ自らが成長戦略を語る場面があるため、事業を成長させるためにはデジタルのスキルやリテラシーが必要だということを繰り返し繰り返し伝えています。
また仕掛けとして、期に1度ビジネスユニットごとに、事業戦略に基づく人財強化を議論する場があります。その中で、デジタル事業に必要な人財の強化状況をレビュー・議論する場があります。
そうした組織ごとでの成長を刺激して促すという取り組みや文化が以前からあるので、ベーシックやリテラシーといった全社向けのカリキュラムに関しても、どこのビジネスユニットがどれくらい実施されているかを良い意味で競い合いながら、またお互いの良い取り組みを取り入れながら、推進してもらっています。
また、「日立グローバルパフォーマンス・マネジメント(GPM)」という仕組みを導入しており、従業員一人ひとりが1年に2回、自身で目標を立てて上長に評価してもらうという機会があります。
KPI以外にも、「こういうことに取り組みたい」と目標を掲げ、具体的な取り組みを上長と話し合うことで、自発的に取り組んでもらう環境を整えています。
小泉: 評価制度にまで組み込んでいるのは大きなモチベーションになりますね。
一方、プロフェッショナルの評価はどのように行なっているのでしょうか。
荒川: OJT中でも派遣元の上長と本人の間で、「こういうことを期待しているからこういうことを習得してほしい」という目標設定がされているので、派遣元上長とOJT先の上長が連携し、本人の達成状況をみて評価を実施しています。私たちとしては、OJTがきちんと事業や本人の成長につながることが大切だと思っています。
また、実習で学んだ方々が、どのような具体的な案件で活躍しているのかということを、人事部門がヒアリングを行います。
そうしたヒアリング結果を、次の年のカリキュラムのOJTの中身につなげるというサイクルを回しています。
相互啓発が行えるコミュニティづくり
小泉: カリキュラム以外で取り組んでいる人材育成があれば教えてください。
吉田: 社内でデータサイエンス部会というコミュニティをつくり、相互啓発や実践的な学習の場を設けています。

現在3,000~4,000人がこのコミュニティに在籍しており、困りごとを持ち寄り互いにアドバイスを行うといったことや、情報共有したい内容の発信などを行っています。
また、イベントとしてハッカソンやコンペを実施しています。AIハッカソンでは、同じ課題をグループごとに解いてもらい、3位までを表彰するという取り組みを行っています。
実際の現場では同じ案件を様々な人が解くということは行われませんので、他の人がどのように解いているのかという知識としても、意味のある場だと考えています。
小泉: うまく相互に刺激を得られるような場作りをしているのですね。なにより御社ほどの規模だと、知らない人との出会いも重要な価値ですよね。
企業を横断したつながりにより、人材を強化していく
小泉: 最後に、DX人材に関する今後の展望や、日立に応募したいと考えている読者に向けてのメッセージをお願いします。
吉田: 我々が取り組んでいるDXやデータ利活用は、社会インフラをはじめとする幅広い領域で行っているため、そうした状況を楽しんで取り組める人材を求めています。
DXのプロジェクトは少人数で行うことが多いため、取り組みに対する貢献が見えやすく、手応えを感じることができるやりがいのある仕事だと思います。
また、グローバルな取り組みも増えていますので、グローバルにチャレンジしたい人財も常に募集しています。
今後の展望としては、データサイエンティストが自己実現できる場作りを強化していきたいと考えています。
日立においてもデータサイエンティストは現状3,000〜4,000人と、全体の母数からするとマイノリティな存在です。他社のデータサイエンティストの方々と話す機会も多いですが、どこもまだ少人数だという話をよく聞きます。
そうしたデータサイエンティストをつなげるコミュニティを、社内だけでなく社外にも広げ、日本のデータサイエンティスト全体が底上げされることで、日本の国際競争力が強化されればと思っています。
今後DXがさらに定着し、当たり前の世界になった時に、データサイエンティストに日が当たるような取り組みを行っていきたいです。
小泉: 本日は貴重なお話をありがとうございました。
日立ではこんな人材を募集中
2022年4月7日時点での募集要項です。詳細な最新の情報はコチラからご確認ください。
企業名
株式会社日立製作所
募集職種
- データサイエンティスト
- DXコーディネーター
詳しくは、下記のボタンより、採用ホームページをご覧ください。
応募者の登録フォーム
ボタンを押していただくことで、日立の採用ページに遷移します。
現在の募集内容については、職種に合わせてご確認いただき、遷移先の採用ページにてご応募ください。
無料メルマガ会員に登録しませんか?

現在、デジタルをビジネスに取り込むことで生まれる価値について研究中。IoTに関する様々な情報を取材し、皆様にお届けいたします。