モバイル通信と運航管理で進むドローンの社会インフラ化 ーKDDIスマートドローン 代表取締役社長 博野雅文氏講演レポート

2022年9月、IoTNEWSの会員向けサービスの1つである、「DX事業支援サービス」の会員向け勉強会が開催された。本稿では、その中からKDDIスマートドローン株式会社 代表取締役社長 博野雅文氏のセッションを紹介する。

博野氏は、2016年からドローンにモバイル通信を掛け合わせることで新たな価値が提供できるのではないかと考え、ドローンの商品開発に着手したという。

2022年4月にKDDIスマートドローン株式会社を設立し、モバイル通信を用いて、安全な遠隔飛行・長距離飛行を実現するサービスを提供している。講演では、ドローン業界の動向や、社会インフラとしてドローンが活躍している事例等を紹介いただいた。

有人地帯目視外飛行(レベル4)の制度化

ドローンは飛行形態に応じてレベルが定義されており、有人地帯での目視外飛行であるレベル4が2022年12月に制度化される予定だ。
ドローンは飛行形態に応じてレベルが定義されており、有人地帯での目視外飛行であるレベル4が2022年12月に制度化される予定だ。

ドローンは飛行形態に応じて大きくレベル1からレベル4までが飛行形態として定義されている。

人が確認できる範囲が目視内飛行と呼ばれ、目視内で手動飛行するのがレベル1、GPS等の情報によって目視内で自律飛行を行うのがレベル2と定義される。また、人が見えない範囲での飛行を目視外飛行と呼ばれ、無人地帯での飛行をレベル3、有人地帯での飛行をレベル4と定義されている。

レベル4と定義されている有人地帯での目視外飛行は2022年12月に制度化される予定であり、レベル4はドローン業界の2022年のキーワードになっているそうだ。レベル4が制度化され、有人地帯での目視外飛行が解禁されることで、これまでドローンを飛ばせなかったような遠隔地にもドローンを飛ばせるようになる。

例えば街中での物資輸送や、スタジアムの警備、工事現場の安全管理等、全国のあらゆるところでドローンが飛び交って、ドローンが通信や電力と同じように社会のインフラになっていく、そのような時代の幕明けになる年だと考えられているそうだ。

ドローンの社会インフラ化への鍵

ドローンの社会インフラ化には、2つの鍵があるという。

1つ目は、ドローン向けのモバイル通信だ。

レベル4を実現するためには、スマートフォンのようにインターネットにつながるドローンが必要だ。遠隔で飛行させるためには、どこでどのドローンが飛行しているかをクラウド上で把握する必要がある。そのためにはすべてのドローンがつながっている状態を作らなければならない。

2つ目は、運航管理だ。ドローンを1機だけ操縦するのではなく、複数機を同時に遠隔制御、監視をしていくためには、そのためのシステムが必要になる。

このモバイル通信と運航管理という2つの要素によって、ドローンの遠隔でかつ長距離の飛行が同時に複数台可能になるという。例えば、東京にいながら、沖縄のドローンを遠隔制御して、ドローンが見ている景色をリアルタイムで熱量を含めて感じるということもできるようになるそうだ。

これにより、ドローンの利用方法が根本的に変わり、産業領域での使用ができるようになる。

KDDIスマートドローンでは、モバイル通信と運航管理による遠隔監視システムを提供している。
KDDIスマートドローンでは、モバイル通信と運航管理による遠隔監視システムを提供している。

KDDIスマートドローンでは、モバイル通信と運航管理を利用した遠隔監視システムを構築している。モバイル通信によってドローンが直接クラウドに接続されているので、ドローンの映像や位置、飛行経路をリアルタイムにクラウドで確認することができる。飛行経路はモバイル通信で事前にドローンにインストールすることが可能で、ドローンはその情報とGPSをもとに自律的に飛行を行う。ドローンに何か問題が起きた際には、緊急停止をしたり緊急退避ポイントへの飛行ができたりと、遠隔で飛行させるための機能が備わっているそうだ。

ドローンの飛行状態の映像は多地点へ展開することが可能なため、例えば、被災時にドローンを遠隔から飛行させ、複数の箇所から状況を確認し復旧計画を立てるといったようなユースケースにも活用できるという。

KDDIスマートドローンでは、モバイル通信と運航管理に6年間取り組み続けてきたという。2017年にはモバイル通信によるドローンの遠隔自律飛行に成功し、2020年には自治体運営によるドローン配送サービスを開始している。

産業領域でのドローンユースケース

ドローンの遠隔での利活用が、技術的にも制度的にも社会実装のフェーズに入ってきている。物流や点検等の様々な分野で利活用が進んでいる。

物流

物流領域では、日本航空と奄美大島で離島間物流モデルの構築を実証している。
物流領域では、日本航空と奄美大島で離島間物流モデルの構築を実証している。

日本航空株式会社と実施しているプロジェクトとして、奄美大島の離島間物流モデルの構築をしている。

奄美大島には、いくつかの離島があり、通常の輸送手段としてフェリーを使用しているが、波が高くなると欠航になってしまい、物が届かなくなってしまうという状況が発生してしまう。ここに複数機のドローンを配置して、ドローンの物流網を構築するというプロジェクトである。

これにより、荒天でフェリーが欠航しても、最低限の荷物を届けることが可能になり、安心して暮らせる社会を実現していきたいと考えプロジェクトを推進している。

今年度実証を重ねて、次年度以降サービス化を予定しているとした。

物流専用ドローン「AirTruck」

ドローンで荷物を運ぶ際、機体が傾くと重心の位置が変わってしまい、エネルギー効率が低下してしまうという課題が存在していた。

同プロジェクトで使用しているエアロネクスト社の「AirTruck」は、「4D Gravity」という重心制御技術を搭載した、物流専用ドローンとして高い飛行性能を持った機体になっている。機体が傾いても重心の位置が変わらない機体構造になっており、これによって最適なエネルギー効率で飛行が可能であるという。更に、ボディの中に荷物を入れることができるので、ドローンの下にかごを付けて荷物を配送する場合と比較して、空気抵抗が少なく前に飛行することに特化した形状になっている。

現状は荷物がない状態で50分の飛行を実現しており、通常の回転翼ドローンと比較して高い性能を持っているそうだ。

AirTruckと、KDDIスマートドローンのモバイル通信、運航管理を組み合わせることで、長距離物流を可能にし、最適な地域配送ソリューションを実現する取り組みを進めているという。KDDIスマートドローンは、「AirTruck Starter Pack」というドローン物流パッケージとして地域配送ソリューションを提供しており、様々な自治体への導入を進めているところだとした。

ドローン物流は陸送との連携が非常に重要であるという。ドローン単体での輸送だと、強い風が吹いているときに輸送ができなかったりコスト効率が最適化されなかったりすることは、取り組みを進めている中でも確認できているそうだ。トラックで運べるところはトラックで運び、トラックで運ぶには非効率な場所はドローンで運ぶというように棲み分けを行うことで、ドローンとトラックのコンビネーションでコスト効率を最適化していくということが重要だ。

現在、エアロネクストとセイノーホールディングスと共に、地域に配送拠点を構築し、地域配送を集約することで輸送量をあげ、ドローンとトラックによる配送によってビジネスモデルを実現する、「SkyHub」という取り組みを進めている。

SkyHubも様々な自治体に導入を進めており、2022年3月には、新潟県阿賀町でSkyHubの実証を行い、有効性を確認したという。

監視・測量

博野氏は、工事現場やインフラ設備、河川といったような安全を守る部分に、ドローンが適していると考えているとした。

講演では、日本の大規模インフラ工事を担ってきた飛島建設株式会社との取り組みを紹介した。遠隔で離発着し、自動充電ができるドローンを活用して、地表面のモニタリングを行うという取り組みだ。

同取り組みでは、自動充電ポート付きドローン「G6.0&NEST」を利用している。屋外に常時設置できるドローンポートとモバイル通信を利用することで、完全無人で広範囲の監視業務が可能になっている。

モバイル通信で遠隔操作し、上空から地表面に異常がないかを大まかに確認することができるそうだ。また、上空で撮影した写真を自動でアップロードし、3Dモデリング化することで地表面を画的に計測する実証試験も行っているという。

点検

風力発電設備の点検では、昨年度67基の風力タービンの点検を実施した。
風力発電設備の点検では、昨年度67基の風力タービンの点検を実施した。

点検領域は、ドローンの利活用が浸透してきているそうだ。

インフラ設備の点検は、設備ごとにドローンの飛行方法やデータの分析方法が異なっているので、飛行方法等の最適なソリューションをそれぞれ提案する必要であるということが、今まで数々の実証や点検を行ってきた中で感じていることだという。

KDDIスマートドローンでは、インフラ設備ごとに最適なソリューションを提供するためのソリューションパッケージを提供している。

例えば、風力タービン点検では、現状は人によるロープワークの点検が主流になっている。風力発電設備にロープを垂らして、人が1日作業で点検を行っているという。人災リスクも高く過酷な労働環境になっているため、これをドローンで代替するという取り組みを行っている。

一昨年から取り組みを開始し、昨年は電源会社の風力発電設備67基の点検を実施しその有効性を確認したという。

また、水力発電設備点検では、昨年度、全国40ヶ所のダム点検を行い、ドローンによるダム点検のノウハウを蓄積してきているところだという。

点検結果として、3D化されたダムの点検映像を納入している。これにより、点検作業者が見たい場所を必要な解像度で確認できるので、設備保全の効率を大幅に高めることができることが確認できているとした。

特にダムは、壁面が曲面などの複雑な形状をしているので、点検データを取るための飛行が難しいそうだ。そこで、KDDIスマートドローンでは、自動で複雑な構造物の飛行ルートを作成するシステムを用いて、ダムの全景データを作成する手法を開発しており、これらを活用して水力発電の点検ソリューションを提供している。

橋梁点検の領域では、全国に73万ヶ所の橋梁があり、多くが50年以上前に構築され、老朽化が進んでいると言われている。そうした橋梁点検の効率化にもドローンを活用していきたいと考えているという。

KDDIスマートドローンは、株式会社補修技術設計と協業し、橋梁のコンクリートのヒビやサビをもれなく正確に検出し利用者にデータとして提出している。現時点は検知を人手で行っているそうだ。AIによる検出も検討を続けているが、100%の精度で検出することが難しく、1%でも見逃してはいけないということもあり人手での検出を行っているそうだ。まずは人とAIのコンビネーションで100%の検知率を実現し、そこからAIによっていかに点検作業を効率化するかという取り組みを進めている。

高性能自律飛行ドローンSkydio2+

点検領域に強いドローン「Skydio2+」
点検領域に強いドローン「Skydio2+」

橋梁の点検領域において、KDDIスマートドローンはSkydio社の提供するドローンを多く活用している。Skydio社は北米のドローンメーカーで、AIを活用した高精度な自律飛行が可能なドローンを提供している。

Skydio社のドローン「Skydio2+」は、搭載しているカメラの映像から自己の位置を推定できるようになっている。そのため、屋内や橋梁下などの非GPS環境でも自律飛行が可能だ。点検に必要な制御アプリケーションや分析アプリケーションも用意されているため、点検領域に強いドローンであると言えるだろう。

Skydio社の機体をより安心して使ってもらうために、KDDIスマートドローンでは、Skydioあんしんサポートを提供している。操縦者講習や機体保証サービス等を提供しており、顧客がSkydio2+を無理なく導入するために必要なサービスになっている。このようなサービスを提供することで、さらに点検領域にドローンを広めていく狙いがあるという。

必要な機能をカスタムで提供するスマートドローンツールズ

顧客が必要なオプションをカスタムで組み合わせられるスマートドローンツールズを提供している。
顧客が必要なオプションをカスタムで組み合わせられるスマートドローンツールズを提供している。

KDDIスマートドローンでは、これまでのユースケースで紹介してきたトータルソリューションの他に、様々な機体と必要な機能をカスタムで組み合わせて提供するスマートドローンツールズというサービスがある。モバイル通信と運航管理、クラウドをパッケージ化し、さらに設備会社の保険を無償で付帯して、利用者が必要に応じて追加オプションを選んでカスタムできるサービスになっている。これにより、顧客のスキルや固有アセットにあわせたドローンの導入を進めることができる。

インターネットにつながるドローンの拡充のための通信モジュール

現在、KDDIスマートドローンでは、4社の機体がモバイル通信につながり、遠隔制御できるようになっている。今後インターネットにつながったドローンを増やすために、ドローン専用モジュールの開発をして機体メーカーに提供する取り組みも行っているそうだ。

これまで、通信用モジュールをドローンに搭載した際に、制御用モジュールが発するノイズによって通信品質を劣化させてしまうという課題がわかっている。KDDIスマートドローンは、通信事業者であるため、専門家として、耐ノイズ設計された専用通信モジュールを開発している。このモジュールに運航管理システムに接続するソフトウェアを予め搭載しているため、ドローンの機体メーカーはモジュールを機体に組み込み、SDKを組み込むことで運航管理システムとの連携が可能になる。

通信モジュールの開発を通じて、インターネットにつながるドローンの浸透を、機体メーカーと共に進めているところだとした。

付帯保険

また、KDDIスマートドローンでは、これまで顧客から飛行時の事故対応を相談されることが多かったそうだ。

今回、運航管理システムを利用している顧客には、事故があった際の施設賠償保険を無償で付帯しているという。運航管理システムによって飛行状態が常にクラウドに保管されるので、ドライブレコーダーと同様の役割を運航管理システムが果たすため、事故発生時の責任の明確化ができるようになるからだ。

この取り組みも、ドローンがインターネットにつながっていることで生まれた付加価値の1つであり、付加価値を具現化したサービスだということだ。

レベル4で実現する未来を叶える技術

KDDIスマートドローンでは、技術革新はドローンの可能性を大きく広げることができると考えているという。講演では、いくつかの技術的な取り組みについても紹介した。

水空合体ドローン

水空合体ドローンは水中ドローンを着水ポイントまで遠隔操作で運搬することができる。
水空合体ドローンは水中ドローンを着水ポイントまで遠隔操作で運搬することができる。

水中ドローンは水中や海中の点検という領域で活用が始まっている。これまでは水中ドローンを着水させるポイントまでは人がボート等で運んでおり、コストや工数が課題になっていた。

そこで、水空合体ドローンが検討されているという。運航管理システムとモバイル通信を活用したスマートドローンが水中ドローンを担いで着水ポイントまで運搬していく。海表面で水中ドローンを離し、水中の点検を行うという形だ。水中ドローンの操作も、モバイル通信を活用して、遠隔から実現できるため、操作する人が陸上にいながら海中やダムの点検が可能だ。

2022年2月には水空合体ドローンの実証を外洋で初めて行ったが、波が高くなったことで水中ドローンを運搬していたドローンが流されてしまい、水中ドローンが引っ張られてうまく点検ができなかったというトラブルがあったという。このような状況においても点検を実施できるような技術開発と改良を進めており、今年度中の商用化を目指しているそうだ。

Starlinkと連携して実現する衛星通信

ドローンがネットワークに繋がる時代においても、人が住んでいないような山間部はモバイル通信が届いていないエリアがある。モバイル通信のエリアを広げていく活動は通信事業者として引き続き実施していく必要があるが、モバイル通信の基地局を設置する上で課題になるのは、基地局から設備までの通信手段をどう確保するかということだ。

通常は光回線を利用するが、山間部等では光回線が引けないエリアもある。このようなエリアで通信路を確保するために衛星通信を利用する取り組みを進めている。

KDDIスマートドローンは、昨年度スペースX社が提供するStarlinkと業務提携を行った。Starlinkが提供する高速大容量の衛星通信網を基地局のバックホールに活用する取り組みを進めているという。これによりモバイル通信のカバーエリアが拡大するため、ドローンの遠隔で利用できるエリアも拡大する。今後、インターネットにつながるドローンを活用できるエリアを更に拡大していきたいとした。今後は、衛星基地局とスマートドローンのパッケージソリューションをモバイル通信事業者ならではのサービスとして提供していきたいと考えているそうだ。

レベル4の実装に向けた空の道の管理

レベル4を実現するためには遠隔での飛行制御の他に、空域管理をする機能が必要である。
レベル4を実現するためには遠隔での飛行制御の他に、空域管理をする機能が必要である。

レベル4の時代では、遠隔で制御するための飛行制御機能に加えて、飛行の衝突や空域を管理する空域管理機能が必要になる。ここに、様々な事業者のシステムを接続して、他事業者のドローンでも衝突が発生しそうな場合は事業者間にアラートを通知する等、統合的な運航管理を実施する必要がある。

経済産業省のプロジェクトにおいて、空域の管理機能をKDDIスマートドローンの運航管理システム上に実装して、他事業者との接続を推進してきているところだという。同システムを用いた2021年10月に行った実証では、全国13地域52機のドローンを使用して、レベル4の運航管理に向けた課題抽出を行った。

システムは運用上問題ないことを確認できたそうだが、機体同士が接近しアラートを発信した際の、各事業者の回避行動の取り方や、回避行動の優先順位の決め方等の運航ルールを構築していかなければ、レベル4の空の管理ができないことを認識したという。

KDDIスマートドローンでは、日本航空と協業し、日本航空の持つ航空安全技術や知見を運航管理システムに適用することで、レベル4に向けた運航管理体系を構築しようとしている。

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